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半年後・君は春の夢
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しおりを挟む「要一は才能があるんだからプロのバイオリニストにだってなれるはずなんだ。
なのに要一にはもうその気はなくって、将来は会計士になって、ずっとこの病院にいるんだって。
……もったいないって思うけど、でもヤッパリ嬉しいよ。要一なしで、俺一人でやっていけそうにないもん。要一がいてくれないと……」
ああこんな話、情けない上に自慢ばかりだ。久しぶりに要一に怒られて、その胸騒ぎのおさまりがつかずに、余計なことを口走ってしまった。
だけど、話を聞いていた波瑠は、気を悪くするどころか、目を輝かせ大きくうなずいてくれた。
「要一くんは正真くんのかけがえのない相棒ってことだね。すごく憧れるな。それに俺も、要一くんみたいに正真くんのこと応援したくなっちゃった」
「そう……?」
手を取られてぎゅっと握られて、照れ笑いすると波瑠も嬉しそうに笑っている。
──それにしても、手が冷たい。
「ありがとう。……でも今はこんなこと話してる場合じゃなかったよね。引き止めちゃってごめん。そろそろ行こっか」
「ええー……」
波瑠はどこか場所をかえてもう少し話せないかと渋っていたけれど、そうはいかない。
「ちゃんと検査を受けて帰って」と説得して、検査の受付まで連れて行った。
幸い検査は混んでいなかった。すぐに波瑠の番がくるはずだ。
ここで別れるつもりだったけれど、かすかに緊張し始めた波瑠を見たらなんだかほっておけなくて、正真も一緒に順番を待つことにした。
並んで座っている間に、波瑠がコンサート中に客席からステージを撮影した写真を見せてくれた。
本当は撮影行為は違反なんだけど、どれもスマホで撮ったとは思えないくらい上手で、つい注意
もせずにじっくりと見せてもらった。
ステージの上の要一が淡い光に包まれて、微笑みを浮かべてバイオリンを奏でている。
正真はあまり要一の写真を持っていない。写真を撮ろうとすると要一が嫌がって許してくれないからだ。
写真が欲しくなって、波瑠にお願いすると、波瑠はすぐに正真のアドレスに送ってくれた。
一人での帰り道、その要一の写真をみながら、正真は要一へのメッセージを打った。
『正真です。今日はごめんなさい。あとで電話していい?』
要一からの返信はすぐに来た。
けれど、すごく冷たくて『忙しい』とだけだ。
「ええ……」
話もさせてくれないなんて、さすがに怒りすぎじゃないかと呆れて、その後はだんだん心配になってきた。
そもそも、要一が正真を置いていくなんて滅多にないことだ。
素直じゃない要一は、正真を叱ったあと嫌われていない確認がしたくて、正真からのご機嫌とりを待っているフシがある。
要一はものすごく賢いくせに、そういうところは子供だ。
今日だって、要一が先に帰ってしまわなければ、正真からなにか、要一が気に入りそうなことを誘うつもりだった。
要一だって予想はついていたはずなのに、何故いなくなってしまったんだろう。
「…………」
電車に揺られながら考えるうちに、だんだんイヤな予感がしてきた。
要一は平気なフリが上手いけれど、本当は今、調子が良くない。
昔から神経質で追いつめられやすかったけれど、とくに過敏になっていて、学校も新年度まで休んで、自宅学習にしている。
(こんなにそっけないのはやっぱり変だし、もしかしたらまた体調が悪いのかもしれないな。
波瑠さんのことばっか見てたけど、考えてみれば、要一も顔色が悪かったかも……?)
怒っている表情以外、どうだったか、よく思い出せない。
もっと要一の様子に気をつけておくべきだった。
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