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おまけ「ユートより愛を込めて」・「金糸の寝床表紙 」
ユートより愛を込めて
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電気ケトルのお湯が湧いた。
『いいか。ユートは包丁や火には絶対に触るな。ユートがキッチンで使って良いのは、電気ケトルとレンジだけ。くれぐれも火傷しないように気をつけるんだよ』
(はぁい……)
注意されすぎたせいでユートはキッチンにくると必ず成吾の幻聴が聞こえる。
言われた通り集中してケトルのお湯をコップに注いだ。ふんわりと湯気がたち無事にホットココアの出来上がり。
溢さないようにこれまた慎重にソファへ進んで、そおっと座る。
「疲れたぁ……」
ふうっとユートは肩の力を抜いた。
たったいま成吾が出勤していったところだ。
今朝はいつも以上に慌ただしかった。まず寝坊して成吾に起こしてもらったときには一時間も経っていたし、あわてて着替えてリビングに入ったら、なんと窓の外が一面雪景色。巣にUターンしてどこかにあるはずの成吾のマフラーを探し回った。
マフラーなんていらないと言う成吾を必死で引き止めて、どうにか巣の奥底から見つけ出し首に巻いた。息切れしながら行ってらっしゃいのキスをして、時間ぎりぎりでお見送り。
(まったく。成吾さんは医者で僕には心配性なくせに、自分のこととなると面倒くさがるんだから。もし風邪なんか引いたらどうするの……)
ユートのいるリビングは空調が効いて暖かいけれど、外の雪は止む気配がなく、高層階のこの部屋の景色はまるでスノードームを覗き込んでいるようだ。車とはいえ、大学病院へと向かった成吾もどうか寒くありませんように。
「さてと……」
祈りを終えたユートは窓の外から手元のホットココアへと視線を下げた。
本日2月14日はバレンタインデーであり、出会って初めての成吾のバースデー。どうお祝いするか、一ヶ月以上前から悩んで、やっと昨日決めた。
すぐにでも準備を始めたいところだが、自分は張り切れば張り切るほど、空回りして失敗する。だからまずはこうして大好きなココアで心を落ち着けるところから────。
2ヶ月前の12/24はユートのバースデーだった。クリスマスイブにくっついているせいで皆に忘れられがちだったその日を、成吾は盛大に祝ってくれた。
大輪のバラが所狭しと飾られた部屋でシェフを招いてのフレンチディナー。終盤には、ユートの好きなイチゴがたっぷりで、見上げるほど大きい3段ケーキが運び込まれた。
二人で飾ったクリスマスツリーの前に成吾がひざまずいて、やっと出来上がったというエンゲージリングと二人の結婚指輪をそっと差し出したとき、ユートは一生分泣いた。が、用意周到な成吾はその涙も引っ込むプレゼントまで用意していた。
インテリアの一つとばかり思っていたグランドピアノ。そこに成吾が着席して「アメイジング・グレイス」を弾き出したとき、ユートは今度こそ夢を見てるのかと思った。成吾がピアノを弾けるなんて知らなかったし、とても上手でかっこよくて、不意打ちのウィンクには失神寸前。腰が砕けてへたりこみ成吾に抱き上げてもらった。
(──はうっ、だめだめ!! 思い出に浸ってるとまた夜になっちゃうから!!)
我に返ったユートは、いつの間にか冷えきっていたココアを一気に飲みきって立ち上がる。
お金持ちで人脈も経験も豊富な成吾と違って、ユートにやれることは限られている。成吾のカードで買い物は自由にできるもののユート個人にお金はないし、成吾の言いつけで、外出や他人との接触は禁止だ。
まずディナーとケーキの準備。これは、毎日デリバリーを頼んでいるレストランにお願いした。代わり映えはしないけど、ユートは他を知らないし、おいしいのはよく分かっているから迷いはない。ケーキは誕生日用だと伝えたら、キャンドルの他にお店からのサービスで、キラキラの紙吹雪が入った風船を何個も届けてくれたので、ユートはあまり力の入らないお腹に苦労しながらも一つずつ膨らませていき、部屋を飾りつけた。
お昼ごはんを食べてすこし休憩した後は、ユート専用のクローゼットへ。成吾が色々と買ってくれるので広いスペースにも関わらず、ぎゅうぎゅうに詰まっている。
潜り込むようにして一番奥から取り出したのは100円玉2枚。成吾に拾われたとき、ユートが握りしめていた全財産で、ぼろぼろの持ち物は成吾に捨てられてしまったけど、このお金だけはずっと手元に残っていた。
これでお買い物をする。もちろんユートは出かけられないので専任のコンシェルジュにお使いを頼んだ。30分ほどでスーパーの袋を手にした茅野が現れ、ユートは目当ての物を手に入れた。
ユートが成吾へのプレゼントに決めたのは、バレンタインもかねたチョコレート。成吾はチョコレートが好きで、勉強の合間に口にするため書斎に常備しているくらいだから、きっと喜んでくれると思う。
ユートは何回も深呼吸してそれでもドキドキしながら台所に立った。
≪ユートのせいいっぱい・生トリュフ≫
~材料~
・成吾の書斎のブラックチョコレート1箱
・ユートがいつも飲んでるココアの粉
・買ってきてもらったホイップクリーム2分の1
~手順~
1.チョコレートを手で細かく割り、電気ケトルで沸かしたお湯で湯煎して溶かす。溶けたらホイップクリームをいれてよく混ぜる
2.少し冷ましたあと、スプーンで丸めてココアの粉の中へ。
3.ころころ転がして出来上がり
~注意事項~
火傷は絶対にしないこと
(成吾さん、喜んでくれるかな……)
おそるおそる一つつまんで味見する。外のココアがほろ苦くて、中の生チョコレートは甘くて柔らかくて……。
「うん!」
ユートはパチパチと手を叩いた。簡単なレシピとはいえ、ちゃんと美味しく出来ている。怪我もなく火事も起こしていないので、胸を張って成吾に渡せる。
(これで少しは僕を認めて、包丁と火も使っていいって言って貰えますように……)
ユートはトリュフに期待を込めた。4年間とはいえ一人暮しをしていたユートは、自炊の経験もあるし、居酒屋やスーパのバイトの経験もあって、簡単なものなら作れる。でも成吾が、その時にできた腕中に残る火傷の跡や包丁で深く切った傷跡を嫌がって、ユートを料理禁止にしてしまった。
もうすぐ子供たちも生まれてくるんだからこれをきっかけに、朝ごはんくらいはデリバリーじゃなくて、ユートが作ってあげたい。今さら些細な怪我なんてどうってことないし、練習を積めばきっと上手になるはず……。
(成吾さんがトリュフを「おいしい」って言ってくれたときが交渉のチャンス! もし僕が成吾さんへの愛妻弁当を毎日用意できたら、成吾さんだって嬉しいでしょ……?)
えへへ、と笑いながらユートは下心入りの生トリュフをお皿の上にハート型に並べた。そしてそのテーブルの下に入って、クラッカーで成吾を驚かせる準備もOK。
成吾が帰ってくるのをわくわくして待っている。
end. ありがとうございました。
『いいか。ユートは包丁や火には絶対に触るな。ユートがキッチンで使って良いのは、電気ケトルとレンジだけ。くれぐれも火傷しないように気をつけるんだよ』
(はぁい……)
注意されすぎたせいでユートはキッチンにくると必ず成吾の幻聴が聞こえる。
言われた通り集中してケトルのお湯をコップに注いだ。ふんわりと湯気がたち無事にホットココアの出来上がり。
溢さないようにこれまた慎重にソファへ進んで、そおっと座る。
「疲れたぁ……」
ふうっとユートは肩の力を抜いた。
たったいま成吾が出勤していったところだ。
今朝はいつも以上に慌ただしかった。まず寝坊して成吾に起こしてもらったときには一時間も経っていたし、あわてて着替えてリビングに入ったら、なんと窓の外が一面雪景色。巣にUターンしてどこかにあるはずの成吾のマフラーを探し回った。
マフラーなんていらないと言う成吾を必死で引き止めて、どうにか巣の奥底から見つけ出し首に巻いた。息切れしながら行ってらっしゃいのキスをして、時間ぎりぎりでお見送り。
(まったく。成吾さんは医者で僕には心配性なくせに、自分のこととなると面倒くさがるんだから。もし風邪なんか引いたらどうするの……)
ユートのいるリビングは空調が効いて暖かいけれど、外の雪は止む気配がなく、高層階のこの部屋の景色はまるでスノードームを覗き込んでいるようだ。車とはいえ、大学病院へと向かった成吾もどうか寒くありませんように。
「さてと……」
祈りを終えたユートは窓の外から手元のホットココアへと視線を下げた。
本日2月14日はバレンタインデーであり、出会って初めての成吾のバースデー。どうお祝いするか、一ヶ月以上前から悩んで、やっと昨日決めた。
すぐにでも準備を始めたいところだが、自分は張り切れば張り切るほど、空回りして失敗する。だからまずはこうして大好きなココアで心を落ち着けるところから────。
2ヶ月前の12/24はユートのバースデーだった。クリスマスイブにくっついているせいで皆に忘れられがちだったその日を、成吾は盛大に祝ってくれた。
大輪のバラが所狭しと飾られた部屋でシェフを招いてのフレンチディナー。終盤には、ユートの好きなイチゴがたっぷりで、見上げるほど大きい3段ケーキが運び込まれた。
二人で飾ったクリスマスツリーの前に成吾がひざまずいて、やっと出来上がったというエンゲージリングと二人の結婚指輪をそっと差し出したとき、ユートは一生分泣いた。が、用意周到な成吾はその涙も引っ込むプレゼントまで用意していた。
インテリアの一つとばかり思っていたグランドピアノ。そこに成吾が着席して「アメイジング・グレイス」を弾き出したとき、ユートは今度こそ夢を見てるのかと思った。成吾がピアノを弾けるなんて知らなかったし、とても上手でかっこよくて、不意打ちのウィンクには失神寸前。腰が砕けてへたりこみ成吾に抱き上げてもらった。
(──はうっ、だめだめ!! 思い出に浸ってるとまた夜になっちゃうから!!)
我に返ったユートは、いつの間にか冷えきっていたココアを一気に飲みきって立ち上がる。
お金持ちで人脈も経験も豊富な成吾と違って、ユートにやれることは限られている。成吾のカードで買い物は自由にできるもののユート個人にお金はないし、成吾の言いつけで、外出や他人との接触は禁止だ。
まずディナーとケーキの準備。これは、毎日デリバリーを頼んでいるレストランにお願いした。代わり映えはしないけど、ユートは他を知らないし、おいしいのはよく分かっているから迷いはない。ケーキは誕生日用だと伝えたら、キャンドルの他にお店からのサービスで、キラキラの紙吹雪が入った風船を何個も届けてくれたので、ユートはあまり力の入らないお腹に苦労しながらも一つずつ膨らませていき、部屋を飾りつけた。
お昼ごはんを食べてすこし休憩した後は、ユート専用のクローゼットへ。成吾が色々と買ってくれるので広いスペースにも関わらず、ぎゅうぎゅうに詰まっている。
潜り込むようにして一番奥から取り出したのは100円玉2枚。成吾に拾われたとき、ユートが握りしめていた全財産で、ぼろぼろの持ち物は成吾に捨てられてしまったけど、このお金だけはずっと手元に残っていた。
これでお買い物をする。もちろんユートは出かけられないので専任のコンシェルジュにお使いを頼んだ。30分ほどでスーパーの袋を手にした茅野が現れ、ユートは目当ての物を手に入れた。
ユートが成吾へのプレゼントに決めたのは、バレンタインもかねたチョコレート。成吾はチョコレートが好きで、勉強の合間に口にするため書斎に常備しているくらいだから、きっと喜んでくれると思う。
ユートは何回も深呼吸してそれでもドキドキしながら台所に立った。
≪ユートのせいいっぱい・生トリュフ≫
~材料~
・成吾の書斎のブラックチョコレート1箱
・ユートがいつも飲んでるココアの粉
・買ってきてもらったホイップクリーム2分の1
~手順~
1.チョコレートを手で細かく割り、電気ケトルで沸かしたお湯で湯煎して溶かす。溶けたらホイップクリームをいれてよく混ぜる
2.少し冷ましたあと、スプーンで丸めてココアの粉の中へ。
3.ころころ転がして出来上がり
~注意事項~
火傷は絶対にしないこと
(成吾さん、喜んでくれるかな……)
おそるおそる一つつまんで味見する。外のココアがほろ苦くて、中の生チョコレートは甘くて柔らかくて……。
「うん!」
ユートはパチパチと手を叩いた。簡単なレシピとはいえ、ちゃんと美味しく出来ている。怪我もなく火事も起こしていないので、胸を張って成吾に渡せる。
(これで少しは僕を認めて、包丁と火も使っていいって言って貰えますように……)
ユートはトリュフに期待を込めた。4年間とはいえ一人暮しをしていたユートは、自炊の経験もあるし、居酒屋やスーパのバイトの経験もあって、簡単なものなら作れる。でも成吾が、その時にできた腕中に残る火傷の跡や包丁で深く切った傷跡を嫌がって、ユートを料理禁止にしてしまった。
もうすぐ子供たちも生まれてくるんだからこれをきっかけに、朝ごはんくらいはデリバリーじゃなくて、ユートが作ってあげたい。今さら些細な怪我なんてどうってことないし、練習を積めばきっと上手になるはず……。
(成吾さんがトリュフを「おいしい」って言ってくれたときが交渉のチャンス! もし僕が成吾さんへの愛妻弁当を毎日用意できたら、成吾さんだって嬉しいでしょ……?)
えへへ、と笑いながらユートは下心入りの生トリュフをお皿の上にハート型に並べた。そしてそのテーブルの下に入って、クラッカーで成吾を驚かせる準備もOK。
成吾が帰ってくるのをわくわくして待っている。
end. ありがとうございました。
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