霧の如く 〜誰よりも強くなって好きに生きる〜

bowman

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新たな旅路と出会い

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もっぱらのルーティンワークになっている、いつもの日記に最近あった事を書き込んで本を閉じた。

 小さくため息を吐いて

「さてと」

 この辺りは5年ほど住んだこともあって非常に愛着が湧いている。
 住みやすさを追求するあまり城壁のような物で小屋を囲ったり、薬草を調合するのにハマって畑を作ったり、湖に釣り堀を作ったり、動物の鳥を飼ったり、動物に名前をつけて。
とにかく愛着が強い。

 が、離れれば1年もしないうちに朽ち果てるだろう。ここはそんな場所だ。
 しかしこのまま死ぬまで此処で過ごす事は、逃げてるだけに思えて、前世の両親や現世の母に申し訳がたたない。
 だから全てを捨てて、人間の生活に戻るのだ。少なくとも生き抜く、あがらうだけの力は持ったはずだから。

「よーし。鳥ピー達を解放したか?」    

 キキッ 相変わらず可愛い返事だ。
○ョッカーに聞こえてきて、さらにウケる。

「今の俺なら走って10日もあれば人里に出ると思うが、もしもキリが霧化出来れば1日で着くけどね」

 霧化も奥が深く周辺に広く霧を発生させて、さらに全身を全て霧化することで、霧から霧へ瞬間的な移動が可能となったのだ。
 もはや暗殺者もびっくり状態。

「キリ、移動中はつまらないだろうし、服の中で寝てなよ。その代わり俺が寝る時は警戒を頼む」

 キキッ。
うむ。少し黒い服を着せてみるか。

「たしかこの森はオリンポス王国とガイア帝国、アメリア皇国の3国の中心だったはずだから、元父親が所属してるガイア帝国は論外として、オリンポスかアメリアか。コイントスで表が出ればオリンポスで裏ならアメリアにしよう」

 ゴブリンの集落を潰した時に得た金貨をピンと親指で弾いて地面に落とした。

「表だからオリンポスか。とすると、多分こっちの方向だな。じゃー出発しますか」





 急ぎ移動したいこともあって、スキルの威圧を使った事で、偶然的な戦闘以外は無くスムーズに森を横断した。

「おっ! 村が見えた。ちょっと不安だけど、立ち寄ってみるか」

 キリは少し不安そうなライムに毛繕いを始めた。

「ありがとうな。キリがいるから大丈夫だよ」

 キキッと嬉しそうにはしゃいでいる。
気を引き締めて門番にいる人に声をかける。

「ごめんください」

「むっ。何ヤツだ?」

「あっ。えーっと、森で迷子になりまして、、」

 話しかける前に設定を決めてなかったから、しろどもどろな返答になってしまった。

「この森で迷子だと? で生きてられるわけがないだろ! まさか最近の魔物の襲来はお前仕業か?」

「魔物の襲来? そんなこと出来るわけないじゃないですか」

「では、その肩に乗っているキリングモンキーはどう説明する?」

「コイツはキリといって俺がテイムした仲間です。危険はありません!」
 
 キリの事を悪く言われたようで強い言葉で言ってしまった。

「むっ。キリングモンキーをテイムなど聞いた事がない。まぁよい。今ちょうど王国から森の異変を聞いた騎士様がいらっしゃるから裁量をお任せする。武器を下に置いてしばし待て」

「はぁー。やっぱり立ち寄るのやめたらよかった。逃げていいかな?」

 まさに逃げようと振り返った瞬間。
門が開いて、数人の全身鎧を装備した騎士が呼びかけてきた。

「お前、名はなんという?」

「あっ。えーとライムです。すいません。お邪魔のようですし、アメリア皇国に行きますので失礼します」

「なに?! アメリア皇国のスパイか!」

「えっ? なんでそうなるのかな。違いますよ。確かに怪しいとは思いますが10年ほど森で生活してまして、たまたまオリンポス王国に行こうとなりましたので立ち寄っただけです」

「森で10年? ははははっ嘘をつくのも、もう少し上手くやれんのか? 生きれる訳ないだろう。ええい! 面倒だ! ひっ捕えろ」

 キリが顔を真っ赤にして戦闘モードだ。
こんな人達と関わっていい事ないし、逃げるが勝ちだよね。

 《濃霧》

 辺り一面に濃い霧がたちこめる。
じゃー失敬。

「つくづく人間ってこうも短絡的なんだろ? まぁーこんな怪しい俺を疑う気持ちは分かるけど、会話にならないのは説明のしようがないよね」

 なんてブツブツ言いながら道なき道を進んでいると、「わぁーーー」と子供の悲鳴が聞こえた。

「うっ。子供か。人間とはいえ子供は助けるべきだよね」

 今世では、トコトン人間嫌いになったライムにも子供となると助けたくなる。
悲鳴の方に行くと、馬車が盗賊のような人間に襲われていて大人が応戦している。
 逃げたか、逃がされたか子供がこちらの方に走っていて、すぐ背後には人間が子供を攻撃しようとしている。

 ライムは自分が襲われた事がフラッシュバックし、怒りに震えた。

 一瞬で接近し、盗賊と思われる人間を

 少し吐き気を感じたが、人を殺す事に思ったより罪悪感を感じない自分に驚きつつも、子供に目線を下す。

「大丈夫か?」

「はぁはぁ。ありがとうございます。あっあの」

「なんだ?」

「出来れば、あっちも助けてほしいでしゅ! あっ。ほしいです」

 ライムは悩んだ。さっきは怒りに任せたが少し冷静になると、関わりたくないと思った。

「馬車に母上が! お願いします!」

 母親か。自分の母を少し思い出し、ペンダントを握って

「わかった。けど俺はあまり人と関わりたくない。厄介ごとはごめんだぞ?」

「あい! 僕の命にかえて誓います」

 こんなに小さい子供なのに。。
5歳といったところか。仕方がない。

「わかったよ《濃霧》」

 《霧化》

 もう殺すのも嫌だし、峰打ちというか剣のヒラ面で賊の腹を強打し意識を奪っていく。
両者共に濃霧で混乱しているようで、あっさり10人ほどの賊を倒して霧を納めた。

「何ヤツ!」

「おいおい。俺はあっちの子供にお願いされて助けた側だぞ。謝礼はいいし、俺はここから立ち去るから安心しろ」

「お兄ちゃん待って!」

「面倒ごとはごめんだと約束しただろ?」

「はい! 命に変えても! しかし厄介ごとじゃなければいいですよね?」

「おっ。えっ? 確かに、、」

「約束しましたから少しお待ちください」

 聡い子供だ。18歳と前世20数年の俺を手玉に、、要するに俺がバカなだけか?

「お母様! ご無事ですか?」

「アイン! 無事なのね?」

 母親と思われる女性は、その場で泣き崩れた。子を想う母とはこのようなものなのかと、少し目頭が熱くなる。

「お母様。あのね、あのお兄ちゃんが僕を助けてくれて、それでね、あのね、お母様を助けてってお願いしたら、助けてくれたの! でね。厄介ごとはしないって命の約束をしたから、絶対に厄介なことをしてほしくないから、えと」

「アイン落ち着きなさい。いつもゆっくり話なさいと言ってるでしょ。ちゃんとわかりましたから。あのワタクシはオリンポス王国辺境伯の妻、サーラ・キュロスと申します。そしてこの子は息子のアインです。この度は命を救って頂き感謝の言葉もございません。ありがとうごさいました」

 母子揃って深々と頭を下げている。
ライムは少し驚いてしまった。自分の義母と重ねると月とスッポンだ。

「いや。かまわない。俺はこれで失礼する」

「あっ! ザッツ!」

 ザッツという男が弓を数本刺さった状態で倒れてる。

「団長は最初の襲撃で馬車の盾になって・・・・・・」

「サーラさ、ま、もうしわけ、私はこれまで、、不甲斐ない私をお許しくだ、、」

 アインという子供が号泣して、見てられない。貴族は下の者に厳しい姿しか見た事がないのに。この家族は良い人達なんだろうな。

「ふぅ。いいもの見せてもらったお礼だ」

 痛いだろうが強引に弓矢を引き抜く。
全員から一瞬で怒気が溢れ出るが、

 《ハイヒーリング》

「なにをす、、る?」

 団長は穏やかな呼吸を取り戻し、目をパチクリさせている。

「無理やり治してるから、無理に動かさず栄養をとって安静にしろよ。じゃーこれで」

「お待ち下さい!」

「いや。だから」

 辺境伯夫人のサーラ? が膝をついて

「何卒、何卒、我が領地にお越し頂けませんか? もしが起こりましたら、ワタクシの命に変えてお詫び致します。ですので、一度だけチャンスを頂けませんか。主人のゼット・キュロスの名代として、伏してお願い致します」

 騎士団と思われる人達も全員が膝をつき首を垂れている。

 これには流石のライムも驚愕してしまった。
この世にはこのような人達もいるのかと。
 そして貴族がこのように頭を下げる事はあり得ない事を、元貴族であるライムには痛いほど理解してしまっている。

「わっわかった。わかりましたから頭を上げてください」

 信頼には信頼を。誠意には誠意を。
疑心暗鬼な今のライムには、少し眩しい出来事となった。


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