Re*Birth

星乃泪

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第1章

第1話 プロローグ。

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  過去と他人は変えられない。しかし、いまここから始まる未来と自分は変えられる。

  とある心理学者の有名な言葉だ。
  今この瞬間にも過去は着々と現在を蝕んでいく。それでも過去は未来まで辿り着くことはできない。だから過去になる前のその未来を掴み取るんだ。
  こうして抗うことをやめたのはいつからだっただろうか。
  真っ赤に染まった空を見上げ、彼は短く息を吐いた。肺は潰れ、上手く呼吸をすることもままならない。鼓膜は破れ、周囲の音は殆ど聴こえない。もっとも、聴こえるとしても残火がチラチラと悲鳴をあげる程度だろうが。
  壊れかけの身体をゆっくりと動かしなんとか立ち上がるが、周囲には自分以外に動くものなど見当たらないのは明白だった。

  「また、独りぼっちか」

  いつしか口癖となってしまった言葉を静かに呟く。慣れというのは怖い。独りを心底嫌っていた筈なのに、この言葉を呟き始めてからは独りでいることになんの抵抗もなくなってしまっていた。
  生存者はいないとわかっていながらも、渋々辺りを散策する。大抵の人間なら吹き飛んだ衝撃で身がバラバラになっているケースが多いが、彼らは例外だ。なんせ普通の人間とはつくりが違うのだから。
  一人、また一人と確認するも、やはり息をしている様子はない。遂に最後の一人を確認するまでとなってしまった。軽く瓦礫を除け、息があるか確認する。

  ーーだめか。

  そう思いかけた瞬間だった。確認する為に伸ばしていた手が彼女の方へ吸い込まれる。弱々しく握られたその手に、一瞬悪寒が走った。

  「……救って……」

  耳元で小さく囁くその言葉を最期に、彼女の掴む手から力が消えてゆくのを感じた。
  一瞬希望が見えたと思いきや、なんだよそれ。しかも救ってって何をだよ。目の前の人間一人救えずに一体何を救えというのだ。
  不意に彼の口から笑みが溢れる。この状況に笑えたのか、それとも生きていたことに喜びを感じたのか、彼自身には到底わからない。ただ一つ理解したことは、彼女との別れが笑えるほど悲しいという事だった。感情なんてとっくに麻痺していると思っていたが、案外まだ機能していたらしい。少年の瞳から大粒の涙が流れ落ち、彼女の額に当たっては弾ける。気付けばそれは自分の涙ではなく、冷酷な雨へと一変していた。そんな心にも似たそれを浴びながら、静かに彼は決意する。

  上等じゃねぇか。全部まとめて救ってやるよ。
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