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複雑な家庭事情
第二十三話 報復
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目的地は山奥にあった。人を寄せ付けない急峻を誇るモンブラン山、革命の英雄の名を冠した山に入るには、秘された山道を知っていないといけない。
そこは宗教的な禁足地を示す緑に塗られた木の看板があった。モンブラン一家は、温泉地からの迎えの者がその看板を取り外したのを待って、その道に入っていく。
例えお金をどれだけ積もうと、ここから先は馬車では入れない。山道に馬車は走れないというのも理由の一つだが、それ以上の重要な理由がある。
この温泉地は、かつてのメストス階級(前作で打倒された特権階級)の負の遺産でもあるのだ。この温泉地の建設にたくさんの黒肌の民が使役され、急峻な山道で多くの人間が滑落死した。その過ちを忘れないよう、この温泉地を利用する者は自分の足で山道を行く。
そういう事情はあるにはあるが、だからこそ、とも言えるかもしれない、ここは人目を忍んで羽を伸ばすにはうってつけの場所でもある。山道もある程度整備され、危険な場所は今はほとんどなくなった。
視界が開け、先ほど歩いてきた方向が一望できた瞬間には、さすがのロンも感動のため息をついた。そしてそれは、一行が宿泊する宿に着いたということでもあった。
「さぁ、お荷物をお預かりしましょう」
迎えの者がロンたちの持ち物に手を差し伸べた。レオは、その時ただならぬ違和感を感じた。
「待て」
「どうしたんですか、レオさん」
マリアもロンも、迎えの者——に化けたゴロツキの、小さなミスに気付けなかった。
「貴様、制服の襟のボタンは最後まで留めないのがこの旅館の規範だったはずだが、変わったのかね」
冷たい声色に、マリアは顔色を青ざめさせるばかりだったが、ここでロンは気がついた。制服の襟の質問は、罠であると。
「は、申し訳ございません。すぐに直します」
レオが目配せした。ロンはマリアの手を引いて、今来た道を駆け下ろうとする。マリアは状況が読めないままに、突っ立ったままのレオを気遣って足を前に進ませない。必然的に、マリアの足はもつれ、山登り用にそれほど長くはなかったはずのスカートの裾に躓いてしまった。
「マリアさん!」
「ロン……何がどうなっているの!?」
ロンはレオたちがいる少し離れた場所に聞こえないような小さな声で、手早くマリアに告げる。
「レオさんはきっともっと前から宿が乗っ取られていたことに気付いていたんです。あいつらは偽物——制服の襟のボタンはきっと今も最後まで留めるんでしょう」
マリアは少しの時間の後に、一層その白い顔を白くさせた。
「宿が——乗っ取られた!?」
「——きっと僕が狙われているんだ」
ロンの独り言をマリアは確かに聞いた。そして、やっとある可能性に思い当たる。
「郊外の道で遭った襲撃から、仕組まれてたっていうの…………?」
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「待て」
「どうしたんですか、レオさん」
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「貴様、制服の襟のボタンは最後まで留めないのがこの旅館の規範だったはずだが、変わったのかね」
冷たい声色に、マリアは顔色を青ざめさせるばかりだったが、ここでロンは気がついた。制服の襟の質問は、罠であると。
「は、申し訳ございません。すぐに直します」
レオが目配せした。ロンはマリアの手を引いて、今来た道を駆け下ろうとする。マリアは状況が読めないままに、突っ立ったままのレオを気遣って足を前に進ませない。必然的に、マリアの足はもつれ、山登り用にそれほど長くはなかったはずのスカートの裾に躓いてしまった。
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「宿が——乗っ取られた!?」
「——きっと僕が狙われているんだ」
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