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新しい町
第十五話 信頼
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師匠はどんな苦しみで死んだんだろう。そればかりを考えていた。
レオさんの働きかけで市長も重い腰を動かし、暴動の中心人物への取り調べが行われた。その人いわく、僕がこの地区に逃げ込んだのを確認して、師匠を地区の近くでいじめたら僕も出てくるだろうと思ったらしい。
師匠と僕にそれほどの恨みがぶつけられる理由がわからなかった。いや、取り調べでは明らかになっている。やはりレオさんの言うように、自分たち労働者の仕事を奪う機械というものに敵意を抱き、それを導入させた師匠と僕が憎らしかったらしい。
でも、僕はもちろん師匠も、労働者を苦しめたいと思って機械を発明したわけではない。そもそも僕らも似た境遇なのだ、労働者の気持ちがわからないわけがない。
あの日から僕は部屋に引き篭もった。ご飯も喉を通らなかった。どうしてもと言われれば口に含んだふりをして後で吐いたりした。
「本当に、いいのか。せっかく兄上も乗り気になってきたというのに」
「別に……特にありません」
首謀者の処罰をどうするか、なんて僕に訊かれても……。
言いにくそうにレオさんが伝えてくれた、師匠の最期を思い出していた。言いにくそうになるのもわかる。突然転がり込んできたどこの馬の骨かわからないガキの、師匠とかいう保護者の死に様なんて、責任を取る必要はないのに、レオさんは目に涙まで浮かべて伝えてくれた。
師匠は死ぬ間際まで、あいつは山に逃げたはずだと言っていた。僕が師匠の言いつけを聞かずにパニックになってあらぬ場所に逃げてしまったのを、師匠は知らなかったんだろう。なにせ目を潰され、頭を何回も殴られ、意識も朦朧としていただろうからだ。
「無理にでも食べた方がいいわよ。スープを置いておくね」
マリアさん……僕は自分の部屋に誰かが入ってくるのも出ていくのも感知できないようになったらしい。貧民街では一瞬で後ろをとられて殺されるな、と考えると口元が弛む。薄ら笑いみたいになってしまったのか、マリアさんの体が強張ってしまった。
「ーー熱っ」
「きゃぁ! ごめんね! 大丈夫? 怪我してない?」
熱々のスープが膝にかかってしまったけど、気にならない。タオルを探して部屋を出ていってしまったマリアさんを見届けて、僕は部屋の鍵をかけた。
マリアさんを拒絶したいわけじゃない。一人にさせてほしかった。親切も愛情もみんな体にまとわりついて離れない汚物のようだ。
「……ごめんなさい」
そんなことを感じてしまう自分がひどく醜く思える。献身的に世話を焼いてくれる二人に初めて信頼という感情が生まれ、だからこそ、そんな二人に自分は似つかわしくない。
傷つけるくらいなら消えてしまいたい。僕は服の裏側に縫い付けた小刀を腕に押し付けた。
武器を隠しておくなんて、僕の育った街では当たり前のことだったからね。それに小刀さえあれば簡単な故障なら直せるし。
「………………さよなら」
赤い筋が浮き上がった。僕はさらに押し付ける。腕がビクンと痙攣して、赤い液体が流れ出した。僕は吸い込まれるように意識を失った。
レオさんの働きかけで市長も重い腰を動かし、暴動の中心人物への取り調べが行われた。その人いわく、僕がこの地区に逃げ込んだのを確認して、師匠を地区の近くでいじめたら僕も出てくるだろうと思ったらしい。
師匠と僕にそれほどの恨みがぶつけられる理由がわからなかった。いや、取り調べでは明らかになっている。やはりレオさんの言うように、自分たち労働者の仕事を奪う機械というものに敵意を抱き、それを導入させた師匠と僕が憎らしかったらしい。
でも、僕はもちろん師匠も、労働者を苦しめたいと思って機械を発明したわけではない。そもそも僕らも似た境遇なのだ、労働者の気持ちがわからないわけがない。
あの日から僕は部屋に引き篭もった。ご飯も喉を通らなかった。どうしてもと言われれば口に含んだふりをして後で吐いたりした。
「本当に、いいのか。せっかく兄上も乗り気になってきたというのに」
「別に……特にありません」
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言いにくそうにレオさんが伝えてくれた、師匠の最期を思い出していた。言いにくそうになるのもわかる。突然転がり込んできたどこの馬の骨かわからないガキの、師匠とかいう保護者の死に様なんて、責任を取る必要はないのに、レオさんは目に涙まで浮かべて伝えてくれた。
師匠は死ぬ間際まで、あいつは山に逃げたはずだと言っていた。僕が師匠の言いつけを聞かずにパニックになってあらぬ場所に逃げてしまったのを、師匠は知らなかったんだろう。なにせ目を潰され、頭を何回も殴られ、意識も朦朧としていただろうからだ。
「無理にでも食べた方がいいわよ。スープを置いておくね」
マリアさん……僕は自分の部屋に誰かが入ってくるのも出ていくのも感知できないようになったらしい。貧民街では一瞬で後ろをとられて殺されるな、と考えると口元が弛む。薄ら笑いみたいになってしまったのか、マリアさんの体が強張ってしまった。
「ーー熱っ」
「きゃぁ! ごめんね! 大丈夫? 怪我してない?」
熱々のスープが膝にかかってしまったけど、気にならない。タオルを探して部屋を出ていってしまったマリアさんを見届けて、僕は部屋の鍵をかけた。
マリアさんを拒絶したいわけじゃない。一人にさせてほしかった。親切も愛情もみんな体にまとわりついて離れない汚物のようだ。
「……ごめんなさい」
そんなことを感じてしまう自分がひどく醜く思える。献身的に世話を焼いてくれる二人に初めて信頼という感情が生まれ、だからこそ、そんな二人に自分は似つかわしくない。
傷つけるくらいなら消えてしまいたい。僕は服の裏側に縫い付けた小刀を腕に押し付けた。
武器を隠しておくなんて、僕の育った街では当たり前のことだったからね。それに小刀さえあれば簡単な故障なら直せるし。
「………………さよなら」
赤い筋が浮き上がった。僕はさらに押し付ける。腕がビクンと痙攣して、赤い液体が流れ出した。僕は吸い込まれるように意識を失った。
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