2 / 24
機械師ロン
第二話 師匠と弟子
しおりを挟む
街のゴミ捨て場の近くに、鉄屑だらけの粗末な小屋がある。街の住人は日々の暮らしのなかで進んで寄り付くことはないが、家具や家屋の破損がどんな修理士に頼んでもどうにもならなかった場合、すがる思いでこの小屋を訪れるのである。
ただ、この小屋の主人が必ずしもそこにいるとは限らない。彼の一番弟子を自称し、機械いじりしか興味のない住人の身の回りの世話をしているロンという少年も、煙のようにいなくなる住人の行き先に検討もつかないのだ。
「……ということなんで、また明日にでも来てくださいよ奥さん」
「明日明日と何回言われたか! あんたのお師匠さまは一体どこをほっつき歩いてんだい?」
運悪く五日連続で待ちぼうけを食らっている客が、地団駄を踏んでとばっちりのロンに唾を飛ばす。なんでも、窓枠が歪み窓がはまらなくなったお陰で北風が家の中を縦横無尽に駆け回り、生まれて間もない子供が凍えているのだという。
「どこを、と言われましても、私にも皆目検討がつかないのです。また明日来ていただくしか……」
「その必要はねぇよ」
小屋の入り口に立つ影、それこそロンが師と仰ぐメロスであった。
「よく来てくださいました! さぁ早速仕事を」
「まぁそう急ぐな、ロン」
「……?」
メロスは依頼に来た女性を舐め回すように見る。
「幼子が凍えているんだってな」
「そ、そうなのです。北風で困っているんですよ」
「ですから、早く助けて差し上げましょう?」
工具箱を持って準備万端の弟子を、メロスは手で制した。そしてしゃがみ込み、弟子の耳元で二三言葉を紡ぐ。弟子はというと言葉を聞くや目を見開いて驚いた。
「奥さん」
「……はい?」
「ご依頼を聞く限りこっちで多少準備が必要だ。番地を言ってくれればすぐに向かう。先にお宅で待っててはくれんかね」
「な……あなたほどの腕じゃあその工具箱で十分でしょう?」
「……俺は嘘が嫌いだ。存在もしない子供で気を引いてまで、俺が楽にこなせる簡単な仕事を依頼してきたのには訳があるんだろう? 辻褄あわせのために近所の夫婦の子供を借りなくていいのか?」
客の女性は弾かれたように視線をあげ、メロスの顔を見て、すぐに目を逸らせた。
「あんたには関係ないことでしょう……偏屈な男に仕事を持ってきてやったんだから感謝して。黙って修理だけしときゃいいんだよ」
「ああそうだ。俺は偏屈で街の人間の嫌われ者だ。滅多に依頼が来ないもんだから食糧も満足に買えねぇ。だから特別に、癪極まりねぇが嘘つき女の依頼も受けてやるんだ、お前には客の本分がわからんらしいな」
客に喧嘩を売りつけてしまう師匠にロンはタジタジである。ことが長引かないうちに丸く収めようと、腕を組みそっぽを向く師と客をなだめすかすのであった。
ただ、この小屋の主人が必ずしもそこにいるとは限らない。彼の一番弟子を自称し、機械いじりしか興味のない住人の身の回りの世話をしているロンという少年も、煙のようにいなくなる住人の行き先に検討もつかないのだ。
「……ということなんで、また明日にでも来てくださいよ奥さん」
「明日明日と何回言われたか! あんたのお師匠さまは一体どこをほっつき歩いてんだい?」
運悪く五日連続で待ちぼうけを食らっている客が、地団駄を踏んでとばっちりのロンに唾を飛ばす。なんでも、窓枠が歪み窓がはまらなくなったお陰で北風が家の中を縦横無尽に駆け回り、生まれて間もない子供が凍えているのだという。
「どこを、と言われましても、私にも皆目検討がつかないのです。また明日来ていただくしか……」
「その必要はねぇよ」
小屋の入り口に立つ影、それこそロンが師と仰ぐメロスであった。
「よく来てくださいました! さぁ早速仕事を」
「まぁそう急ぐな、ロン」
「……?」
メロスは依頼に来た女性を舐め回すように見る。
「幼子が凍えているんだってな」
「そ、そうなのです。北風で困っているんですよ」
「ですから、早く助けて差し上げましょう?」
工具箱を持って準備万端の弟子を、メロスは手で制した。そしてしゃがみ込み、弟子の耳元で二三言葉を紡ぐ。弟子はというと言葉を聞くや目を見開いて驚いた。
「奥さん」
「……はい?」
「ご依頼を聞く限りこっちで多少準備が必要だ。番地を言ってくれればすぐに向かう。先にお宅で待っててはくれんかね」
「な……あなたほどの腕じゃあその工具箱で十分でしょう?」
「……俺は嘘が嫌いだ。存在もしない子供で気を引いてまで、俺が楽にこなせる簡単な仕事を依頼してきたのには訳があるんだろう? 辻褄あわせのために近所の夫婦の子供を借りなくていいのか?」
客の女性は弾かれたように視線をあげ、メロスの顔を見て、すぐに目を逸らせた。
「あんたには関係ないことでしょう……偏屈な男に仕事を持ってきてやったんだから感謝して。黙って修理だけしときゃいいんだよ」
「ああそうだ。俺は偏屈で街の人間の嫌われ者だ。滅多に依頼が来ないもんだから食糧も満足に買えねぇ。だから特別に、癪極まりねぇが嘘つき女の依頼も受けてやるんだ、お前には客の本分がわからんらしいな」
客に喧嘩を売りつけてしまう師匠にロンはタジタジである。ことが長引かないうちに丸く収めようと、腕を組みそっぽを向く師と客をなだめすかすのであった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる