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最終決戦は避けられぬ
第60話 神との問答
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大陸には黒い雨が降っていた。それは地面に触れるや否や、蒸気をたてて土を溶かし、一部の土地は溶岩のようにゆるく流動していた。人々はというと、逃げる場所を探しては土に足をとられ、もがきながら埋もれていった。
地獄を絵に描いたような惨劇だったが、メゾンが作戦本部に戻ってから一週間も経ち、人もこの末法を生き延びるべく知恵を絞っているようだ。頑丈な金属でできたコンテナにありったけの食料と日用品を詰め込んで籠城を決め込む家族、粘性のある土に呑まれても生きていけるように船のような土台を持たない家を作りただ流されていく男性――そのどれもが、白い肌の人間だった。
土は清浄空気が残っている区域と瘴気に侵された土地を隔てる壁すらも飲み込んで壊していった。人々の、自分たちが生きられる唯一の空間に留まっていたいという願いはいとも簡単に踏みにじられ、流れる土砂に乗せられてメストス階級は壁の外に意図せず流出した。
案の定、彼らは首を掻き毟り、吐血し、自分の肌がみるみる黒く変色するのを絶望の目で見届けて死んでいく。人が知恵を絞り世界の破滅に抗おうとして作った産物も直になくなるのだろう。
正直、メストス階級が死んでいくことには何の感傷も抱けずにいた。タエを殺しに行く道中感情を意図して消していたということもあるが、それにしても何の感情も湧き上がってこない。かつて自分も属していた人種が死んでいくというのに。
「黒肌の民に家族を持つことが許されたか?」
メゾンは汚い空に一人問う。家を持つこと、家族を持つこと、真っ当な教育を受けることも許されず、政府の愚かな方針で壁の外に捨てられ、多くが死んだ。そのことに責任を持つ者は今どこにいる……?
ぐわ、と背後にただならぬ気配を感じた。
『汝もまた我と志同じくする者か』
「お前は……ッ!」
破壊神が、背後から現れようとは思っていなかった。背筋が凍り、不時着しようとしては下は溶岩だったと思いだす。
『世界を破壊したいのだろう』
「ち、違うッ……! 私は、弱者に救いの手を! 裁かれるべき者にはその機会を! 与えたいだけだ!」
目に見えぬ力で不自然に空中に留め置かれているらしい自分自身の両翼を必死に動かす。
神はといえば、メゾンの言葉と行為に酷く幻滅したようだった。
『貴様は我の目的に賛同しないのだな』
そう言うや、
『貴様はメストスだな? 所詮自分たちの過ちを認めたくないのだろう、違うか? 人を裁くのは神であってお前ではない。お前は既に破綻しているこの世界をいたずらに延命させたいだけのただの利己主義者だ』
そう無慈悲に言い放った。
「ちが……」
否定したかったが、できなかった。神の言うことは真理かもしれなかった。正しくない善悪の物差しで、滅びるべき世界を生き永らえさせることだけが正義だと信じて。確かに神ならば人の欲にも狭い価値観にも左右されず状況を俯瞰することができるだろう。
だが、神には神で見えていないものがある。神は所詮大いなる存在でしかないのだ。地を這う生き物が見るものが泥だけとは限らない。
「あなたは、この世界のすべてを、本当に滅ぼしていいとお考えですか」
『当たり前だ』
「虐げられてきた黒肌の民さえも、彼らが幸せを享受する暇もなく、ただ世界だけを終わらせリセットすればすべてがうまくいくとでも? 世界を終わらせ再び創ったところで、進化の過程を辿り再び生まれた人間はまた同じ過ちを繰り返すだろう」
『……』
神は黙した。そして、気配は消えた。
地獄を絵に描いたような惨劇だったが、メゾンが作戦本部に戻ってから一週間も経ち、人もこの末法を生き延びるべく知恵を絞っているようだ。頑丈な金属でできたコンテナにありったけの食料と日用品を詰め込んで籠城を決め込む家族、粘性のある土に呑まれても生きていけるように船のような土台を持たない家を作りただ流されていく男性――そのどれもが、白い肌の人間だった。
土は清浄空気が残っている区域と瘴気に侵された土地を隔てる壁すらも飲み込んで壊していった。人々の、自分たちが生きられる唯一の空間に留まっていたいという願いはいとも簡単に踏みにじられ、流れる土砂に乗せられてメストス階級は壁の外に意図せず流出した。
案の定、彼らは首を掻き毟り、吐血し、自分の肌がみるみる黒く変色するのを絶望の目で見届けて死んでいく。人が知恵を絞り世界の破滅に抗おうとして作った産物も直になくなるのだろう。
正直、メストス階級が死んでいくことには何の感傷も抱けずにいた。タエを殺しに行く道中感情を意図して消していたということもあるが、それにしても何の感情も湧き上がってこない。かつて自分も属していた人種が死んでいくというのに。
「黒肌の民に家族を持つことが許されたか?」
メゾンは汚い空に一人問う。家を持つこと、家族を持つこと、真っ当な教育を受けることも許されず、政府の愚かな方針で壁の外に捨てられ、多くが死んだ。そのことに責任を持つ者は今どこにいる……?
ぐわ、と背後にただならぬ気配を感じた。
『汝もまた我と志同じくする者か』
「お前は……ッ!」
破壊神が、背後から現れようとは思っていなかった。背筋が凍り、不時着しようとしては下は溶岩だったと思いだす。
『世界を破壊したいのだろう』
「ち、違うッ……! 私は、弱者に救いの手を! 裁かれるべき者にはその機会を! 与えたいだけだ!」
目に見えぬ力で不自然に空中に留め置かれているらしい自分自身の両翼を必死に動かす。
神はといえば、メゾンの言葉と行為に酷く幻滅したようだった。
『貴様は我の目的に賛同しないのだな』
そう言うや、
『貴様はメストスだな? 所詮自分たちの過ちを認めたくないのだろう、違うか? 人を裁くのは神であってお前ではない。お前は既に破綻しているこの世界をいたずらに延命させたいだけのただの利己主義者だ』
そう無慈悲に言い放った。
「ちが……」
否定したかったが、できなかった。神の言うことは真理かもしれなかった。正しくない善悪の物差しで、滅びるべき世界を生き永らえさせることだけが正義だと信じて。確かに神ならば人の欲にも狭い価値観にも左右されず状況を俯瞰することができるだろう。
だが、神には神で見えていないものがある。神は所詮大いなる存在でしかないのだ。地を這う生き物が見るものが泥だけとは限らない。
「あなたは、この世界のすべてを、本当に滅ぼしていいとお考えですか」
『当たり前だ』
「虐げられてきた黒肌の民さえも、彼らが幸せを享受する暇もなく、ただ世界だけを終わらせリセットすればすべてがうまくいくとでも? 世界を終わらせ再び創ったところで、進化の過程を辿り再び生まれた人間はまた同じ過ちを繰り返すだろう」
『……』
神は黙した。そして、気配は消えた。
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