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ずっと避けてた
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クロが亡くなってから、ずっと避けていたことがある。
それはクロの動画や写真を見ることだ。
火葬する際に遺影の写真を探すときに見たきり、私は猫の画像が保存してあるファイルには一切手を付けなかった。
忘れたいわけじゃない。
けれど、あまりにも……あまりにも心の負担が大きかったのだ。
しかし、どうしてもクロの姿が見たくなった。
歴代のスマホに保存されていた(十一年も寄り添ったのだから、スマホも数台変わっている)写真を引っ張り出し、子猫の頃から介護をされている頃まで、ずらっと見た。
最初の頃はよちよち歩きのパヤパヤとした毛並みをしていた彼。そのころの記憶は鮮明は覚えている。
ミルクを卒業し、パウチを食べるようになったが、何故か途端にそれらを食べなくなった。
二日以上食べず、私はどうすれば良いか分からず、全ての子猫用パウチを買い漁って与えた。
しかし、彼はどれにも興味を示さなかった。
このまま餓死するんだ、と心配になり、病院へ行こうとした矢先……クロはまるで何もなかったかのように食事をし始めた。
それを見て「親の心子知らずとはこのことか!」と思ったのだ。
成猫になるにつれ、彼は誰よりも恰幅の良いでっぷりとした猫に育った。
兄弟猫もそうだったが、彼らはとてもぽっちゃりしていて、体の上に乗られると呼吸ができないほどである。
おまけに甘えん坊なのだから、愛くるしい以外の何者でもない。
成猫になった彼の動画は、どれも私の隣に寝転がり、ゴロゴロと喉を鳴らしているものばかりだ。
彼は、とても穏やかで甘えん坊で、食いしん坊な子なのだ。
……介護の頃は、痩せ細って、過去の彼とはかけ離れた姿だった。
しかし、甘える仕草は変わらず、その愛くるしさは天下一品である。
正直なところ、クロの猫生の中で、私は一番この頃が好きである。
オムツをつけて、食道チューブカバーを首に巻いた彼は、なによりも可愛い。
一番最後の動画は、彼が亡くなる二日前に撮影されたものだった。
ブランケットに包まった彼を撫でると、鼻先をこちらに向け、しっぽの軽く揺らす。
「あぁ、そうだった。亡くなる二日前まで、彼は元気だったんだ」と思わずひとりごちてしまった。
彼はまだ、生きていけたんだ。食事をして、排泄をして、ゴロゴロと喉を鳴らして、私の声に反応して……。
そう考えてしまうから、介護時の彼を見るのは苦しい。
心臓がぎゅうとなり、自分の罪の重さに押しつぶされそうになる。
パッとスマホの画面から顔を上げ、部屋を見た。
そこに、彼はいない。
画面の中にはいるのに、この世にはもういない。
もっと、彼は生きられるはずだった。
癌がなければ……私がミスをしなければ……。
全ては運命だったのだろうか。
だとしたら、神様はあまりにも意地悪だ。
いつか、この写真や動画を見て泣かずに「いつまでも愛しているよ」と言えるようになりたい。
今はまだ、難しい。
心の整理が出来て、彼の死と落ち着いた心で対面できる日が来たらいいなと、願うばかりだ。
それはクロの動画や写真を見ることだ。
火葬する際に遺影の写真を探すときに見たきり、私は猫の画像が保存してあるファイルには一切手を付けなかった。
忘れたいわけじゃない。
けれど、あまりにも……あまりにも心の負担が大きかったのだ。
しかし、どうしてもクロの姿が見たくなった。
歴代のスマホに保存されていた(十一年も寄り添ったのだから、スマホも数台変わっている)写真を引っ張り出し、子猫の頃から介護をされている頃まで、ずらっと見た。
最初の頃はよちよち歩きのパヤパヤとした毛並みをしていた彼。そのころの記憶は鮮明は覚えている。
ミルクを卒業し、パウチを食べるようになったが、何故か途端にそれらを食べなくなった。
二日以上食べず、私はどうすれば良いか分からず、全ての子猫用パウチを買い漁って与えた。
しかし、彼はどれにも興味を示さなかった。
このまま餓死するんだ、と心配になり、病院へ行こうとした矢先……クロはまるで何もなかったかのように食事をし始めた。
それを見て「親の心子知らずとはこのことか!」と思ったのだ。
成猫になるにつれ、彼は誰よりも恰幅の良いでっぷりとした猫に育った。
兄弟猫もそうだったが、彼らはとてもぽっちゃりしていて、体の上に乗られると呼吸ができないほどである。
おまけに甘えん坊なのだから、愛くるしい以外の何者でもない。
成猫になった彼の動画は、どれも私の隣に寝転がり、ゴロゴロと喉を鳴らしているものばかりだ。
彼は、とても穏やかで甘えん坊で、食いしん坊な子なのだ。
……介護の頃は、痩せ細って、過去の彼とはかけ離れた姿だった。
しかし、甘える仕草は変わらず、その愛くるしさは天下一品である。
正直なところ、クロの猫生の中で、私は一番この頃が好きである。
オムツをつけて、食道チューブカバーを首に巻いた彼は、なによりも可愛い。
一番最後の動画は、彼が亡くなる二日前に撮影されたものだった。
ブランケットに包まった彼を撫でると、鼻先をこちらに向け、しっぽの軽く揺らす。
「あぁ、そうだった。亡くなる二日前まで、彼は元気だったんだ」と思わずひとりごちてしまった。
彼はまだ、生きていけたんだ。食事をして、排泄をして、ゴロゴロと喉を鳴らして、私の声に反応して……。
そう考えてしまうから、介護時の彼を見るのは苦しい。
心臓がぎゅうとなり、自分の罪の重さに押しつぶされそうになる。
パッとスマホの画面から顔を上げ、部屋を見た。
そこに、彼はいない。
画面の中にはいるのに、この世にはもういない。
もっと、彼は生きられるはずだった。
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だとしたら、神様はあまりにも意地悪だ。
いつか、この写真や動画を見て泣かずに「いつまでも愛しているよ」と言えるようになりたい。
今はまだ、難しい。
心の整理が出来て、彼の死と落ち着いた心で対面できる日が来たらいいなと、願うばかりだ。
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