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第四話
戸惑いの先で
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ああもう、本当に。一体このセヴルムという男は、何処まで私を惑わせるつもりだ。と、私は心の中で叫んだ。
理性的になろうとする私と、感情的になろうとする私が。まさに今頭の中で大喧嘩中。
ただよく聴くとどちらも支離滅裂な事を口にしていて、結局頭が無駄に疲れるだけだった。
「全く……。これじゃ変に気を張ってた私が、阿呆みたいじゃありませんか」
ため息交じりに漏らす、少しの本音。ようやく頭の中が落ち着いた反動か、全身の力が一気にドッと抜け。私は紅く腫れた顔を隠すようにしゃがみこむ。
「すまない、少し興が乗ってしまった。嘘は言っていないんだが」
「それが問題だと言いたいんですよ私は。この人たらしめ」
どうにもセヴルム相手だと、調子を狂わされる。いつもの凛々しい私は、何処へやら。
気を引き締めなければ。ここで彼のペースに飲まれる訳にはいかない。
「はあ。だが確かに、人を惑わせるという意味では似てるのかもな」
「ん?」
「弟様の事ですよ。ここに来る直前でお会いしたんです。貴方とは違う意味でドキドキさせられましたが……い、いや。深い意味では無く」
そうして零れた発言をかき消しながら。私はキリリと表情を引き締め、立ち上がる。
だが直後に気づいた。セヴルムの表情に、不安そうな影が落ちたような一瞬。
それが気になり彼の顔を覗き込むも、既に次の瞬間にはいつもの表情に戻っており。相変わらずの優し気な微笑みを浮かべていた。
「あいつの事か。やれやれ、すまないな。あいつは昔からイタズラ好きなんだ。特に火遊びが好きで、兄としては心配でしかないんだが」
気の所為だろうか。しっかり私達と目を合わせている辺り、嘘で誤魔化しているようには見えない。……というかあの年頃で火遊びが好きって、どうなんだ? それ。
「しかし、そうか。不思議な偶然があると思ったが、彼が居場所を伝えてくれたのか。……それならいっそ、この機会を上手く使うべきかな」
――だが考え過ぎかと気を緩めようとした、その刹那。突然セヴルムの横顔に、私は『凛』とした雰囲気を感じ取り、思わず太ももをきゅっと閉じた。
まるで、私を【抱く】と決意したあの時のような。
反射的に昨夜の光景が脳裏に浮かび、私はかき消すように頭を振るも。その光景は全く消えない上に、セヴルムの横顔も相変わらず。
……まさか、意識しているというのか? この私が?
「カシュラ。アイロム。もしよければ、この後少しだけ私に付き合って貰えないか。そう手間は取らせない」
「? セヴルム様に、ですか。僕は構いませんが、その」
私の異変を感じ取っていたのか。アイロムが様子を気にするように、私を見ている。
「なんですか。何も問題ありませんが。ええ、ありません。微塵もありませんとも。元々貴方様から頂いた時間です、一体何処にどのような差し障りがありましょうか」
「凄いあるように見えるんだけど……。と、とにかく。カシュラもこう言ってますし、是非にでも。それで、一体どちらに……?」
するとセヴルムは懐中時計を取り出し、意味ありげに秒針を見つめた。
一体何を企んでいるのか。私は頬をムスっと膨らませながら、アイロムを抱く。乱れた心を落ち着けるには、これが一番。
――だが結局、そうして取り繕った冷静さも。圧倒的な驚きの前には、無力と知った。
何処か遠くから聴こえる、妙な駆動音。頬を撫でる風が、段々と不自然に強さを増す。
そのうち音の正体が、『空』にあると気が付き。私とアイロムは見上げた、お互いの頭上を。
「うわああッッ!?」
「――……なっ……なんだ!? これはっ……!?」
空を覆い尽くす、巨大な何か。嵐のような大風を巻き起こしながら、【それ】は私達の真上へと辿りつく。
やがて月明かりで輪郭が浮かび上がると、私は本で見た【船】を連想した。だがそこは海ではなく、空。
……確か、技術者だか何だかに抱かれた時に聴いた気がする。セントヴルム皇国では今、魔導技術を駆使して、空に浮かぶ船を開発中だと。
そうだ。あの時は酔った男の戯言だと思っていたが。セヴルムはまさに、その国の皇子。……つまり、これは。もしかして……。
「無理にとは言わない。だが、もしよければ一緒に来ないか。――空を見せたいんだ、君達に」
理性的になろうとする私と、感情的になろうとする私が。まさに今頭の中で大喧嘩中。
ただよく聴くとどちらも支離滅裂な事を口にしていて、結局頭が無駄に疲れるだけだった。
「全く……。これじゃ変に気を張ってた私が、阿呆みたいじゃありませんか」
ため息交じりに漏らす、少しの本音。ようやく頭の中が落ち着いた反動か、全身の力が一気にドッと抜け。私は紅く腫れた顔を隠すようにしゃがみこむ。
「すまない、少し興が乗ってしまった。嘘は言っていないんだが」
「それが問題だと言いたいんですよ私は。この人たらしめ」
どうにもセヴルム相手だと、調子を狂わされる。いつもの凛々しい私は、何処へやら。
気を引き締めなければ。ここで彼のペースに飲まれる訳にはいかない。
「はあ。だが確かに、人を惑わせるという意味では似てるのかもな」
「ん?」
「弟様の事ですよ。ここに来る直前でお会いしたんです。貴方とは違う意味でドキドキさせられましたが……い、いや。深い意味では無く」
そうして零れた発言をかき消しながら。私はキリリと表情を引き締め、立ち上がる。
だが直後に気づいた。セヴルムの表情に、不安そうな影が落ちたような一瞬。
それが気になり彼の顔を覗き込むも、既に次の瞬間にはいつもの表情に戻っており。相変わらずの優し気な微笑みを浮かべていた。
「あいつの事か。やれやれ、すまないな。あいつは昔からイタズラ好きなんだ。特に火遊びが好きで、兄としては心配でしかないんだが」
気の所為だろうか。しっかり私達と目を合わせている辺り、嘘で誤魔化しているようには見えない。……というかあの年頃で火遊びが好きって、どうなんだ? それ。
「しかし、そうか。不思議な偶然があると思ったが、彼が居場所を伝えてくれたのか。……それならいっそ、この機会を上手く使うべきかな」
――だが考え過ぎかと気を緩めようとした、その刹那。突然セヴルムの横顔に、私は『凛』とした雰囲気を感じ取り、思わず太ももをきゅっと閉じた。
まるで、私を【抱く】と決意したあの時のような。
反射的に昨夜の光景が脳裏に浮かび、私はかき消すように頭を振るも。その光景は全く消えない上に、セヴルムの横顔も相変わらず。
……まさか、意識しているというのか? この私が?
「カシュラ。アイロム。もしよければ、この後少しだけ私に付き合って貰えないか。そう手間は取らせない」
「? セヴルム様に、ですか。僕は構いませんが、その」
私の異変を感じ取っていたのか。アイロムが様子を気にするように、私を見ている。
「なんですか。何も問題ありませんが。ええ、ありません。微塵もありませんとも。元々貴方様から頂いた時間です、一体何処にどのような差し障りがありましょうか」
「凄いあるように見えるんだけど……。と、とにかく。カシュラもこう言ってますし、是非にでも。それで、一体どちらに……?」
するとセヴルムは懐中時計を取り出し、意味ありげに秒針を見つめた。
一体何を企んでいるのか。私は頬をムスっと膨らませながら、アイロムを抱く。乱れた心を落ち着けるには、これが一番。
――だが結局、そうして取り繕った冷静さも。圧倒的な驚きの前には、無力と知った。
何処か遠くから聴こえる、妙な駆動音。頬を撫でる風が、段々と不自然に強さを増す。
そのうち音の正体が、『空』にあると気が付き。私とアイロムは見上げた、お互いの頭上を。
「うわああッッ!?」
「――……なっ……なんだ!? これはっ……!?」
空を覆い尽くす、巨大な何か。嵐のような大風を巻き起こしながら、【それ】は私達の真上へと辿りつく。
やがて月明かりで輪郭が浮かび上がると、私は本で見た【船】を連想した。だがそこは海ではなく、空。
……確か、技術者だか何だかに抱かれた時に聴いた気がする。セントヴルム皇国では今、魔導技術を駆使して、空に浮かぶ船を開発中だと。
そうだ。あの時は酔った男の戯言だと思っていたが。セヴルムはまさに、その国の皇子。……つまり、これは。もしかして……。
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