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第四話
導かれたもの
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「くすくす。くす……」
――貫く、悪寒。全身の鳥肌が一斉に逆立つような、予期せぬ“何か”。
ふと振り返ってみると、そこには見知らぬ少年が一人。
「だ、誰ッ?」
アイロムは口元を手で隠しながら、戸惑うように問う。
そんな彼を抱き寄せ、私は半ば威嚇するように少年を見つめた。
「フフ。変なの、好きなら好きって言えばいいのに。奥手なんだね、二人共」
「……誰だか知らないが。あまり、他人のプライベートを覗き見るモンじゃない」
恐らく貴族のご子息辺りだろう。いわゆるゴシック調の――ロングベスト。そしてその下には、フリルのついた可愛らしいブラウス。
更には膝を隠せる程度のショートパンツに、滑らかそうな白タイツと。全体的に白と黒で纏められた、かなり裕福そうな身なり。
だが問題なのは。どうしてこの時期にそんな恰好をしているのか、という事。
真冬だぞ、今は。人形の私達ですら多少の厚着を必要とするのに。
「安心して。別に二人をどうこうしたい訳じゃないよ。ただ聴いてた以上に奥手だからさ、つい声をかけちゃった」
黒と紫が混ざり合った、不思議な髪色。くせ毛の目立つミディアムヘアと、気だるげなジト目も合わさってか。何処か奇妙な――ミステリアスな雰囲気を纏っている。
「聞き間違いじゃなければ、今私達の事を『聴いていた』と言ったな。……誰からだ。場合によっては詳しい話を伺う必要があるが」
私はアイロムを背中で隠し、少年の前に立ちはだかる。覚悟はしていた、最悪の自体を。
だがまさかこんなに早くバレたとでも言うのか。リュートめ、全くの見当違いじゃないか。
「やだなあ落ち着いてよ。本当に悪気はないんだって。ボクはただ伝えに来ただけさ、お兄ちゃんの言葉をね」
「お兄ちゃん、だと?」
「そ。『会いたい』ってさ、君に。全くどうしてこうも遠回りばかりするんだか。もっと素直になればいいのにさ、ボクみたいに」
瞬時に頭を埋め尽くしたのは、何処かの誰かの優男。
弟が居るような話を聴いた覚えは無かったが。それでも私達の事を知っている、なおかつ貴族並に裕福となれば、他に心当たりはない。
だが少年の艶めかしい横目が、私の体を強張らせていた。まるで全身に舌を這わせ、私という「味」を確かめられているかのような、異様な緊張感。
「お兄ちゃんは街外れの庭園に居るよ。会いたいなら行ってみたら?」
「……それは、私への命令ですか」
「まさか。君のご主人様はボクじゃないしね。それに誰かさんも似たような事言ってたでしょ? 『自由意志』だって」
「……」
「今日の所はそれを伝えに来ただけだから。誰にも言うつもりは無いから、安心してよ。――そのかわり」
一瞬、少年の姿が揺らめいた。動揺して何度か瞬きをすると、既に少年は私の懐に。
油断した。抵抗する間もなく、少年は私の腰に手を添える。そのまま抱き寄せられるように、少年は私と胸を合わせ……。
「――……次はボクとも、遊んでね?」
「っ……」
まるで、頭の中に直接語り掛けられたような。少年の中性的な甘い声が、ぬらりと体の奥底に絡みつく。
去り際に残された、妖艶な余韻。少年は満足げな顔を浮かべると、「約束だよ」と一言。
私はただ睨みつける事しか出来なかった。少年が手をヒラヒラと降りながら、公園を立ち去るその姿を。
……なんだったんだ、今のは。あんな奇妙な奴、今まで出会ったどの人間とも違う。
「カシュラ、大丈夫?」
「……ああ。全く、まだ頭がくらくらしている気がするぞ」
「守ってくれてありがとう。にしても、なんか不思議な男の子だったね」
「そうだな。恐らくアイツの弟なのだろうが……。あまりにも雰囲気が違い過ぎる」
――とにかく。何にせよ私達は、あの少年の言葉を無視する訳にはいかない。
「それで、その。やっぱり行くの? その人に会いに」
「ああ。無いとは思うが、万が一にも機嫌を損ねる事は出来ない。……それに、この外出に対する『お礼』も……しておいた方がいいだろうからな」
――貫く、悪寒。全身の鳥肌が一斉に逆立つような、予期せぬ“何か”。
ふと振り返ってみると、そこには見知らぬ少年が一人。
「だ、誰ッ?」
アイロムは口元を手で隠しながら、戸惑うように問う。
そんな彼を抱き寄せ、私は半ば威嚇するように少年を見つめた。
「フフ。変なの、好きなら好きって言えばいいのに。奥手なんだね、二人共」
「……誰だか知らないが。あまり、他人のプライベートを覗き見るモンじゃない」
恐らく貴族のご子息辺りだろう。いわゆるゴシック調の――ロングベスト。そしてその下には、フリルのついた可愛らしいブラウス。
更には膝を隠せる程度のショートパンツに、滑らかそうな白タイツと。全体的に白と黒で纏められた、かなり裕福そうな身なり。
だが問題なのは。どうしてこの時期にそんな恰好をしているのか、という事。
真冬だぞ、今は。人形の私達ですら多少の厚着を必要とするのに。
「安心して。別に二人をどうこうしたい訳じゃないよ。ただ聴いてた以上に奥手だからさ、つい声をかけちゃった」
黒と紫が混ざり合った、不思議な髪色。くせ毛の目立つミディアムヘアと、気だるげなジト目も合わさってか。何処か奇妙な――ミステリアスな雰囲気を纏っている。
「聞き間違いじゃなければ、今私達の事を『聴いていた』と言ったな。……誰からだ。場合によっては詳しい話を伺う必要があるが」
私はアイロムを背中で隠し、少年の前に立ちはだかる。覚悟はしていた、最悪の自体を。
だがまさかこんなに早くバレたとでも言うのか。リュートめ、全くの見当違いじゃないか。
「やだなあ落ち着いてよ。本当に悪気はないんだって。ボクはただ伝えに来ただけさ、お兄ちゃんの言葉をね」
「お兄ちゃん、だと?」
「そ。『会いたい』ってさ、君に。全くどうしてこうも遠回りばかりするんだか。もっと素直になればいいのにさ、ボクみたいに」
瞬時に頭を埋め尽くしたのは、何処かの誰かの優男。
弟が居るような話を聴いた覚えは無かったが。それでも私達の事を知っている、なおかつ貴族並に裕福となれば、他に心当たりはない。
だが少年の艶めかしい横目が、私の体を強張らせていた。まるで全身に舌を這わせ、私という「味」を確かめられているかのような、異様な緊張感。
「お兄ちゃんは街外れの庭園に居るよ。会いたいなら行ってみたら?」
「……それは、私への命令ですか」
「まさか。君のご主人様はボクじゃないしね。それに誰かさんも似たような事言ってたでしょ? 『自由意志』だって」
「……」
「今日の所はそれを伝えに来ただけだから。誰にも言うつもりは無いから、安心してよ。――そのかわり」
一瞬、少年の姿が揺らめいた。動揺して何度か瞬きをすると、既に少年は私の懐に。
油断した。抵抗する間もなく、少年は私の腰に手を添える。そのまま抱き寄せられるように、少年は私と胸を合わせ……。
「――……次はボクとも、遊んでね?」
「っ……」
まるで、頭の中に直接語り掛けられたような。少年の中性的な甘い声が、ぬらりと体の奥底に絡みつく。
去り際に残された、妖艶な余韻。少年は満足げな顔を浮かべると、「約束だよ」と一言。
私はただ睨みつける事しか出来なかった。少年が手をヒラヒラと降りながら、公園を立ち去るその姿を。
……なんだったんだ、今のは。あんな奇妙な奴、今まで出会ったどの人間とも違う。
「カシュラ、大丈夫?」
「……ああ。全く、まだ頭がくらくらしている気がするぞ」
「守ってくれてありがとう。にしても、なんか不思議な男の子だったね」
「そうだな。恐らくアイツの弟なのだろうが……。あまりにも雰囲気が違い過ぎる」
――とにかく。何にせよ私達は、あの少年の言葉を無視する訳にはいかない。
「それで、その。やっぱり行くの? その人に会いに」
「ああ。無いとは思うが、万が一にも機嫌を損ねる事は出来ない。……それに、この外出に対する『お礼』も……しておいた方がいいだろうからな」
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