娼館産まれの人形でも、皇子に娶られる夢を見たい。

空倉霰

文字の大きさ
上 下
13 / 30
第四話

導かれたもの

しおりを挟む
 「くすくす。くす……」

 ――貫く、悪寒。全身の鳥肌が一斉に逆立つような、予期せぬ“何か”。

 ふと振り返ってみると、そこには見知らぬ少年が一人。

「だ、誰ッ?」

 アイロムは口元を手で隠しながら、戸惑うように問う。

 そんな彼を抱き寄せ、私は半ば威嚇するように少年を見つめた。

「フフ。変なの、好きなら好きって言えばいいのに。奥手なんだね、二人共」
「……誰だか知らないが。あまり、他人のプライベートを覗き見るモンじゃない」

 恐らく貴族のご子息辺りだろう。いわゆるゴシック調の――ロングベスト。そしてその下には、フリルのついた可愛らしいブラウス。

 更には膝を隠せる程度のショートパンツに、滑らかそうな白タイツと。全体的に白と黒で纏められた、かなり裕福そうな身なり。

 だが問題なのは。どうしてこの時期にそんな恰好をしているのか、という事。

 真冬だぞ、今は。人形の私達ですら多少の厚着を必要とするのに。

「安心して。別に二人をどうこうしたい訳じゃないよ。ただ聴いてた以上に奥手だからさ、つい声をかけちゃった」

 黒と紫が混ざり合った、不思議な髪色。くせ毛の目立つミディアムヘアと、気だるげなジト目も合わさってか。何処か奇妙な――ミステリアスな雰囲気を纏っている。

「聞き間違いじゃなければ、今私達の事を『聴いていた』と言ったな。……誰からだ。場合によっては詳しい話を伺う必要があるが」

 私はアイロムを背中で隠し、少年の前に立ちはだかる。覚悟はしていた、最悪の自体を。

 だがまさかこんなに早くバレたとでも言うのか。リュートめ、全くの見当違いじゃないか。

「やだなあ落ち着いてよ。本当に悪気はないんだって。ボクはただ伝えに来ただけさ、お兄ちゃんの言葉をね」
「お兄ちゃん、だと?」
「そ。『会いたい』ってさ、君に。全くどうしてこうも遠回りばかりするんだか。もっと素直になればいいのにさ、ボクみたいに」

 瞬時に頭を埋め尽くしたのは、何処かの誰かの優男。

 弟が居るような話を聴いた覚えは無かったが。それでも私達の事を知っている、なおかつ貴族並に裕福となれば、他に心当たりはない。

 だが少年の艶めかしい横目が、私の体を強張らせていた。まるで全身に舌を這わせ、私という「味」を確かめられているかのような、異様な緊張感。

「お兄ちゃんは街外れの庭園に居るよ。会いたいなら行ってみたら?」
「……それは、私への命令ですか」
「まさか。君のご主人様はボクじゃないしね。それに誰かさんも似たような事言ってたでしょ? 『自由意志』だって」
「……」
「今日の所はそれを伝えに来ただけだから。誰にも言うつもりは無いから、安心してよ。――そのかわり」

 一瞬、少年の姿が揺らめいた。動揺して何度か瞬きをすると、既に少年は私の懐に。

 油断した。抵抗する間もなく、少年は私の腰に手を添える。そのまま抱き寄せられるように、少年は私と胸を合わせ……。

「――……次はボクとも、遊んでね?」
「っ……」

 まるで、頭の中に直接語り掛けられたような。少年の中性的な甘い声が、ぬらりと体の奥底に絡みつく。

 去り際に残された、妖艶な余韻。少年は満足げな顔を浮かべると、「約束だよ」と一言。

 私はただ睨みつける事しか出来なかった。少年が手をヒラヒラと降りながら、公園を立ち去るその姿を。

 ……なんだったんだ、今のは。あんな奇妙な奴、今まで出会ったどの人間とも違う。

「カシュラ、大丈夫?」
「……ああ。全く、まだ頭がくらくらしている気がするぞ」
「守ってくれてありがとう。にしても、なんか不思議な男の子だったね」
「そうだな。恐らくアイツの弟なのだろうが……。あまりにも雰囲気が違い過ぎる」

 ――とにかく。何にせよ私達は、あの少年の言葉を無視する訳にはいかない。

「それで、その。やっぱり行くの? その人に会いに」
「ああ。無いとは思うが、万が一にも機嫌を損ねる事は出来ない。……それに、この外出に対する『お礼』も……しておいた方がいいだろうからな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

前世である母国の召喚に巻き込まれた俺

るい
BL
 国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

悪役令嬢と同じ名前だけど、僕は男です。

みあき
BL
名前はティータイムがテーマ。主人公と婚約者の王子がいちゃいちゃする話。 男女共に子どもを産める世界です。容姿についての描写は敢えてしていません。 メインカプが男性同士のためBLジャンルに設定していますが、周辺は異性のカプも多いです。 奇数話が主人公視点、偶数話が婚約者の王子視点です。 pixivでは既に最終回まで投稿しています。

処理中です...