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少年はラフィールを知る
時には黒猫の後を追おう
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『にゃおん……』
そんなボクの静寂を切り開いたのは、その可愛らしい鳴き声だった。声の正体にハッとし、思わず目線を真横に向けてみると、そこには小さな黒猫が座っていた。
黒猫はボクに興味があるのか、無いのか。時おり毛づくろいをしながら、ボクのことをチラチラと見ている。
そしてボクがそれに見惚れていると、ふと黒猫はボクに近寄ってきて。ボクの頬にスリスリと体を当てた。……途端に、もふもふとした毛並みを、ボクは頬先で味わうことになって。思わず強張っていた体から、それとなく力が抜けていく……。
「野猫か……。懐かしいな」
「んっ。懐かしい……?」
「いや、なんでもねえよ。それよりこっちに集中してな。ほら……」
しかしラフィールは猫に構わず、ボクの左頬に手を添えた。黒猫で体が緩んだせいか、ラフィールの手のひらが……やけに暖かく、大きく感じて。徐々にボクの心臓が、どくん……と、うねりを上げる。
直後、ラフィールはゆっくりと体を沈め、ボクに顔を近づけた。そしてジッと見つめ合いながら、ボクらは互いに、唇を……。
『にゃん……にゃぉぁ。にゃぁ……』
「わっ……! な、なんだぁっ……!?」
だけどそんな時になり、黒猫が突然ボクを舐め出した。小さな鳴き声を上げながら、何度もペロペロと舐めて。思わずボクはくすぐったくなってしまう。
「な、なんだぁっ。わっ……! ち、ちょっ。あはっ……! ら、ラフィール。ちょっとこれっ……! この猫、よ、よけっ……!」
「あーあー。ったく、雰囲気も何も台無しじゃねーの。やれやれ……」
『にゃぉぁ』
「ニャアじゃねぇっての。邪魔しやがってこの野郎、ほれ。どっか行きな」
だけどラフィールが黒猫を退けてもなお、黒猫は立ち去る様子を見せない。退けては、近づいて。退けては、近づけて。その繰り返し。
そうしているうちに、黒猫が妙に鼻を鳴らしていることに気が付く。何かの匂いを追うように、黒猫はボクの周りでスンスンと。
どうやら黒猫は、ボクが持っている焼き芋が気になるらしい。ついに甘く香しい匂いの正体を突き止めた黒猫は、焼き芋の目の前で何度も鳴き声をあげ。焼き芋をねだっているらしかった。
「はは。お前にそっくりだな、その猫。焼き芋に釣られてノコノコやってきやたってわけか」
「むっ……。な、なんだあそれ。褒めてんの?」
「さてどっちかな。まあ食い意地が張ってるのは間違いねえや」
その言葉が嬉しかったのか、自分でもわからない。だけどボクはとりあえず起き上がって、ラフィールをぺチンと叩き。そっと猫の背中に手を添える。さ、流石にキスっていう雰囲気じゃなくなっちゃったし。
猫は好きだ。こうしてボクとラフィールのことを気にしないあたり、流石に気ままな性格。それとももしや、ボクらのことを分かった上で割り込んできたとか……。
「……いや、まさかね……」
「とにかくだ。お前もその猫みたいに、もう少し気楽にしてみろよ。考え抜いて結論を出すにせよ、変にストレス溜めた状態だったらマトモな結論は出せねえぜ?」
「うぐっ。……わ、わかったって。やってみるってば。……にしてもラフィールは、何も考えて無さ過ぎな気もするけど」
「そうか? こう見えて案外頭使ってるんだぜ。今度はお前を、どんな風に犯してやろうかとかな」
「それは考えてるっていうか、ただ下半身に忠実なだけなんじゃ……」
とにかく。どうやらラフィールの言う通り、ボクは少し悩み過ぎな傾向があるらしい。……思えば最近は、その事ばかり考えてたから。ここらでちょっと息抜きをしてみるのもアリかも。
そしてその息抜きの一環のつもりで、ボクは黒猫に焼き芋を差し出してみた。口のつけていない綺麗な所を、一口サイズに千切って、手のひらの上に。
すると黒猫は焼き芋の欠片に興味を示したのか、近づいて何度か疑り深い眼を向け。ある時突然、焼き芋に食いついた。どうやらお気に召したらしく、夢中になって食べている。
……猫の小さな舌が、手のひらでペロペロと動いているのが少しくすぐったくて。心地いいようなこそばゆいような不思議な気分だ。
「かわいい……。ねえ、ラフィールもあげてみなよ。大人しいよこの子っ」
「んー? いや、俺は別のがあるから遠慮しとくわ」
「別の? 別のって、一体……。……あ、あの。ちょっと。ボクは猫じゃないんですけど……?」
「モフモフの毛並みより、すべすべのお腹の方が俺は好きだね……」
「やっ……。ち、ちょっと。おへそ弄るんじゃないのっ……。このっ。な、なにしてんだこのやろっ……♡」
と、猫に焼き芋を上げる傍ら。背中越しのラフィールに、お腹に触られまくるボク。……ち、ちょっと猫の撫でられている時の気持ちがわかったかもしれない。
「もう、いつもそうなんだから……。……にしても、そういえばこの辺で猫って珍しいよね。迷子になったのかな」
「んー? まあ昔はもっとその辺に居たんだけどな。だから迷子ってほどじゃねえと思うけど」
「あれ、そうなんだ。……じゃあ今はどこに住んでるんだろ」
そんな風にボクが、黒猫に興味を抱き出した頃。焼き芋を食べ終えた黒猫は、満足そうに欠伸をした。そのままボクの手のひらを何度かぺろぺろと舐めた後、クルっと向きを変えてどこかへと歩いて行ってしまう。
「あっ。行っちゃった……。もう少しモフモフしたかったなあ……」
「猫ね……。そういえば昔、ウチに住み着いてた黒猫が居たな」
「あれ、そうなの?」
「ああ。だが随分前に家出しちまって以来、もう何年も見てねえ。顔が違うから同じ猫じゃねえけど、毛並みが似てるから……あの猫の子供だったりしてな」
「へえー。ラフィール、猫なんて飼ってたんだ。意外だなあ」
「飼ってたっていうか……。……まあ、似たようなモンか」
ラフィールが猫を愛でてる様子なんて、想像がつかない。そもそも餌やりとか出来るんだろうか? 餌やりっていうか、なんか狩りとかさせてそうなイメージなんだけど。
「って、あれ? あの猫、あんな所で何してるんだろ……」
その時だった。ふとボクは、黒猫が足を止めたことに気が付く。黒猫は礼儀正しく、チョコンと座りながら、ボクらのことをジッと見ている。どこかに行くでもなく、ただ時おり『にゃあ』と鳴きながら、尻尾をユラユラさせているだけ……。
ゆら、ゆらと。ゆら、ゆら……。その尻尾を目で追ううちに、ボクはなんだか……その尻尾が手招きをしているように感じた。そう、それこそ招き猫とかのように、おいでおいで……と言っているような。
「……ねえ。ラフィールのその猫って、どのくらい前に居なくなったの?」
「んー? そうだな、確か……マサトが産まれる前の日くらいだったか」
「えっ。あ、そんな前なんだ? 一年や二年とかそんなんじゃなくて?」
「ああ。だからもうとっくに寿命だとは思うんだが……。……まあ、どのみちもう会えねぇだろ」
「そっか……。なんか寂しいね」
「そうだな。ま、命の巡りってやつさ。俺にしろ猫にしろ、生き物はいつか死ぬ。……アイツはそれが、ちょっと早いだけなのさ」
その時ボクは、ラフィールのその言葉の中に……ほんの一抹の寂しさが入っているような気がした。かつて側にいた、小さな友人に思いを馳せているような……ほのかな声。
だからかもしれない。ボクはその猫のことに……、というよりは、ラフィールの過去に興味を持った。あまり過去を話さないラフィールが、珍しく漏らしたその一言……。それはボクにとっては、大きなものだったんだ。
「ねえラフィール。着いていってみようよ。あの猫にさ……」
「んあ? なんでぇ?」
「もしかしたらあの猫、その時の子かもしれないしさっ。だからなんていうか、ほら……」
「いや、顔が違うからそれはねぇよ。まあ毛並みは似てるから、アイツの子供とかの可能性はあると思うけどな」
「ぬぐっ。い、いいからっ。どうせ暇でしょっ。……で、デート代わりだよ。いいからほら、早くっ……!」
ボクはラフィールの腕を引っ張り、猫の後を追いかけた。すると猫はスクッと立ち上がって、近くにあった林の中へと飛び込んだので。ボクらもその後に続いた。
「おい、どうしたんだよいきなり。怒ってんのか?」
「違うって。だから、その。気になるじゃんあの猫っ! かわいいし……!」
「返答になってんのかそれ……? おいそこ気をつけろよ、木の根が出っ張ってっからな」
そうしてそのまま、暫くボクらは林の中を歩いた。木々の隙間から漏れる、僅かな太陽に照らされながら。ゆっくりと歩く黒猫についていく。だけど当然ながら、ただ単に可愛いという理由だけでここまではしなかった。
……正直言えば、知りたかったんだ。ラフィールのことを。よくよく考えてみたら、ボクはラフィールの過去のことを何も知らない。王子で苦労したことがあるってぐらいで、それ以外は殆ど……。
だからあの黒猫を追えば、その辺の話が聴き出せるかと思ったんだ。さっき一瞬だけ話してくれたみたいに。何気ないデートを装いながら、猫の話に絡めて……昔話を。気分転換にはいいかなと思って。
「ど、どこまで行くんだろうね。あの猫。結構奥まで入ってくみたいだけど」
「この先には確か、爺さん婆さんが住んでた小屋とかがあったっけか。もしかしたらその辺りに住み着いてるのかもな」
「へえー……そんなのが。よく知ってるね、そんな細かい事」
「まあ昔はよく遊んでたからな。言っても家の近所だし、この辺。多少地形が変わったとはいえ、まだまだ庭みたいなもんだよ」
とか何とか言っているうちに。こっそりボクは、ラフィールの手を握る。迷子にならないため、とか頭の中で言い訳しながら。実の所、ラフィールの大きな男の手のひらを感じていたかっただけ。
最近また少し大きくなっただろうか。言ってもラフィールは、まだまだ十五歳。全然成長期の真っただ中だし、これからどんどん体も大きくなるんだろう。この手のひらも、身長とかも。
……でもラフィールにも、マサトと同じくらい小さかった時期があったんだろう。今のボクよりも小さくて、力も弱かった時期。ボクはそこが知りたい。知ってどうするのかは……まだ考えてないけど。
「……ん。見えてきた、アレだ。爺さんと婆さんの家。随分オンボロになっちまったなぁ」
そんなボクの静寂を切り開いたのは、その可愛らしい鳴き声だった。声の正体にハッとし、思わず目線を真横に向けてみると、そこには小さな黒猫が座っていた。
黒猫はボクに興味があるのか、無いのか。時おり毛づくろいをしながら、ボクのことをチラチラと見ている。
そしてボクがそれに見惚れていると、ふと黒猫はボクに近寄ってきて。ボクの頬にスリスリと体を当てた。……途端に、もふもふとした毛並みを、ボクは頬先で味わうことになって。思わず強張っていた体から、それとなく力が抜けていく……。
「野猫か……。懐かしいな」
「んっ。懐かしい……?」
「いや、なんでもねえよ。それよりこっちに集中してな。ほら……」
しかしラフィールは猫に構わず、ボクの左頬に手を添えた。黒猫で体が緩んだせいか、ラフィールの手のひらが……やけに暖かく、大きく感じて。徐々にボクの心臓が、どくん……と、うねりを上げる。
直後、ラフィールはゆっくりと体を沈め、ボクに顔を近づけた。そしてジッと見つめ合いながら、ボクらは互いに、唇を……。
『にゃん……にゃぉぁ。にゃぁ……』
「わっ……! な、なんだぁっ……!?」
だけどそんな時になり、黒猫が突然ボクを舐め出した。小さな鳴き声を上げながら、何度もペロペロと舐めて。思わずボクはくすぐったくなってしまう。
「な、なんだぁっ。わっ……! ち、ちょっ。あはっ……! ら、ラフィール。ちょっとこれっ……! この猫、よ、よけっ……!」
「あーあー。ったく、雰囲気も何も台無しじゃねーの。やれやれ……」
『にゃぉぁ』
「ニャアじゃねぇっての。邪魔しやがってこの野郎、ほれ。どっか行きな」
だけどラフィールが黒猫を退けてもなお、黒猫は立ち去る様子を見せない。退けては、近づいて。退けては、近づけて。その繰り返し。
そうしているうちに、黒猫が妙に鼻を鳴らしていることに気が付く。何かの匂いを追うように、黒猫はボクの周りでスンスンと。
どうやら黒猫は、ボクが持っている焼き芋が気になるらしい。ついに甘く香しい匂いの正体を突き止めた黒猫は、焼き芋の目の前で何度も鳴き声をあげ。焼き芋をねだっているらしかった。
「はは。お前にそっくりだな、その猫。焼き芋に釣られてノコノコやってきやたってわけか」
「むっ……。な、なんだあそれ。褒めてんの?」
「さてどっちかな。まあ食い意地が張ってるのは間違いねえや」
その言葉が嬉しかったのか、自分でもわからない。だけどボクはとりあえず起き上がって、ラフィールをぺチンと叩き。そっと猫の背中に手を添える。さ、流石にキスっていう雰囲気じゃなくなっちゃったし。
猫は好きだ。こうしてボクとラフィールのことを気にしないあたり、流石に気ままな性格。それとももしや、ボクらのことを分かった上で割り込んできたとか……。
「……いや、まさかね……」
「とにかくだ。お前もその猫みたいに、もう少し気楽にしてみろよ。考え抜いて結論を出すにせよ、変にストレス溜めた状態だったらマトモな結論は出せねえぜ?」
「うぐっ。……わ、わかったって。やってみるってば。……にしてもラフィールは、何も考えて無さ過ぎな気もするけど」
「そうか? こう見えて案外頭使ってるんだぜ。今度はお前を、どんな風に犯してやろうかとかな」
「それは考えてるっていうか、ただ下半身に忠実なだけなんじゃ……」
とにかく。どうやらラフィールの言う通り、ボクは少し悩み過ぎな傾向があるらしい。……思えば最近は、その事ばかり考えてたから。ここらでちょっと息抜きをしてみるのもアリかも。
そしてその息抜きの一環のつもりで、ボクは黒猫に焼き芋を差し出してみた。口のつけていない綺麗な所を、一口サイズに千切って、手のひらの上に。
すると黒猫は焼き芋の欠片に興味を示したのか、近づいて何度か疑り深い眼を向け。ある時突然、焼き芋に食いついた。どうやらお気に召したらしく、夢中になって食べている。
……猫の小さな舌が、手のひらでペロペロと動いているのが少しくすぐったくて。心地いいようなこそばゆいような不思議な気分だ。
「かわいい……。ねえ、ラフィールもあげてみなよ。大人しいよこの子っ」
「んー? いや、俺は別のがあるから遠慮しとくわ」
「別の? 別のって、一体……。……あ、あの。ちょっと。ボクは猫じゃないんですけど……?」
「モフモフの毛並みより、すべすべのお腹の方が俺は好きだね……」
「やっ……。ち、ちょっと。おへそ弄るんじゃないのっ……。このっ。な、なにしてんだこのやろっ……♡」
と、猫に焼き芋を上げる傍ら。背中越しのラフィールに、お腹に触られまくるボク。……ち、ちょっと猫の撫でられている時の気持ちがわかったかもしれない。
「もう、いつもそうなんだから……。……にしても、そういえばこの辺で猫って珍しいよね。迷子になったのかな」
「んー? まあ昔はもっとその辺に居たんだけどな。だから迷子ってほどじゃねえと思うけど」
「あれ、そうなんだ。……じゃあ今はどこに住んでるんだろ」
そんな風にボクが、黒猫に興味を抱き出した頃。焼き芋を食べ終えた黒猫は、満足そうに欠伸をした。そのままボクの手のひらを何度かぺろぺろと舐めた後、クルっと向きを変えてどこかへと歩いて行ってしまう。
「あっ。行っちゃった……。もう少しモフモフしたかったなあ……」
「猫ね……。そういえば昔、ウチに住み着いてた黒猫が居たな」
「あれ、そうなの?」
「ああ。だが随分前に家出しちまって以来、もう何年も見てねえ。顔が違うから同じ猫じゃねえけど、毛並みが似てるから……あの猫の子供だったりしてな」
「へえー。ラフィール、猫なんて飼ってたんだ。意外だなあ」
「飼ってたっていうか……。……まあ、似たようなモンか」
ラフィールが猫を愛でてる様子なんて、想像がつかない。そもそも餌やりとか出来るんだろうか? 餌やりっていうか、なんか狩りとかさせてそうなイメージなんだけど。
「って、あれ? あの猫、あんな所で何してるんだろ……」
その時だった。ふとボクは、黒猫が足を止めたことに気が付く。黒猫は礼儀正しく、チョコンと座りながら、ボクらのことをジッと見ている。どこかに行くでもなく、ただ時おり『にゃあ』と鳴きながら、尻尾をユラユラさせているだけ……。
ゆら、ゆらと。ゆら、ゆら……。その尻尾を目で追ううちに、ボクはなんだか……その尻尾が手招きをしているように感じた。そう、それこそ招き猫とかのように、おいでおいで……と言っているような。
「……ねえ。ラフィールのその猫って、どのくらい前に居なくなったの?」
「んー? そうだな、確か……マサトが産まれる前の日くらいだったか」
「えっ。あ、そんな前なんだ? 一年や二年とかそんなんじゃなくて?」
「ああ。だからもうとっくに寿命だとは思うんだが……。……まあ、どのみちもう会えねぇだろ」
「そっか……。なんか寂しいね」
「そうだな。ま、命の巡りってやつさ。俺にしろ猫にしろ、生き物はいつか死ぬ。……アイツはそれが、ちょっと早いだけなのさ」
その時ボクは、ラフィールのその言葉の中に……ほんの一抹の寂しさが入っているような気がした。かつて側にいた、小さな友人に思いを馳せているような……ほのかな声。
だからかもしれない。ボクはその猫のことに……、というよりは、ラフィールの過去に興味を持った。あまり過去を話さないラフィールが、珍しく漏らしたその一言……。それはボクにとっては、大きなものだったんだ。
「ねえラフィール。着いていってみようよ。あの猫にさ……」
「んあ? なんでぇ?」
「もしかしたらあの猫、その時の子かもしれないしさっ。だからなんていうか、ほら……」
「いや、顔が違うからそれはねぇよ。まあ毛並みは似てるから、アイツの子供とかの可能性はあると思うけどな」
「ぬぐっ。い、いいからっ。どうせ暇でしょっ。……で、デート代わりだよ。いいからほら、早くっ……!」
ボクはラフィールの腕を引っ張り、猫の後を追いかけた。すると猫はスクッと立ち上がって、近くにあった林の中へと飛び込んだので。ボクらもその後に続いた。
「おい、どうしたんだよいきなり。怒ってんのか?」
「違うって。だから、その。気になるじゃんあの猫っ! かわいいし……!」
「返答になってんのかそれ……? おいそこ気をつけろよ、木の根が出っ張ってっからな」
そうしてそのまま、暫くボクらは林の中を歩いた。木々の隙間から漏れる、僅かな太陽に照らされながら。ゆっくりと歩く黒猫についていく。だけど当然ながら、ただ単に可愛いという理由だけでここまではしなかった。
……正直言えば、知りたかったんだ。ラフィールのことを。よくよく考えてみたら、ボクはラフィールの過去のことを何も知らない。王子で苦労したことがあるってぐらいで、それ以外は殆ど……。
だからあの黒猫を追えば、その辺の話が聴き出せるかと思ったんだ。さっき一瞬だけ話してくれたみたいに。何気ないデートを装いながら、猫の話に絡めて……昔話を。気分転換にはいいかなと思って。
「ど、どこまで行くんだろうね。あの猫。結構奥まで入ってくみたいだけど」
「この先には確か、爺さん婆さんが住んでた小屋とかがあったっけか。もしかしたらその辺りに住み着いてるのかもな」
「へえー……そんなのが。よく知ってるね、そんな細かい事」
「まあ昔はよく遊んでたからな。言っても家の近所だし、この辺。多少地形が変わったとはいえ、まだまだ庭みたいなもんだよ」
とか何とか言っているうちに。こっそりボクは、ラフィールの手を握る。迷子にならないため、とか頭の中で言い訳しながら。実の所、ラフィールの大きな男の手のひらを感じていたかっただけ。
最近また少し大きくなっただろうか。言ってもラフィールは、まだまだ十五歳。全然成長期の真っただ中だし、これからどんどん体も大きくなるんだろう。この手のひらも、身長とかも。
……でもラフィールにも、マサトと同じくらい小さかった時期があったんだろう。今のボクよりも小さくて、力も弱かった時期。ボクはそこが知りたい。知ってどうするのかは……まだ考えてないけど。
「……ん。見えてきた、アレだ。爺さんと婆さんの家。随分オンボロになっちまったなぁ」
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