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海で犯される少年
縁起でもないサプライズ
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「マサトっ! ほら急いで、こっち!」
「はあっ……ま、待ってよお姉ちゃん! 王様が倒れたってどういうこと? 一体何が……!」
「いいから早くっ! とにかく急がないと……。ほら、ここ! ここだよ!」
「ううっ……。お、お父さんっ……! お父さんっ!」
朝早く。ボクはマサトを叩き起こし、その知らせを告げた。そしてパジャマを着替える間もなく飛び出して、ボクは王様の待つあの部屋にマサトを導く。
急いでいた。一体お父さんに何があったのかと、必死になっていた。だけどボクはその顔に、幾ばくかの申し訳なさを感じながら……。
「お父さんっ!」
そうしてマサトが、とある一室の扉を開ける。大きな音を立てながら、ガチャンと。そしてそこで待っていたのは、病気で倒れてしまった王様……。――では、なく。舞い散る紙吹雪だった。
『パァン! パァンっ!』
「わっ!?」
「マサト様、お誕生日おめでと~~!!」
一気に沸き立つ、誕生日会場の面々。それぞれが紙吹雪を散らしながら、マサトに向けてお祝いの言葉をドカン! と。
「えっ……え? あれ? な、なにこれ。何がどうなって。お、お父さんっ!? 倒れたんじゃ……!?」
「あははは……。い、いやその。ごめんマサト。実は……こういうアレで」
会場の中央には、微笑みながらグラスを握る王様が。王様のその立ち姿は、とても病弱とは思えないほどの堅牢っぷり。そしてそれを見たマサトは、しばらくの間放心状態になって……。ふと、気が付くように叫んだ。
「……た、誕生日会~~ッ!?!?」
「いやあ、あははははっ……ソデス」
マサトを祝う、知り合いや家族の面々。そしてその中には、もちろんラフィールの姿もあった。ラフィールはいつものようにニヤニヤした顔で見つめ、サプライズ成功を悦んでいるようだった。
「いやあ、実は昨日……アレなんだよ。海に行ったでしょ? アレさあ……実は、マサトをここから出しておくためだったらしいんだよね」
「はっ??? はっ、なに、どゆこと!?!?」
「ほら。これだけ大きな会場を用意するとなると、時間もかかるし……バレる危険があったから。だからそれで、上手い事マサトを外に出すにはどうすれば、ってなって。ボクが……囮に」
「……はァッ?!?!」
要はそう言うことだったらしい。朝日が昇らぬうちから、ラフィールに叩き起こされたかと思えば……。サプライズするから手を貸せって。それでネタバラシされたかと思えば、この様だ。
「で、この会場までボクがマサトを、連れて来くるように頼まれて……。それでつい、王様が病気だなんて嘘を、あははは……」
「いやっ……縁起でも無さ過ぎでしょ、その嘘!?!? 誕生日にやる嘘じゃないよ!?!?」
「いや全くその通りだと思います本当。……はあー。いやでも、ラフィールがさあ……」
あの嘘を考えたのは、ラフィールだった。そうでもしなきゃ、マサトは驚かないからって。いやにしても、本当縁起でもない嘘だな……。
「マサト。……おめでとう」
「お、お父さん……。か、体は? 体は大丈夫なの?」
「ああ。フッ、我が病気などで死ぬと思うか? ……有り得んな」
マサトは王様の体をペタペタと触り、異常が無いかを確かめる。だけど見ての通り、王様は健康そのもの。そしてマサトはようやく状況を飲み込めたようで。ふと安心してしまったのか……涙を流した。
「も、もうっ……! おれ、本当に焦ったんだからなっ! おれ、本当にお父さんが死んじゃうのかと……!」
「心配するな。我はそう簡単に死なん。……お前に王の座を、譲るまではな」
「……王の座を?」
「おっと、失言だったか。……まあいい。今日はお前が主役だ、楽しめ。ほら……お前の兄も、あそこで待っているぞ」
と、マサトとラフィールの目が合う。ラフィールはニヤリと笑い、マサトはプッツン……。
「兄ちゃんッッッ!!!!」
「なはははははは!! 騙されるほうが悪ィんだバ~~カ!! あっはははははあは!!!」
「ふざけやがって、この野郎ッ……!! そ、そこに直れッ!! 今日こそそのふざけた性格、叩き直してやるッ!!」
まるで猫とネズミのように、追いかけまわされるお兄さん。仕方ない、全部アイツが悪い。一回くらい叩かれたほうがいいよ本当。
「あいてっ!! はは、悪かった悪かった。降参! 降参だって! なはははっ!」
「もうっ……本当に……! し、心配させやがって、もうっ……!」
「にししし……。ああ、悪かったよ。マサト。……おう、誕生日おめでとうよ!」
「くっ……! ば、ばかァっ……!!」
……ふう。どうやらマサトも、落ち着いたようだ。ムスっとした顔はそのままだけど、あれは……嬉し涙へと切り替わったのが、表情から見て取れる。……さて。今度はボクの番か……。
「あ、あのっ。マサト。……誕生日おめでとう!」
「お姉ちゃん……。……いや、まさかお姉ちゃんに騙されるとは……」
「いやその件に関しては、すみませんでした、本当……。いやもうちょっと、ライトな嘘にしときゃよかったかなって後悔してます……」
「はあー。……もういいよっ。その代わり今日一日、お姉ちゃんに付き合ってもらうからねっ! 絶対それまで、許さないからっ!」
「フフっ、うん……! もちろん!」
こうして誕生日会は、本格的に幕を開けた。ラフィールの用意した、音楽隊やらサーカスの出張やらが激しく踊りまわり。なんやかんやでサプライズは成功したようだった。
……よかった。とりあえず今のところは。ラフィールの狙い通り、上手く行ってるみたいで。にしてもまさか、アイツがこんなことを考えてたなんてなあ……。
「おう、ミノルッ。へへ、お勤めご苦労さん」
「ラフィールっ。もう、本当だよ。二度とボクにこんなことさせないでよねっ」
「ああ。悪かったって。……これも必要なことだったんだよ。……ありがとな、ミノル」
「っ……。い、いや。別に……ボクは」
「お前のおかげだよ。マサトが夢を諦めずに済んだのは。……ククク。狙い通り、お前はマサトをやる気にさせてくれたぜ」
ラフィールの狙いは、ただサプライズを成功させるためじゃない。――マサトの成長。それがラフィールの本当の目的だったらしい。
「王になるには、マサトは優し過ぎる。王ってのは、優しさだけじゃ務まらねえ。覚悟が必要だ。何が何でも王になって、民を幸せにしてやる……っていう覚悟がな。……お前のおかげで、とりあえずマサトは、その覚悟を用意出来たみてぇだ」
「……王を受け継ぐ者として、ってこと?」
「ああ。それに冗談抜きに。王ってのは、いつ死ぬかわからん。……病気でなくとも、誰かに殺される可能性だってあんだ。ある意味今回のサプライズは、その予行練習のつもりでもあったのよ」
「……まあ、そりゃ……。でもやり過ぎじゃない? さすがに」
「まあな。だが少しずつでも、アイツにはたくましくなってもらいてえんだ。……アイツだって、本当は……王に成りたがってるんだからよ。それならその夢を、叶えさせてやりてえじゃねえか」
「……」
まあ、それでも縁起でも無いのは変わらないけど……。……まあ、そういうことなら。よかったのかもな、これで。まだ誰も傷つかないうちに……。
「ねえ。お前が王様に成ろうとしてないのって、もしかしてマサトに……」
「あー腹減った! おいマサト、ケーキ全部食うなよ! 俺のも残しとけこらぁ!」
と、ボクの質問をはぐらかすように。ラフィールはケーキの奪い合いへと参戦。……はあ、全く。アイツはどうしてああなんだろう。
……でも、そうか。お兄ちゃんなんだな。やり方は回りくどいけど、弟を励ましたり……夢を叶えてあげさせたがってるんだ。……全く。素直じゃないヤツ……。
「……フフ。全く。にしても本当、もう少しやり方考えたほうがいいと思うけどねえ!?」
「お姉ちゃんっ! 見てこれ、ほら! 一番でっかいチョコの部分あげる!」
「チョコっ……!?」
「待てやマサト、そいつは俺ンだ! ヨコセッ!!」
「うるせえ馬鹿兄貴!! 兄ちゃんにはアレだ。ホイップしかあげないもんね!」
「何だとテメエ……。いい度胸してんじゃねえか、おもしれえ! 絶対食ってやる!!」
ケーキを巡り、熾烈な戦いを繰り広げる兄弟二人。だけどボクにはそれが、兄弟でじゃれ合っているだけのようにしか見えず。次第に会場の皆が笑い出し、ボクもそれに釣られて笑っていた。
「……ミノルよ」
「あははっ……。ん? ってうわあっ!? 王様ッ……!?」
そんな時だった。突然ボクは王様に話しかけられ、思わずケーキを落っことしてしまいそうになる。……ていうか、久しぶりだな。王様と話すのって。一か月ぶりくらい?
「び、ビックリしたっ……。は、はい。あのえっと。ど、どうされ、ました?」
「感謝するぞ。マサトの楽しそうな姿を見たのは、随分と久しいのでな」
「ああっ。い、いえ。そんな。ボクは別に、何も……」
「アイツは変わった。ミノルに出会い、少しずつ成長している。……この調子でいけば、いつかマサトが王を継ぐ日も来るやもしれぬな」
「……うん。確かに。そうあってほしいですね……」
世間話っ。めっちゃ世間話してるよ、ボクら。この人世間話とかする性格だったんだ……。知らんかった……。
「……で、決めたのか」
「え?」
「どちらと誓いを結ぶか、決めたのか……と聴いている」
「……あっ。い、いやっ。その、。……えっと、それは、まだ……」
「……。フン。そうか。まあいい。時間はゆっくりあるのだ、好きに考えればいい……。……だがそろそろ、コイツも必要になる頃だろう」
「あっ。お、王様っ? ……これは?」
王様はボクに、一本の小瓶を手渡した。それは、ピンク色の液体が入った……よくわからないもの。これは、何かの薬か?
「それをお前が飲めば。お前は、我らの子を孕む体へと変わることが出来る」
「……えっ……」
「体の変化を早める薬だ。……もしも今後、誰の子を産むか決心がついたのなら、それを飲むといい。飲んだ翌日には、お前は孕むことが出来る体になっているだろう」
「……えっ。えっ。そ、それって……」
「……まあ、飲む、飲まないはお前の自由だがな。……好きにするといい。マサトを笑顔にしてくれた、礼だ」
王様はそう言うと、何事も無かったかのようにパーティーへと戻っていった。そしてボクは、手のひらに収まる小瓶を見つめながら……。なんとも言えない悶々とした気持ちに包まれていた。
……そうか。これを飲めば、今すぐ産めるようになるのか。だとすれば、マサトの子供か、ラフィールの子供か。選ぶことが出来るってわけで……。
「……。……い、いやっ。何もそんな焦らなくても。……いい、よね」
ボクは小瓶をポッケにしまい、ケーキを頬張る。とりあえず結論は後回しにして。今はただパーティーを楽しもうとした。
……だけど心の中は、ずっとそわそわしていたんだ。なんだか、前に見たあの夢が……いよいよ現実になるような気がして。……落ち着かなかった。
「お姉ちゃんっ! あれ、お姉ちゃん? どうかしたの?」
「えっ? あ、ああ。いや。何でもないよ。……なんでも、ない……♡」
「はあっ……ま、待ってよお姉ちゃん! 王様が倒れたってどういうこと? 一体何が……!」
「いいから早くっ! とにかく急がないと……。ほら、ここ! ここだよ!」
「ううっ……。お、お父さんっ……! お父さんっ!」
朝早く。ボクはマサトを叩き起こし、その知らせを告げた。そしてパジャマを着替える間もなく飛び出して、ボクは王様の待つあの部屋にマサトを導く。
急いでいた。一体お父さんに何があったのかと、必死になっていた。だけどボクはその顔に、幾ばくかの申し訳なさを感じながら……。
「お父さんっ!」
そうしてマサトが、とある一室の扉を開ける。大きな音を立てながら、ガチャンと。そしてそこで待っていたのは、病気で倒れてしまった王様……。――では、なく。舞い散る紙吹雪だった。
『パァン! パァンっ!』
「わっ!?」
「マサト様、お誕生日おめでと~~!!」
一気に沸き立つ、誕生日会場の面々。それぞれが紙吹雪を散らしながら、マサトに向けてお祝いの言葉をドカン! と。
「えっ……え? あれ? な、なにこれ。何がどうなって。お、お父さんっ!? 倒れたんじゃ……!?」
「あははは……。い、いやその。ごめんマサト。実は……こういうアレで」
会場の中央には、微笑みながらグラスを握る王様が。王様のその立ち姿は、とても病弱とは思えないほどの堅牢っぷり。そしてそれを見たマサトは、しばらくの間放心状態になって……。ふと、気が付くように叫んだ。
「……た、誕生日会~~ッ!?!?」
「いやあ、あははははっ……ソデス」
マサトを祝う、知り合いや家族の面々。そしてその中には、もちろんラフィールの姿もあった。ラフィールはいつものようにニヤニヤした顔で見つめ、サプライズ成功を悦んでいるようだった。
「いやあ、実は昨日……アレなんだよ。海に行ったでしょ? アレさあ……実は、マサトをここから出しておくためだったらしいんだよね」
「はっ??? はっ、なに、どゆこと!?!?」
「ほら。これだけ大きな会場を用意するとなると、時間もかかるし……バレる危険があったから。だからそれで、上手い事マサトを外に出すにはどうすれば、ってなって。ボクが……囮に」
「……はァッ?!?!」
要はそう言うことだったらしい。朝日が昇らぬうちから、ラフィールに叩き起こされたかと思えば……。サプライズするから手を貸せって。それでネタバラシされたかと思えば、この様だ。
「で、この会場までボクがマサトを、連れて来くるように頼まれて……。それでつい、王様が病気だなんて嘘を、あははは……」
「いやっ……縁起でも無さ過ぎでしょ、その嘘!?!? 誕生日にやる嘘じゃないよ!?!?」
「いや全くその通りだと思います本当。……はあー。いやでも、ラフィールがさあ……」
あの嘘を考えたのは、ラフィールだった。そうでもしなきゃ、マサトは驚かないからって。いやにしても、本当縁起でもない嘘だな……。
「マサト。……おめでとう」
「お、お父さん……。か、体は? 体は大丈夫なの?」
「ああ。フッ、我が病気などで死ぬと思うか? ……有り得んな」
マサトは王様の体をペタペタと触り、異常が無いかを確かめる。だけど見ての通り、王様は健康そのもの。そしてマサトはようやく状況を飲み込めたようで。ふと安心してしまったのか……涙を流した。
「も、もうっ……! おれ、本当に焦ったんだからなっ! おれ、本当にお父さんが死んじゃうのかと……!」
「心配するな。我はそう簡単に死なん。……お前に王の座を、譲るまではな」
「……王の座を?」
「おっと、失言だったか。……まあいい。今日はお前が主役だ、楽しめ。ほら……お前の兄も、あそこで待っているぞ」
と、マサトとラフィールの目が合う。ラフィールはニヤリと笑い、マサトはプッツン……。
「兄ちゃんッッッ!!!!」
「なはははははは!! 騙されるほうが悪ィんだバ~~カ!! あっはははははあは!!!」
「ふざけやがって、この野郎ッ……!! そ、そこに直れッ!! 今日こそそのふざけた性格、叩き直してやるッ!!」
まるで猫とネズミのように、追いかけまわされるお兄さん。仕方ない、全部アイツが悪い。一回くらい叩かれたほうがいいよ本当。
「あいてっ!! はは、悪かった悪かった。降参! 降参だって! なはははっ!」
「もうっ……本当に……! し、心配させやがって、もうっ……!」
「にししし……。ああ、悪かったよ。マサト。……おう、誕生日おめでとうよ!」
「くっ……! ば、ばかァっ……!!」
……ふう。どうやらマサトも、落ち着いたようだ。ムスっとした顔はそのままだけど、あれは……嬉し涙へと切り替わったのが、表情から見て取れる。……さて。今度はボクの番か……。
「あ、あのっ。マサト。……誕生日おめでとう!」
「お姉ちゃん……。……いや、まさかお姉ちゃんに騙されるとは……」
「いやその件に関しては、すみませんでした、本当……。いやもうちょっと、ライトな嘘にしときゃよかったかなって後悔してます……」
「はあー。……もういいよっ。その代わり今日一日、お姉ちゃんに付き合ってもらうからねっ! 絶対それまで、許さないからっ!」
「フフっ、うん……! もちろん!」
こうして誕生日会は、本格的に幕を開けた。ラフィールの用意した、音楽隊やらサーカスの出張やらが激しく踊りまわり。なんやかんやでサプライズは成功したようだった。
……よかった。とりあえず今のところは。ラフィールの狙い通り、上手く行ってるみたいで。にしてもまさか、アイツがこんなことを考えてたなんてなあ……。
「おう、ミノルッ。へへ、お勤めご苦労さん」
「ラフィールっ。もう、本当だよ。二度とボクにこんなことさせないでよねっ」
「ああ。悪かったって。……これも必要なことだったんだよ。……ありがとな、ミノル」
「っ……。い、いや。別に……ボクは」
「お前のおかげだよ。マサトが夢を諦めずに済んだのは。……ククク。狙い通り、お前はマサトをやる気にさせてくれたぜ」
ラフィールの狙いは、ただサプライズを成功させるためじゃない。――マサトの成長。それがラフィールの本当の目的だったらしい。
「王になるには、マサトは優し過ぎる。王ってのは、優しさだけじゃ務まらねえ。覚悟が必要だ。何が何でも王になって、民を幸せにしてやる……っていう覚悟がな。……お前のおかげで、とりあえずマサトは、その覚悟を用意出来たみてぇだ」
「……王を受け継ぐ者として、ってこと?」
「ああ。それに冗談抜きに。王ってのは、いつ死ぬかわからん。……病気でなくとも、誰かに殺される可能性だってあんだ。ある意味今回のサプライズは、その予行練習のつもりでもあったのよ」
「……まあ、そりゃ……。でもやり過ぎじゃない? さすがに」
「まあな。だが少しずつでも、アイツにはたくましくなってもらいてえんだ。……アイツだって、本当は……王に成りたがってるんだからよ。それならその夢を、叶えさせてやりてえじゃねえか」
「……」
まあ、それでも縁起でも無いのは変わらないけど……。……まあ、そういうことなら。よかったのかもな、これで。まだ誰も傷つかないうちに……。
「ねえ。お前が王様に成ろうとしてないのって、もしかしてマサトに……」
「あー腹減った! おいマサト、ケーキ全部食うなよ! 俺のも残しとけこらぁ!」
と、ボクの質問をはぐらかすように。ラフィールはケーキの奪い合いへと参戦。……はあ、全く。アイツはどうしてああなんだろう。
……でも、そうか。お兄ちゃんなんだな。やり方は回りくどいけど、弟を励ましたり……夢を叶えてあげさせたがってるんだ。……全く。素直じゃないヤツ……。
「……フフ。全く。にしても本当、もう少しやり方考えたほうがいいと思うけどねえ!?」
「お姉ちゃんっ! 見てこれ、ほら! 一番でっかいチョコの部分あげる!」
「チョコっ……!?」
「待てやマサト、そいつは俺ンだ! ヨコセッ!!」
「うるせえ馬鹿兄貴!! 兄ちゃんにはアレだ。ホイップしかあげないもんね!」
「何だとテメエ……。いい度胸してんじゃねえか、おもしれえ! 絶対食ってやる!!」
ケーキを巡り、熾烈な戦いを繰り広げる兄弟二人。だけどボクにはそれが、兄弟でじゃれ合っているだけのようにしか見えず。次第に会場の皆が笑い出し、ボクもそれに釣られて笑っていた。
「……ミノルよ」
「あははっ……。ん? ってうわあっ!? 王様ッ……!?」
そんな時だった。突然ボクは王様に話しかけられ、思わずケーキを落っことしてしまいそうになる。……ていうか、久しぶりだな。王様と話すのって。一か月ぶりくらい?
「び、ビックリしたっ……。は、はい。あのえっと。ど、どうされ、ました?」
「感謝するぞ。マサトの楽しそうな姿を見たのは、随分と久しいのでな」
「ああっ。い、いえ。そんな。ボクは別に、何も……」
「アイツは変わった。ミノルに出会い、少しずつ成長している。……この調子でいけば、いつかマサトが王を継ぐ日も来るやもしれぬな」
「……うん。確かに。そうあってほしいですね……」
世間話っ。めっちゃ世間話してるよ、ボクら。この人世間話とかする性格だったんだ……。知らんかった……。
「……で、決めたのか」
「え?」
「どちらと誓いを結ぶか、決めたのか……と聴いている」
「……あっ。い、いやっ。その、。……えっと、それは、まだ……」
「……。フン。そうか。まあいい。時間はゆっくりあるのだ、好きに考えればいい……。……だがそろそろ、コイツも必要になる頃だろう」
「あっ。お、王様っ? ……これは?」
王様はボクに、一本の小瓶を手渡した。それは、ピンク色の液体が入った……よくわからないもの。これは、何かの薬か?
「それをお前が飲めば。お前は、我らの子を孕む体へと変わることが出来る」
「……えっ……」
「体の変化を早める薬だ。……もしも今後、誰の子を産むか決心がついたのなら、それを飲むといい。飲んだ翌日には、お前は孕むことが出来る体になっているだろう」
「……えっ。えっ。そ、それって……」
「……まあ、飲む、飲まないはお前の自由だがな。……好きにするといい。マサトを笑顔にしてくれた、礼だ」
王様はそう言うと、何事も無かったかのようにパーティーへと戻っていった。そしてボクは、手のひらに収まる小瓶を見つめながら……。なんとも言えない悶々とした気持ちに包まれていた。
……そうか。これを飲めば、今すぐ産めるようになるのか。だとすれば、マサトの子供か、ラフィールの子供か。選ぶことが出来るってわけで……。
「……。……い、いやっ。何もそんな焦らなくても。……いい、よね」
ボクは小瓶をポッケにしまい、ケーキを頬張る。とりあえず結論は後回しにして。今はただパーティーを楽しもうとした。
……だけど心の中は、ずっとそわそわしていたんだ。なんだか、前に見たあの夢が……いよいよ現実になるような気がして。……落ち着かなかった。
「お姉ちゃんっ! あれ、お姉ちゃん? どうかしたの?」
「えっ? あ、ああ。いや。何でもないよ。……なんでも、ない……♡」
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