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総仕上げ
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ーー修行開始から30日目
クルスとリナリーは寮の地下の修行場に集められた。
並んで立つクルスとリナリーの目の前には元霊界統括調律師団、師団長のアンナと同じく上級調律師ジャスパーが調律師団の制服を身につけ偉容な姿で並び立っている。
調律師団では現役を退いた後にもその権力、功績は称えられ現役と変わらぬ権限を持つとされている。言い換えれば上下関係がはっきりしており、例え現役の師団長であっても先人の師団長には逆らわない風習が暗黙的ではあるが存在する。
しかし、アンナを見ても分かるように師団長を務めあげたものはそのほとんどの者が権力を全く行使せず後人の育成に力を注ぐもしくは後輩達のバックアップに回るのである。
こうした『偉そうにしない』上役の考え方が尊敬される霊界統括調律師団の所以なのであろう。
そうした背景がある為、こうして制服を身に纏い並び立った二人の英姿とした立ち姿にクルスとリナリーはえも言えぬプレッシャーを感じ取るのであった。
粛々とした空気の中、アンナが口を開く。
「クルス、リナリー。あんた達はこの30日間、上級調律師としての基本移動術とそして各々の得意分野の修行をしてきた。」
「まずは二人共よくこの短期間で神速の会得を行った。これは大変感服の致すところである。二人共よく頑張ったね」
張り詰めた空気の中でふと見せたいつものアンナの口調に二人は笑顔になり元気よく返事をする。
「はい!ありがとうございます!」
「では今から上級調律師としての最終試練を行なう。説明するからよく聞きな」
「あんた達には修行が始まる前にある術をかけておいた。聖神力を限界まで使い切っても力が暴走しないようにリミッターをかける術だ」
「通常、ベースの調律師レベルでは聖神力を使い切るような神技は使わないが二人も修行を行って分かったように上級調律師は自身の聖神力を調整して使わなければならない。わかるね」
「はい。」
クルスとリナリーが声を揃えて返事をする。
「今のクルスの聖神力はおよそ100。そしてリナリーの聖神力は500と少しと言ったところだろう」
このアンナの言葉にクルスは驚く。リナリーの神技の力はある程度分かっているつもりだった。しかし今まで神技と言えば時空間移動術しか使ってこなかった為、実際の上限値を知る事もなかったのだ。
「でも本当に大切なのは聖神力の上限値ではなく、聖神力のコントロールにある」
「例えば二人が学んだ『神速』これは移動距離と発動のスピードに比例して多くの聖神力を必要とするんだ。」
ジャスパーがわかりやすく補足するように口を開く。
「クルスの神速戦闘術で1回に消費する聖神力はおよそ30。これは通常のそうだな、この修行場の中で戦闘を行うと考えた時に消費する平均値と考えていい。これが広範囲になりその中で神速を発動すればそれに比例して聖神力も多く消費する」
「だがこれは意識的には何もコントロールを行わなかった場合の消費量という事だ。例えば同じ移動距離でもより多くの聖神力を使用した場合どうなると思う?」
ジャスパーはクルスに問いかける。
「移動速度が上がる…ですか?」
クルスは自信なさげに答える。
「まぁ正解だけど。実際に見せてあげようか」
目の前でそう話しているジャスパーの気配が急に消えたような気がした。もちろんジャスパーは目の前にいる。声も聞こえる。
「どこを見ているんだい?」
二人の背中に何かの気配を感じ二人が振り向くとそこにはジャスパーが立っていた。
前を振り返るとそこにはジャスパーの姿はない。
「え、どういうこと?」
リナリーが驚いた表情で質問を投げかけた。
「今通常の3倍、およそ100の聖神力を注ぎ込んだ。目の前に姿はあるのに気配が消えただろう。もうそこに実体はないんだ。人の視覚の認識を超えたスピードで移動する事でそこには『残存体』が残る。人の意識のスピードを超えたんだ」
アンナが口を開く。
「わかったかい。神技によって様々だが聖神力をコントロールすると神技の速度、威力、強度、特性などが変化してくる」
「このコントロールを身に付ける事を『覚醒』と呼ぶ。あんた達には今、聖神力を制御する術がかけてあると言ったね。それを今から解術し、そしてあたしとジャスパーで聖神力を注ぎ込む。そうするとどうなるか…」
「キャパオーバー…暴走する?」
リナリーが不安な表情で答えた。リナリーは実際に暴走の経験がある為そう感じたのだ。
「そうだ。キャパシティが枯渇すると神技は能力者の意志とは関係なく生命力を吸い上げて暴走する。これが過去にリナリーが経験した暴走だね。生命力は人の命の源、生命力を聖神力に転化すると聖神力はキャパオーバー状態になり、そして暴走する。そのままの状態で転化し続けるとやがて死ぬがね」
「そのキャパオーバー状態を強制的に作り出しそれを制御するんだ。聖神力の状態制御それはすなわち聖神力のコントロールという事だ」
暴走と聞いてリナリーは小さく震えている。実際に暴走を経験したリナリーには言葉で聞く以上に簡単ではないことを理解していた。
そのリナリーを見てクルスも『覚醒』の言葉以上の恐ろしさを感じていた。
しかしクルスは恐怖心を抑え込みポンッとリナリーの肩に手を置いて短く語りかける。
「大丈夫だ、リナリー。」
そんなやり取りを見てアンナが優しい声で話し出した。
「二人共、心配するんじゃないよ。あんた達は今日まで厳しい修行に耐えてきた。神速をマスター出来た時点である程度の聖神力コントロールは身についているんだ。この『覚醒』はその総仕上げ。自分達のやってきた事、力を信じな」
アンナの言葉にリナリーの震えが治まる。そしてクルスとリナリーの瞳に強い意志が宿りアンナを見つめる。
「じゃ説明するよ。キャパオーバーになると聖神力が外部にものすごい勢いで漏れ出す、体に留めておけない状態になる。これを神速の着地点イメージのようにイメージする力で『体の周りで留める』」
「次に留めた聖神力を『体の中心に向かって圧縮する』イメージを行うんだ。今の二人ならここまでのイメージは容易なはずさ。そしてこの圧縮状態を出来るだけ長い時間行える様、そうだねまずは5分から徐々に伸ばしていこうか」
そう言うとアンナはリナリーにジャスパーはクルスの背面に回り込み、背中に手を当てる。
二人が同時にリミッターの解除を行うとクルスとリナリーには護られていた何かが無くなったような良く言うと開放感、悪く言うと広い荒野に何も身につけず晒されているような孤独感と不安に襲われた。
次の瞬間、強烈な何か、聖神力が体の中に注ぎ込まれる感覚に陥り、その膨大な聖神力は頭の頂点、両肩の上、腕、足、身体の至る部分から天に向かって放出されていくのを感じた。
アンナとジャスパーが背中に当てていた掌を離す。
クルスとリナリーは『留めるイメージ』と『圧縮するイメージ』で暴走する聖神力を押さえ込んだ。
「二人共どうだい。苦しいかい」
「くっ!」
「うっ!」
クルスとリナリーは表情を歪める。聖神力の圧縮は想像以上に苦痛を伴う。しかし二人は歯を食いしばり拳を握り締めるような体勢で圧縮のイメージを続けた。
5分後、アンナとジャスパーが二人に手を当て、送り込んだ聖神力の回収を行った。
倒れ込む、クルスとリナリー。
「はぁ、はぁ、はぁ、これはきっつい。でも暴走を抑えられた。はぁ、よかったー」
リナリーは過去に経験した暴走を自分の力で抑え込めたことに満足気な表情をみせる。クルスもそんな表情のリナリーのほうを見て微笑みかけた。
「うん。二人共上手く制御出来てるよ。これから依頼が出来るギリギリのライン、そうだねあと3日間で完全に抑え込めるようになるまで修行を行う」
「はい!」
声を揃えて返事をするクルスとリナリー。二人はこの後、徐々にコントロールのコツを掴み3日後見事『覚醒』を果たすのであった。
クルスとリナリーは寮の地下の修行場に集められた。
並んで立つクルスとリナリーの目の前には元霊界統括調律師団、師団長のアンナと同じく上級調律師ジャスパーが調律師団の制服を身につけ偉容な姿で並び立っている。
調律師団では現役を退いた後にもその権力、功績は称えられ現役と変わらぬ権限を持つとされている。言い換えれば上下関係がはっきりしており、例え現役の師団長であっても先人の師団長には逆らわない風習が暗黙的ではあるが存在する。
しかし、アンナを見ても分かるように師団長を務めあげたものはそのほとんどの者が権力を全く行使せず後人の育成に力を注ぐもしくは後輩達のバックアップに回るのである。
こうした『偉そうにしない』上役の考え方が尊敬される霊界統括調律師団の所以なのであろう。
そうした背景がある為、こうして制服を身に纏い並び立った二人の英姿とした立ち姿にクルスとリナリーはえも言えぬプレッシャーを感じ取るのであった。
粛々とした空気の中、アンナが口を開く。
「クルス、リナリー。あんた達はこの30日間、上級調律師としての基本移動術とそして各々の得意分野の修行をしてきた。」
「まずは二人共よくこの短期間で神速の会得を行った。これは大変感服の致すところである。二人共よく頑張ったね」
張り詰めた空気の中でふと見せたいつものアンナの口調に二人は笑顔になり元気よく返事をする。
「はい!ありがとうございます!」
「では今から上級調律師としての最終試練を行なう。説明するからよく聞きな」
「あんた達には修行が始まる前にある術をかけておいた。聖神力を限界まで使い切っても力が暴走しないようにリミッターをかける術だ」
「通常、ベースの調律師レベルでは聖神力を使い切るような神技は使わないが二人も修行を行って分かったように上級調律師は自身の聖神力を調整して使わなければならない。わかるね」
「はい。」
クルスとリナリーが声を揃えて返事をする。
「今のクルスの聖神力はおよそ100。そしてリナリーの聖神力は500と少しと言ったところだろう」
このアンナの言葉にクルスは驚く。リナリーの神技の力はある程度分かっているつもりだった。しかし今まで神技と言えば時空間移動術しか使ってこなかった為、実際の上限値を知る事もなかったのだ。
「でも本当に大切なのは聖神力の上限値ではなく、聖神力のコントロールにある」
「例えば二人が学んだ『神速』これは移動距離と発動のスピードに比例して多くの聖神力を必要とするんだ。」
ジャスパーがわかりやすく補足するように口を開く。
「クルスの神速戦闘術で1回に消費する聖神力はおよそ30。これは通常のそうだな、この修行場の中で戦闘を行うと考えた時に消費する平均値と考えていい。これが広範囲になりその中で神速を発動すればそれに比例して聖神力も多く消費する」
「だがこれは意識的には何もコントロールを行わなかった場合の消費量という事だ。例えば同じ移動距離でもより多くの聖神力を使用した場合どうなると思う?」
ジャスパーはクルスに問いかける。
「移動速度が上がる…ですか?」
クルスは自信なさげに答える。
「まぁ正解だけど。実際に見せてあげようか」
目の前でそう話しているジャスパーの気配が急に消えたような気がした。もちろんジャスパーは目の前にいる。声も聞こえる。
「どこを見ているんだい?」
二人の背中に何かの気配を感じ二人が振り向くとそこにはジャスパーが立っていた。
前を振り返るとそこにはジャスパーの姿はない。
「え、どういうこと?」
リナリーが驚いた表情で質問を投げかけた。
「今通常の3倍、およそ100の聖神力を注ぎ込んだ。目の前に姿はあるのに気配が消えただろう。もうそこに実体はないんだ。人の視覚の認識を超えたスピードで移動する事でそこには『残存体』が残る。人の意識のスピードを超えたんだ」
アンナが口を開く。
「わかったかい。神技によって様々だが聖神力をコントロールすると神技の速度、威力、強度、特性などが変化してくる」
「このコントロールを身に付ける事を『覚醒』と呼ぶ。あんた達には今、聖神力を制御する術がかけてあると言ったね。それを今から解術し、そしてあたしとジャスパーで聖神力を注ぎ込む。そうするとどうなるか…」
「キャパオーバー…暴走する?」
リナリーが不安な表情で答えた。リナリーは実際に暴走の経験がある為そう感じたのだ。
「そうだ。キャパシティが枯渇すると神技は能力者の意志とは関係なく生命力を吸い上げて暴走する。これが過去にリナリーが経験した暴走だね。生命力は人の命の源、生命力を聖神力に転化すると聖神力はキャパオーバー状態になり、そして暴走する。そのままの状態で転化し続けるとやがて死ぬがね」
「そのキャパオーバー状態を強制的に作り出しそれを制御するんだ。聖神力の状態制御それはすなわち聖神力のコントロールという事だ」
暴走と聞いてリナリーは小さく震えている。実際に暴走を経験したリナリーには言葉で聞く以上に簡単ではないことを理解していた。
そのリナリーを見てクルスも『覚醒』の言葉以上の恐ろしさを感じていた。
しかしクルスは恐怖心を抑え込みポンッとリナリーの肩に手を置いて短く語りかける。
「大丈夫だ、リナリー。」
そんなやり取りを見てアンナが優しい声で話し出した。
「二人共、心配するんじゃないよ。あんた達は今日まで厳しい修行に耐えてきた。神速をマスター出来た時点である程度の聖神力コントロールは身についているんだ。この『覚醒』はその総仕上げ。自分達のやってきた事、力を信じな」
アンナの言葉にリナリーの震えが治まる。そしてクルスとリナリーの瞳に強い意志が宿りアンナを見つめる。
「じゃ説明するよ。キャパオーバーになると聖神力が外部にものすごい勢いで漏れ出す、体に留めておけない状態になる。これを神速の着地点イメージのようにイメージする力で『体の周りで留める』」
「次に留めた聖神力を『体の中心に向かって圧縮する』イメージを行うんだ。今の二人ならここまでのイメージは容易なはずさ。そしてこの圧縮状態を出来るだけ長い時間行える様、そうだねまずは5分から徐々に伸ばしていこうか」
そう言うとアンナはリナリーにジャスパーはクルスの背面に回り込み、背中に手を当てる。
二人が同時にリミッターの解除を行うとクルスとリナリーには護られていた何かが無くなったような良く言うと開放感、悪く言うと広い荒野に何も身につけず晒されているような孤独感と不安に襲われた。
次の瞬間、強烈な何か、聖神力が体の中に注ぎ込まれる感覚に陥り、その膨大な聖神力は頭の頂点、両肩の上、腕、足、身体の至る部分から天に向かって放出されていくのを感じた。
アンナとジャスパーが背中に当てていた掌を離す。
クルスとリナリーは『留めるイメージ』と『圧縮するイメージ』で暴走する聖神力を押さえ込んだ。
「二人共どうだい。苦しいかい」
「くっ!」
「うっ!」
クルスとリナリーは表情を歪める。聖神力の圧縮は想像以上に苦痛を伴う。しかし二人は歯を食いしばり拳を握り締めるような体勢で圧縮のイメージを続けた。
5分後、アンナとジャスパーが二人に手を当て、送り込んだ聖神力の回収を行った。
倒れ込む、クルスとリナリー。
「はぁ、はぁ、はぁ、これはきっつい。でも暴走を抑えられた。はぁ、よかったー」
リナリーは過去に経験した暴走を自分の力で抑え込めたことに満足気な表情をみせる。クルスもそんな表情のリナリーのほうを見て微笑みかけた。
「うん。二人共上手く制御出来てるよ。これから依頼が出来るギリギリのライン、そうだねあと3日間で完全に抑え込めるようになるまで修行を行う」
「はい!」
声を揃えて返事をするクルスとリナリー。二人はこの後、徐々にコントロールのコツを掴み3日後見事『覚醒』を果たすのであった。
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