11 / 15
一刀三礼
しおりを挟む
ー修行開始から25日目ー
ーーキィィィィーン!
四方をコンクリートで囲まれ何もない空間に乾いた金属音が幾度となく響き渡る。
ーーキンッ!
短く詰まったような金属音の直後、日本刀によく似た片手剣が中を舞い地面に突き刺さる。
「参った。ここまでよく頑張ったな」
仰向けに倒れた男が軽く両手を上げ降参の意志を示す。
「はぁ、はぁ、ありがうございます。ジャスパーさん」
クルスは両手剣を地面に突き立て、倒れたジャスパーに手を伸ばす。ジャスパーはクルスの手を取り体を起こした。
二人共満身創痍といった風貌ではあるが向かい合い満足気な表情で笑顔を交わす。
「よくこの短期間で神速を身につけたな。いやはやなかなかの才能だよ」
「ジャスパーさんに散々苛められたお陰ですよ」
クルスは冗談混じりに笑いながらそう返す。
「初めて神速を見た時には何が起こったのか、全く理解できないまま殺されると本気で思いましたからね」
そう、修行初日にジャスパーが見せた『消える』正体が神速だったのだ。
そしてクルスは25日目にして基本移動術『神速』を会得し、神速を利用した戦闘術をマスターしたのであった。
「俺の演技も大したものだろ?」
「一か八かの賭けだったんだよ。この『神速』は通常1ヶ月そこらで身につけることが出来る術じゃないからね。それこそ誰もが身につけられる術でもない。才能も必要なんだ。それを師団長と来たら「1ヶ月でものにしな」ときた。」
「才能がなく、ものにならない時には『誤って殺ってしまった』って言う言い訳も考えた」
冗談交じりで返すジャスパーだが「この人は本気で考えているかもしれない」と思うクルスであった。
修行初日にジャスパーに神速を使った戦闘術を直接見せつけられた。ジャスパーは短期間で神速を身につけさせるため理論的に教えるのではなく、実際の命のやり取りを行なうギリギリの戦闘の中で神速を体得させる方法を取ったのである。
リナリーは12日という短期間で神速をマスターしたが、これはリナリーの才能という他ない。アンナはそれを見抜き倫理的に術の仕組みを教えマスターさせたが通常はそうはいかない。
上級調律師の中で天才と称されるアンナはそれを見抜き、出来る限りの短時間で引き出した。これは今まで霊界統括調律師団で様々なタイプの上級調律師達を指導し、まとめ上げ、引っ張ってきたアンナの『才能を見抜く』手腕の賜物である。
このような『神速』の術を身につけさせるためジャスパーが取った手段は自身が『悪者』になり、殺意を見せつけることでクルスの本気と才能を出来る限り早く引き出したのだ。
初日にジャスパーに倒されたクルスが目を覚ましたのは二日後。丁寧に手当され痛みは残るが動くには問題がない程度に治癒術が施された。
目を覚ましたクルスには戦闘にて見せた『消える』術が『神速』と言う時空間移動術だと言うこと、そして30日以内に自身の見せた『神速』を身につけなければ命を絶つという事を伝えた。
細かな説明は邪魔になると考えたジャスパーは
「一刀三礼」
と言うヒントだけ与え、あとはただひたすら実践にて悪者を演じクルスに自身にて術を身につけるのを待ったのである。
一刀三礼とは直訳では仏像を彫る際一刀掘る事に三度、神仏を慈しみ礼を行なう様を表した言葉である。
ジャスパーの伝えたかった事は『神速』発動の行動パターンと神技への慈しみ(念)である。
神速の発動はまず、
第一に『移動先の着地点イメージ』の念が必要になる。
第二に『時空間移動発動』の念。
第三に『時空間帰還』の念にてイメージした着地点に到達するのだ。
これを一刀振るう極短時間にて行なう神速戦闘術の教えなのである。
合間合間にヒントを与えるある種の優しさを見せるジャスパーにクルスは「演じているのでは」とも感じたが次の瞬間「本気の殺気」を見せつけるアメとムチで見事神速を身につけさせた。
「さすがランドルフ家の長子と言ったところ、剣術の技はそこいらの調律師ではかなわないだろう。しかし、調律師には時空間移動術がある。どれだけ剣術の腕があってもそれだけでは格下の剣使いにもあっという間にやられてしまう」
「はい、それは初日に痛いほど思い知らされました。ジャスパーさんは格下の剣使いではないですけどね」
クルスは苦笑いの表情で答える。
「いや、単純な剣術の腕ならクルスにかなわないだろう」
ジャスパーは謙遜する。
「この神速は剣術ととても相性がいいんだ。剣使いは神速をマスターする事で必殺の技になる」
「はい。」
「ひとつ現時点のクルスの弱点は聖神力の総量だろう。クルスの聖神力はだいたい100弱。神速の発動には約30必要だ。聖神力は一晩寝ればほぼ回復するがそれでも一日に発動できる数は『3回』だな」
「体力的にも3回が限界だろうがそれ以上の発動を無理に行うと時空間に囚われる可能性もある。気をつけるんだな」
「はい。わかりました」
「次、鍛えてやる時には総量の引き上げを手ほどきしてやろう。まぁやり方は今回とさほど変わらないがな」
ジャスパーは笑いながらも冷酷な目付きでクルスを見つめそう話す。
「は、はい」
「あとはリナリーの修行完了まで体を休めるんだな。あと5日ほど残っているだろ」
「はい。もし良ければ残りの時間でもう少し剣術の修行をつけてもらえませんか?あの、出来れば普通に…」
「それは構わないが俺の普通はこれなんだが。殺気はある程度抑えてやるが」
表情を変えずにそう答えるジャスパー。
「お、お願いします」
狼族の冷酷さが所々本心に思え、未だ少し恐怖心が消えないクルスでなのあった。
ーー修行開始から25日目。クルス『神速戦闘術』マスター
ーーキィィィィーン!
四方をコンクリートで囲まれ何もない空間に乾いた金属音が幾度となく響き渡る。
ーーキンッ!
短く詰まったような金属音の直後、日本刀によく似た片手剣が中を舞い地面に突き刺さる。
「参った。ここまでよく頑張ったな」
仰向けに倒れた男が軽く両手を上げ降参の意志を示す。
「はぁ、はぁ、ありがうございます。ジャスパーさん」
クルスは両手剣を地面に突き立て、倒れたジャスパーに手を伸ばす。ジャスパーはクルスの手を取り体を起こした。
二人共満身創痍といった風貌ではあるが向かい合い満足気な表情で笑顔を交わす。
「よくこの短期間で神速を身につけたな。いやはやなかなかの才能だよ」
「ジャスパーさんに散々苛められたお陰ですよ」
クルスは冗談混じりに笑いながらそう返す。
「初めて神速を見た時には何が起こったのか、全く理解できないまま殺されると本気で思いましたからね」
そう、修行初日にジャスパーが見せた『消える』正体が神速だったのだ。
そしてクルスは25日目にして基本移動術『神速』を会得し、神速を利用した戦闘術をマスターしたのであった。
「俺の演技も大したものだろ?」
「一か八かの賭けだったんだよ。この『神速』は通常1ヶ月そこらで身につけることが出来る術じゃないからね。それこそ誰もが身につけられる術でもない。才能も必要なんだ。それを師団長と来たら「1ヶ月でものにしな」ときた。」
「才能がなく、ものにならない時には『誤って殺ってしまった』って言う言い訳も考えた」
冗談交じりで返すジャスパーだが「この人は本気で考えているかもしれない」と思うクルスであった。
修行初日にジャスパーに神速を使った戦闘術を直接見せつけられた。ジャスパーは短期間で神速を身につけさせるため理論的に教えるのではなく、実際の命のやり取りを行なうギリギリの戦闘の中で神速を体得させる方法を取ったのである。
リナリーは12日という短期間で神速をマスターしたが、これはリナリーの才能という他ない。アンナはそれを見抜き倫理的に術の仕組みを教えマスターさせたが通常はそうはいかない。
上級調律師の中で天才と称されるアンナはそれを見抜き、出来る限りの短時間で引き出した。これは今まで霊界統括調律師団で様々なタイプの上級調律師達を指導し、まとめ上げ、引っ張ってきたアンナの『才能を見抜く』手腕の賜物である。
このような『神速』の術を身につけさせるためジャスパーが取った手段は自身が『悪者』になり、殺意を見せつけることでクルスの本気と才能を出来る限り早く引き出したのだ。
初日にジャスパーに倒されたクルスが目を覚ましたのは二日後。丁寧に手当され痛みは残るが動くには問題がない程度に治癒術が施された。
目を覚ましたクルスには戦闘にて見せた『消える』術が『神速』と言う時空間移動術だと言うこと、そして30日以内に自身の見せた『神速』を身につけなければ命を絶つという事を伝えた。
細かな説明は邪魔になると考えたジャスパーは
「一刀三礼」
と言うヒントだけ与え、あとはただひたすら実践にて悪者を演じクルスに自身にて術を身につけるのを待ったのである。
一刀三礼とは直訳では仏像を彫る際一刀掘る事に三度、神仏を慈しみ礼を行なう様を表した言葉である。
ジャスパーの伝えたかった事は『神速』発動の行動パターンと神技への慈しみ(念)である。
神速の発動はまず、
第一に『移動先の着地点イメージ』の念が必要になる。
第二に『時空間移動発動』の念。
第三に『時空間帰還』の念にてイメージした着地点に到達するのだ。
これを一刀振るう極短時間にて行なう神速戦闘術の教えなのである。
合間合間にヒントを与えるある種の優しさを見せるジャスパーにクルスは「演じているのでは」とも感じたが次の瞬間「本気の殺気」を見せつけるアメとムチで見事神速を身につけさせた。
「さすがランドルフ家の長子と言ったところ、剣術の技はそこいらの調律師ではかなわないだろう。しかし、調律師には時空間移動術がある。どれだけ剣術の腕があってもそれだけでは格下の剣使いにもあっという間にやられてしまう」
「はい、それは初日に痛いほど思い知らされました。ジャスパーさんは格下の剣使いではないですけどね」
クルスは苦笑いの表情で答える。
「いや、単純な剣術の腕ならクルスにかなわないだろう」
ジャスパーは謙遜する。
「この神速は剣術ととても相性がいいんだ。剣使いは神速をマスターする事で必殺の技になる」
「はい。」
「ひとつ現時点のクルスの弱点は聖神力の総量だろう。クルスの聖神力はだいたい100弱。神速の発動には約30必要だ。聖神力は一晩寝ればほぼ回復するがそれでも一日に発動できる数は『3回』だな」
「体力的にも3回が限界だろうがそれ以上の発動を無理に行うと時空間に囚われる可能性もある。気をつけるんだな」
「はい。わかりました」
「次、鍛えてやる時には総量の引き上げを手ほどきしてやろう。まぁやり方は今回とさほど変わらないがな」
ジャスパーは笑いながらも冷酷な目付きでクルスを見つめそう話す。
「は、はい」
「あとはリナリーの修行完了まで体を休めるんだな。あと5日ほど残っているだろ」
「はい。もし良ければ残りの時間でもう少し剣術の修行をつけてもらえませんか?あの、出来れば普通に…」
「それは構わないが俺の普通はこれなんだが。殺気はある程度抑えてやるが」
表情を変えずにそう答えるジャスパー。
「お、お願いします」
狼族の冷酷さが所々本心に思え、未だ少し恐怖心が消えないクルスでなのあった。
ーー修行開始から25日目。クルス『神速戦闘術』マスター
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる