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アンナの判断
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「お待たせしましたー」
準備を終えたリナリーが少しおめかしした依頼時のスタイルで管理人室に入ってきた。
「リナリーもちょっと座りな」
「は、はい。」
アンナのトーンの低い、落ち着いた口調に少し緊張した面持ちでクルスの隣に腰掛けた。
アンナは一度立ち上がり、奥の部屋へ入る。少しすると飲み物を手に取り帰ってきた。
そしてクルスとリナリーに「飲みな」と飲み物を手渡し話始めた。
「クルス、リナリー。今回の依頼はとりあえず保留にしな。」
「え、なんで?」
リナリーが問いかける。
「あんた達の力を低くみてる訳では無いけどね、神界からの依頼を受けるには実力不足だと感じるからだね」
「神界からの依頼を上級調律師が受けるには理由がある。神界からの依頼は本来、神界の神々が行うべき調律を行なうという事なんだ。」
「神々の調律…」
クルスが呟く。
「神々が行なう調律には高度な時空間移動の力と戦闘スキルが求められる。」
「それらの調律を行うために時空間移動スキルを一定以上のレベルで身につけ、同時に個々の得意スキルを徹底的に磨き上げた調律師。それが上級調律師なんだよ」
「スキルが足りない場合はどうなるの?」
リナリーが恐る恐る問いかける。
「最悪、死ぬだろうね」
「今回の依頼は私が推測するにリナリーの能力が関係している。それを知っている者からの依頼の可能性が高いと考える。それ以外に二人に依頼を行う理由がないからね。」
「そう考えると今のあんた達の力では力不足なんだよ」
クルスとリナリーは沈黙を返した。
クルスはリナリーの過去を知るため今回の依頼を受ける決心をした。ここで依頼を受けないとなるとリナリーの過去を知る一筋の希望が絶たれてしまう、そんな気がしたのだ。
アンナはそんなクルスの内心を見透かすように言葉を続けた。
「何も今回の依頼を受けるなとは言ってないよ。あたしは受けるべきだと感じている。エドガーには怒られるかもしれないがね」
「リナリー、あんた前にあたしに言ったね。『自分の過去を探している』と。」
「うん。わたしはクルスとお父さんとお母さんにはとっても感謝しているし、本当の家族だと思ってる。でも自分がランドルフ家に来る前の『無くなった記憶』を探したいとも思ってる。」
「それにこの能力の事も…」
「リナリーには時空間破壊の一子相伝についてはここに来た頃に話した。そして、他言無用にしたのはこのあたしだ。今、クルスにもその話をしてたんだよ」
アンナは意思を確認するようにリナリーに語りかけ、クルスに目線を向ける。
「そして、クルスもリナリーの過去を知りたいと思っている。そうだろ?」
「はい、リナリーがどこの誰でもそんな事は関係ない。リナリーは俺の大切な妹なんです。俺はリナリーを守る為に過去を知りたいと思っています。」
「守護者を守る為、守護者の全てを知る。あんたは本当にエドガーそっくりだね」
アンリはクルスの成長を喜ぶような表情でクルスの顔を見つめた。
「そこでだ」
アンリは仕切り直すような口調で語りかける。
「チャージリクエストの依頼受諾期限はいつまであるんだい。これは機密内容に触れないから答えても大丈夫だから教えな」
「1ヶ月と10日あります」
「少し短いね。二人ともよく聞きな。今日から1ヶ月であんた達は自身のレベルアップを行う事。目標は最低限、上級調律師の調律師資格を得られるレベルにだ」
二人はアンナの言葉に驚きと不安の表情を浮かべながら言葉を返す。
「上級調律師…」
「一体どうやって…」
二人がそう答えた瞬間、管理人室の扉が開き一人の男が入ってくる。
「あんたいつまでロビーで突っ立ってるつもりだったんだい?」
アンナが苦笑いしながら男に話しかけた。
「師団長が熱く語ってるんで入るに入れなかったんですよ」
「その呼び方はもうやめな。もうあたしは現役じゃないんだよ」
クルスとリナリーは二人のやり取りを唖然とした表情で見つめる。
「あの、この方は?あと、師団長って言うのは…?」
クルスがアンナと男の顔を見返しながら質問すると男が口を開いた。
「おっと、失礼。元、霊界統括調律師団の『ジャスパー』と申します。初めまして、クルス、リナリー」
男は上級調律師団式の敬礼で二人に挨拶をしてみせた。そしてアンナの方に一度視線を向け、二人に視線を戻し話を続ける
「そして、そちらにいらっしゃいますのが元、霊界統括調律師団、師団長のアンナ上級調律師団長でございます」
「え、えぇぇぇぇえ!!!」
リナリーが寮全体に聞こえるほどの大声で驚きを返した。クルスも驚きの表情を隠せない。
「アンナさん、上級調律師だったの?しかも師団長って…!!」
リナリーは尊敬の眼差しで、目をキラキラさせながらアンナに問いかける。
アンナはやれやれという表情を見せ、
「昔の話だよ。話を戻すよ。今日からクルスはそこのジャスパーに付いて時空間移動の精度向上と剣術スキルのレベルアップを行うんだ。ジャスパーは師団一の片手剣の使い手だ。獲物は違うが色々と教わるといい」
「はい!よろしくお願いします!ジャスパーさん」
クルスは立ち上がりジャスパーに頭を下げた。
「そして、リナリー。あんたはあたしと時空間破壊術の制御方法を身につける修行を行なう」
「え、時空間破壊は使わない方がいいんじゃ…」
リナリーがアンナに問いかける。
「秘術と呼ばれる隠すべき能力を持っている術者は『他者に知られない術の使い方』を持っているもんなんだよ。あんたにはその方法を身につけてもらう」
不安そうな表情をみせるリナリーに柱にもたれ掛かり腕組をしたジャスパーが口を開く。
「リナリーちゃん、安心しな、アンナさんは秘術のスペシャリストだ。秘術アレンジのバリエーションでアンナさんの右に出るものはいないからね」
リナリーを見つめながらニコッと笑いかけるジャスパー。
そして、アンナはクルスとリナリーに交互に視線を交わし声を掛ける。
「二人ともこの1ヶ月間、死ぬ気で励みな!」
『よろしくお願いします!!』
二人は立ち上がり、アンナとジャスパーの方に深々と礼を行なう。
…この日からクルスとリナリーの激しい修行が始まる。
準備を終えたリナリーが少しおめかしした依頼時のスタイルで管理人室に入ってきた。
「リナリーもちょっと座りな」
「は、はい。」
アンナのトーンの低い、落ち着いた口調に少し緊張した面持ちでクルスの隣に腰掛けた。
アンナは一度立ち上がり、奥の部屋へ入る。少しすると飲み物を手に取り帰ってきた。
そしてクルスとリナリーに「飲みな」と飲み物を手渡し話始めた。
「クルス、リナリー。今回の依頼はとりあえず保留にしな。」
「え、なんで?」
リナリーが問いかける。
「あんた達の力を低くみてる訳では無いけどね、神界からの依頼を受けるには実力不足だと感じるからだね」
「神界からの依頼を上級調律師が受けるには理由がある。神界からの依頼は本来、神界の神々が行うべき調律を行なうという事なんだ。」
「神々の調律…」
クルスが呟く。
「神々が行なう調律には高度な時空間移動の力と戦闘スキルが求められる。」
「それらの調律を行うために時空間移動スキルを一定以上のレベルで身につけ、同時に個々の得意スキルを徹底的に磨き上げた調律師。それが上級調律師なんだよ」
「スキルが足りない場合はどうなるの?」
リナリーが恐る恐る問いかける。
「最悪、死ぬだろうね」
「今回の依頼は私が推測するにリナリーの能力が関係している。それを知っている者からの依頼の可能性が高いと考える。それ以外に二人に依頼を行う理由がないからね。」
「そう考えると今のあんた達の力では力不足なんだよ」
クルスとリナリーは沈黙を返した。
クルスはリナリーの過去を知るため今回の依頼を受ける決心をした。ここで依頼を受けないとなるとリナリーの過去を知る一筋の希望が絶たれてしまう、そんな気がしたのだ。
アンナはそんなクルスの内心を見透かすように言葉を続けた。
「何も今回の依頼を受けるなとは言ってないよ。あたしは受けるべきだと感じている。エドガーには怒られるかもしれないがね」
「リナリー、あんた前にあたしに言ったね。『自分の過去を探している』と。」
「うん。わたしはクルスとお父さんとお母さんにはとっても感謝しているし、本当の家族だと思ってる。でも自分がランドルフ家に来る前の『無くなった記憶』を探したいとも思ってる。」
「それにこの能力の事も…」
「リナリーには時空間破壊の一子相伝についてはここに来た頃に話した。そして、他言無用にしたのはこのあたしだ。今、クルスにもその話をしてたんだよ」
アンナは意思を確認するようにリナリーに語りかけ、クルスに目線を向ける。
「そして、クルスもリナリーの過去を知りたいと思っている。そうだろ?」
「はい、リナリーがどこの誰でもそんな事は関係ない。リナリーは俺の大切な妹なんです。俺はリナリーを守る為に過去を知りたいと思っています。」
「守護者を守る為、守護者の全てを知る。あんたは本当にエドガーそっくりだね」
アンリはクルスの成長を喜ぶような表情でクルスの顔を見つめた。
「そこでだ」
アンリは仕切り直すような口調で語りかける。
「チャージリクエストの依頼受諾期限はいつまであるんだい。これは機密内容に触れないから答えても大丈夫だから教えな」
「1ヶ月と10日あります」
「少し短いね。二人ともよく聞きな。今日から1ヶ月であんた達は自身のレベルアップを行う事。目標は最低限、上級調律師の調律師資格を得られるレベルにだ」
二人はアンナの言葉に驚きと不安の表情を浮かべながら言葉を返す。
「上級調律師…」
「一体どうやって…」
二人がそう答えた瞬間、管理人室の扉が開き一人の男が入ってくる。
「あんたいつまでロビーで突っ立ってるつもりだったんだい?」
アンナが苦笑いしながら男に話しかけた。
「師団長が熱く語ってるんで入るに入れなかったんですよ」
「その呼び方はもうやめな。もうあたしは現役じゃないんだよ」
クルスとリナリーは二人のやり取りを唖然とした表情で見つめる。
「あの、この方は?あと、師団長って言うのは…?」
クルスがアンナと男の顔を見返しながら質問すると男が口を開いた。
「おっと、失礼。元、霊界統括調律師団の『ジャスパー』と申します。初めまして、クルス、リナリー」
男は上級調律師団式の敬礼で二人に挨拶をしてみせた。そしてアンナの方に一度視線を向け、二人に視線を戻し話を続ける
「そして、そちらにいらっしゃいますのが元、霊界統括調律師団、師団長のアンナ上級調律師団長でございます」
「え、えぇぇぇぇえ!!!」
リナリーが寮全体に聞こえるほどの大声で驚きを返した。クルスも驚きの表情を隠せない。
「アンナさん、上級調律師だったの?しかも師団長って…!!」
リナリーは尊敬の眼差しで、目をキラキラさせながらアンナに問いかける。
アンナはやれやれという表情を見せ、
「昔の話だよ。話を戻すよ。今日からクルスはそこのジャスパーに付いて時空間移動の精度向上と剣術スキルのレベルアップを行うんだ。ジャスパーは師団一の片手剣の使い手だ。獲物は違うが色々と教わるといい」
「はい!よろしくお願いします!ジャスパーさん」
クルスは立ち上がりジャスパーに頭を下げた。
「そして、リナリー。あんたはあたしと時空間破壊術の制御方法を身につける修行を行なう」
「え、時空間破壊は使わない方がいいんじゃ…」
リナリーがアンナに問いかける。
「秘術と呼ばれる隠すべき能力を持っている術者は『他者に知られない術の使い方』を持っているもんなんだよ。あんたにはその方法を身につけてもらう」
不安そうな表情をみせるリナリーに柱にもたれ掛かり腕組をしたジャスパーが口を開く。
「リナリーちゃん、安心しな、アンナさんは秘術のスペシャリストだ。秘術アレンジのバリエーションでアンナさんの右に出るものはいないからね」
リナリーを見つめながらニコッと笑いかけるジャスパー。
そして、アンナはクルスとリナリーに交互に視線を交わし声を掛ける。
「二人ともこの1ヶ月間、死ぬ気で励みな!」
『よろしくお願いします!!』
二人は立ち上がり、アンナとジャスパーの方に深々と礼を行なう。
…この日からクルスとリナリーの激しい修行が始まる。
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