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初めてのオシゴト

第4話

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「大人げなく取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
 受付嬢さんが頭を下げ、
「いえ、僕もの方こそ子供みたいに騒いでしまって、すみません」
 僕も頭を下げる。これで、お互い手打ちである。気持ちがリセット出来たところで、
「それで、僕が冒険者登録するに当たって記入した内容の、何が疑問なんですか?」
 年齢に問題がないのだとしたら、後は名前が偽名だって疑われているくらいしか想像出来ないのだが……。
「そうですね。では言わせて頂きますので心してお聞き下さい」
 ともかく話を聞くしかないと、僕は受付嬢さんの言葉に耳を傾ける。
 受付嬢さんは一度大きく息を吸って、、
「何ですか、この職業欄に書いてある『気持ちは魔法使い』って!?」
「えぇッ!? そこが駄目なんですか!? なんで!???」
「なんで!??? じゃありませんよ! 何考えてるんですかッ!?」
「何って、そりゃあ僕、魔法使いとして大活躍したいって常々思ってきたので!」
「この職業欄(自己申告)は、夢や希望を書くところじゃありません! そんなこともわからないからクロックさんは子供なんです!」
「あー、また子供扱いした! 大人って奴はすぐそうやって僕をバカにするッ!」
「あらら? 成人してるんだ大人だと繰り返してた癖に、都合が悪くなると子供の立場でモノを言うんですね?」
 あはは、うふふと笑い合いながら、お互いに牽制しあう。
 交差する視線は火花が散るがごとく熱いもので、けれどもその間に割り込み視界を遮る人が居た。
「はいはい、仲が良さそうなのは結構だけれども、それくらいにしときましょ? 周りの迷惑……ってことはなさそうだけれども、一応、ね?」
 周囲の、ギルドに居る他の職員や冒険者達の好奇の視線を集めていることに気付き、僕は急速に頭が冷えていくのを感じた。だから、
「申し訳ありません、それであの、どちら様でしょうか?」
 僕たちの間に割って入った人物は、
「このギルドの一番偉い人って覚えておいてくれればいいよ?」
 僕より背の高い、赤い髪が目を惹く美しい女性だった。
 ギルドマスターって職業は強そうだなー、それよりもこのギルドって美人ばっかりなんだなー、なんて具合に意識を飛ばしていると、
「ギルドマスター、すみません騒がしくしてしまって」
 受付嬢さんが口を開いた。しかしギルドマスターは、
「謝る相手が違うんじゃないのかい? ほら、君も私の胸ばっかり見てないで、ほら、言うべきことがあるだろう?」
 驚きのサイズだったのでこっそり見ていたつもりだったのだが、どうやらバレてしまっていたらしい。
「ぼ、僕は、ギルドマスターさんの胸を見ていません」
 恥ずかしくなって、そう言ってしまう。
「ああそうか。そうだな、見てなかったな。すまん私の勘違いだったようだ。それでは、私は仕事があるからもう行くよ」
 それはそれは理解してくれたようで何よりです。
 仕事に戻るというギルドマスターさんを見送り、受付嬢さんに向き直ってその目を見据えて、受付嬢さんも僕を見て、
「申し訳ありま――」
「すみませんでし――」
 お互いに謝罪の言葉を述べていたその途中で、
「ちょっと待ってッ! あなた、今何やったの!?」
 僕達の言葉は、そんな叫びに遮られるのだった。
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