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滝野絵里(七月二十一日)
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七月二十一日
駅前に閉店した料理屋がある。テナント募集中の建物なのだが、そこに入った店は一年と持たず店じまいしてしまうジンクスがあった。そのせいか、駅前という立地の良さにもかかわらず、もう一年はシャッターが下ろされたままだ。だから、そこを僕の場所にしてしまった。夏の暑い時期はここの庇が生命線だ。
灰色に波打つ壁を背に、今日も歌う。道行く人が僕の声に奇異あるいは不快の眼差しを向けた。無理からぬことだ。僕の声は、人間には不協和音のように聞こえるらしい。ならいったい何者であれば、僕の声を認めてくれるのだろう。それはわからない。だって僕もその相手を探して歌っているのだから。
日が沈み、空が濃い群青色になった。そろそろ切り上げようかと思った矢先、不思議な出来事が起こった。
雪だ。
夏の夜にもかかわらず粉雪が風に吹かれて舞っていたのだ。いや、違う。僕にはわかっていた。それらは生き物であると。ひとつをそっと手のひらで覆うようにして捕まえて観察すると、案の定、綿毛のような白い羽毛に身を包んだかわいらしい虫だということがわかった。同時に彼らがこの世のものではないということも。
ぞくぞくと寒気のような歓喜が僕の底から這いあがってきた。なぜならば彼らは証拠だからである。この世界……いや、この宇宙、あるいはどこかの次元には僕らのあずかり知らない場所があると。きっと僕の声はそこでならば受け入れられるのだ。彼らはその世界からの妖精なのだ。
切り上げる予定を変更し、再びケースからギターを取り出すと、妖精の乱舞に合わせて即興で演奏を始めた。次から次へとインスピレーションが湧いてくる。久しぶりに音楽をやっている気がした。途中、同級生に殴られるという妨害も受けたけど、そんなことで僕の魔唱を止めることはできなかった。
駅前に閉店した料理屋がある。テナント募集中の建物なのだが、そこに入った店は一年と持たず店じまいしてしまうジンクスがあった。そのせいか、駅前という立地の良さにもかかわらず、もう一年はシャッターが下ろされたままだ。だから、そこを僕の場所にしてしまった。夏の暑い時期はここの庇が生命線だ。
灰色に波打つ壁を背に、今日も歌う。道行く人が僕の声に奇異あるいは不快の眼差しを向けた。無理からぬことだ。僕の声は、人間には不協和音のように聞こえるらしい。ならいったい何者であれば、僕の声を認めてくれるのだろう。それはわからない。だって僕もその相手を探して歌っているのだから。
日が沈み、空が濃い群青色になった。そろそろ切り上げようかと思った矢先、不思議な出来事が起こった。
雪だ。
夏の夜にもかかわらず粉雪が風に吹かれて舞っていたのだ。いや、違う。僕にはわかっていた。それらは生き物であると。ひとつをそっと手のひらで覆うようにして捕まえて観察すると、案の定、綿毛のような白い羽毛に身を包んだかわいらしい虫だということがわかった。同時に彼らがこの世のものではないということも。
ぞくぞくと寒気のような歓喜が僕の底から這いあがってきた。なぜならば彼らは証拠だからである。この世界……いや、この宇宙、あるいはどこかの次元には僕らのあずかり知らない場所があると。きっと僕の声はそこでならば受け入れられるのだ。彼らはその世界からの妖精なのだ。
切り上げる予定を変更し、再びケースからギターを取り出すと、妖精の乱舞に合わせて即興で演奏を始めた。次から次へとインスピレーションが湧いてくる。久しぶりに音楽をやっている気がした。途中、同級生に殴られるという妨害も受けたけど、そんなことで僕の魔唱を止めることはできなかった。
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