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フィナーレ

死ぬまであなたを愛します

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  夫は私のために、今日は仕事を休んで散歩へ連れて行ってくれた。私が人間として最後に行った公園の中にいる。夫はベンチに座って、私の体を膝の上に乗っけた。

  死ぬ3日前の話だ。私はもう体を動かせなくなって、人の助けなしでは排泄も食事もできなくなっていた。言葉が何も思い浮かばなくなって、ただボーッと寝室の窓から外を眺めているだけだった。もう長くはないと思ったのだろう。夫は私を車椅子に乗せて、ここに連れて来た。今でもはっきりと覚えてる。

「俺たちが最後に来た場所だよ。覚えてるか?君が最後に笑顔になった場所なんだよ。俺がここ綺麗だね、君も綺麗だよって話しかけたら、にっこりと笑ってくれたんだ。俺はそれが嬉しくなって、君の手を握った。そしたら、動かせないはずなのに握り返してくれた。このまま良い方向に向かってくれたら良かったのに。でも、それから君はずっと眠るようになってしまった。そして君は、もう起きなかった……」

  私は夫の顔が見えるように方向転換した。

「ニャ……ニャアニャア(元気出して。今私はここにいるじゃない)」

「俺に君の言葉は届かないかもしれないけど、君は俺の言葉が分かってるんだよな、きっと。もし、君が昨日あんなことをしでかしてくれなかったら、ずっと君に気付けないままで、僕は普通の猫として飼ってたんだろうな。1人でやったのか?すごい」

  本当は違うと言いたかったのだが、彼らのことを考えると、そういうことにしておいた方がマシだと思った。

「これからたくさん思い出を作ろう。できなかったことをたくさんやろう。猫だから無理があるかもしれないけど、その範囲でね」

「ニャア(愛してるわ、あなた)」

  私は人間の時、夫に何も言えないまま空へ旅立った。でも、神様に頑張ってお願いしたおかげで、もう一度夫に会うチャンスをくれたの。2回目の人生は猫として始まったけど、その命を無駄にしないで、今この瞬間を大切にしようと思う。

  もちろん、夫が私に気付いてくれるまで大変だった。けど、その一歩一歩が奇跡を生むの。人生ってそんなものよ。いつも良いことばかりじゃないけど、悪いことばかりっていうわけでもない。両方波のように押し寄せてきた方が、生きてる実感が湧く。神様はそれを知ってて、幸せと不幸を生んだんだと思う。

  私に協力してくれたカラスさんたちや、13匹のネズミの一家にも感謝している。人間の時は、ネズミを汚いものだと思って避けて嫌っていたけど、今はもうネズミが怖くないし、お友達にもなれた。いつかまたどこかで会えると信じてる。

  あの出来事は一瞬のことだったけど、長い冒険にも感じた。また、ハラハラドキドキする冒険が待ってるのかしら?

  でも、今はただ夫と一緒に暮らせればいいわ。それが、私の一番の願いなの。






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THE END 
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