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4章 対決 桑名城

8 取り戻すための戦い(右京)

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 右京は、左門に報告するため、登城していた。
 急に周りがざわざわし出した。
「何事か」
 左門が、報告に来た侍に問う。
「光徳院さまが・・・光徳院さまが・・・」
 続きの言葉が出てこないらしい。
 景三郎が何かしたのか。
「光徳院さまがどうした?」
 左門の顔もひきつっている。
「せ、攻めてきました!」
「なんだって!? そんなばかな」
 考えるより先に体が動き出した。
「右京!」
 城中を走りながら、負けたのかと思った。
 久松に負けた。
 景三郎を取り戻せなかった。
 その結果がこれだ。

 外へ出ても、蜂の巣を突いたような騒ぎだった。
 光徳院さま、光徳院さまと口々に囁いて震えている者もいる。
 光徳院さまを知っているものは、余計に恐ろしく思うようだった。
 誰も景三郎を阻止できない。
 道の真ん中を堂々と歩いてくる。

 なるほど。

 光徳院さまの陣羽織を着ていては、手出しができない。
 皆が恐れるわけだ。
 もう最後の手段しか残っていないのか。

 右京は、景三郎の行手を塞ぐように立った。
「亡霊はそこまでだ。おれが成敗してやる」
 そう言って、刀に手をかけたが、内心で震えるのがわかった。
 光徳院さまの姿形を、斬り捨ててよいものか。
 そもそも、景三郎が斬れるのか。

 景三郎は立ち止まり、右京を睨んだ。
 その目は、今まで見たことがないほどの憎悪がこもっていた。
「やってみろよ」
 刀を差している。
 赤鞘の派手なこしらえの刀をスラリと抜いた。
 これも、光徳院さまのものか。

 これまでの景三郎とはまるで違う迫力があった。
 きっさきをこちらに向けて、口元をゆがめて笑った。
 目は笑っていない。
「やれ! こないのならこっちから行く」
 前に足を踏み出してきた。

 右京も刀を抜いた。
 構えたが、気迫で負けている。

 竹刀は何度か交えたが、真剣は初めてだ。
 止めなければ。
 その思いだけで、立っている。
 覚悟が足りない。
 景三郎を斬る覚悟が、まだできていない。
「やめるんだ。一人で何ができる」
「一人だからやれるんだろ。もう誰も巻き添えにしない。だからここへ来た。おれを斬れよ。早く終わらせろよ」
「殺したくない」
「今更遅いんだよ! おれを斬らなきゃ終わらない。止めてくれるんじゃないのかよ!」
 景三郎が斬りかかってきた。
 刃がうなりを上げて脇を掠める。
「おれを焚き付けたのはそっちだろ! みんなを殺したお前らを許せない。お前を殺す!」
「!」
 なおも踏み込んで、刀を振り回した。
 怒りにまかせて、半ばやけになっている。
 それでも、かわすのが精一杯で、反撃できない。
「どうした。お前の実力はこんなもんか!」
 景三郎が挑発してくる。

「右京! 何をしている。斬るな。とらえよ!」
 外に出てきた左門の鋭い声が飛んだ。
「式部の思う壺にハマってはならん!」
 はっとなった。
 斬ることでしか、止められないと思い込んでいた。

 まだ遅くない。

 刀を峰に返す。
 袈裟斬りに振り下ろしてきた刃を、前に出てかわし、同時に胴をめがけて打ち込んだ。
 峰打ちだ。
 景三郎が刀を落とし、倒れるところを抱き止める。
 気を失っている。

 抱き上げた。
 左門の指示で、蟠龍櫓に運ぶ。

 一年半ほど前、頭を打って、歩けなくなった景三郎を、こうやって家まで運んだことを思い出していた。

 腕の中で眠る景三郎の顔は、その頃と何も変わっていなかった。


 <4章 了>
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