【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

鍛冶谷みの

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4章 対決 桑名城

5 一縷の望み(右京)

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 右京は、あれからずっと、城ではなく奉行所に通っている。
 状況の報告を聞くためだ。

 奉行所は、南大手門の内側にある。
 大手門を出て、堀にかかる橋を渡れば、街道に出る。
 町に出るのに、一番近い場所でもあった。

 早い方がいいな。
 放っておけば、噂が広がって、もみ消すのに刻がかかってしまう。

 右京はそう思いながら、まだ、気持ちの整理ができていない。

 斬ると言っておきながら、救いたいという気持ちが強く残っていて、せめぎ合っている。
 でも、この思いは捨ててはいけない。
 捨ててしまえば、一縷の望みに気が付かずに見落とす可能性がある。

 おあきに言った。
 あきらめるな、と。
 それは己への言葉だ。

 あきらめてはいけない。
 景三郎の目は死んではいなかった。
 睨みつけながら、訴えかけるようだった。
 それを右京は、助けて欲しいと言いたいのだと受け取った。
 突っぱねる言葉とは裏腹に、深い悲しみをたたえた目をしていた。
 何度抱きしめたいと思ったか。
 あの場所でなければ、確実にそうしていた。

 景三郎からは、憎しみは感じられなかった。
 憎しみからの行動ではない。
 自暴自棄になっているだけだ。

 今の状況から救い出す方法はあるのか。
 一つは、望み通り、斬って捨てること。
 おれの手で。
 それが救いになるのなら、そうしなければならない。
 誰かの手で殺されるのならば、そうしたい。
 それが右京の望みでもある。

 でもそれは、最悪の場合だ。
 他に手立てがあるはずだ。
 その方法を、早く探し出さなければならない。

 相談できる人がいないだろうか、と思った。
 一人ではいい知恵が浮かばない。
 景三郎には身寄りがなかった。

 ふと、ある人が頭に浮かんだ。
 下僕の加平次だ。
 母親がわりになって、景三郎を育てた人だ。
 片瀬家が断絶になったとき、景三郎が身を寄せるはずだった。

 いい知恵をさずけてくれるかもしれない。
 よし、行ってみよう。

 立ち上がりかけたとき、ごめん、と詰所の戸が開いた。

 見たことのない侍が入ってきて、頭を下げた。
「服部毅八郎と申します。吉村どのの指図を受けるよう、お頭に言われて参りました」
「服部どの、というと、半蔵どののお身内ですか」
「さようです。探索ならば、我らにお任せを。それと、言伝がございます」
「言伝?」
やっこさんは、衆人の前で殺めるなということでござる。お家への反感を煽るなということでしょう。民の反乱が、もっとも恐ろしいこと。久松への遠慮もあるでしょうが。・・・もちろん髑髏組は殲滅させます。まあ、奴さんを丸裸にするということでしょうな。一人では、なにもできない」
 奴さんとは、景三郎のことだ。
 なぜか挑発するような不適な笑みを浮かべて、毅八郎が右京を見た。
「とらえて連れてきましょう。・・・その前に、それがしが味見をしてもいいか? どうせ命はないのだろう?」
「・・・」
 急にぞんざいな口調になり、ニヤニヤ笑った。
「右京どのは、片瀬景三郎に、いたくご執心だったとか」
「・・・」
 右京は、毅八郎を睨んだ。
 調べたのか。
「服部どの、口を慎まれよ」
 思わず刀を引き寄せた。
「おっと。冗談冗談」
 毅八郎が手を振って苦笑した。
 だが、その顔は悪いと思っていない。
 油断ならない男だと思った。
「しかし、久松より先に手に入れなければなりませんぞ。先を越されたらやばいことになる」
「それはわかっている」
「では、さっそく」
 伊賀組が関われば、ことは早く決着がつくだろう。

 また傷つくだろうな。
 胸が傷む。

 命は取られなくてすみそうだが、目の前での殺戮はまぬがれない。
 右京自身が手を下すのだ。

 今度こそ、恨まれるかもしれない。
 そうなったら、もう完全に心が離れてしまう。

 たとえそうなっても、一縷の望みに賭けてみようと思った。

 決断の刻が、間近に迫っていた。

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