【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

鍛冶谷みの

文字の大きさ
上 下
32 / 40
4章 対決 桑名城

3 別れと極楽

しおりを挟む
 胸ぐらを掴まれる。
 泣きそうになって、涙をこぼすまいと、右京を睨みつけた。
 何事かと人だかりがしはじめている。
「本気なのか。今からでも遅くない。すぐにやめろ」
 右京が囁くように言った。
 熱を帯びた目が請うように見つめ返してくる。

 同じだ。
 あのときと、何も変わっていない。

 あの頃に戻りたかった。
 懐かしくて、涙がこぼれそうになる。
 体が、もう一度、あの温もりを欲している。
 乱暴だったけれど、愛されたことを、全部体が覚えている。

 変わってしまったのは、おれの方だ。
 どうやったら戻れるの?
 戻れっこない。
 もう戻れないからこそ、好きなんだと気がついた。
 あの頃は、あまりにも当たり前で、鬱陶しいくらいだったのに。

「脱げよ。こんなもの、脱いでしまえ」
「脱いでどうするの? おれをかこうの? それもいいけど」
 冷めた笑いが、自分の口から漏れた。
「ばかじゃないの? もうあの頃のおれじゃない。 今おれは、光徳院さまの子としてここに立っているんだ」
 右京の顔が苦しげに歪んだ。
「もう、終わったんだよ」
 震える声で、告げた。
 睨みつけたままで。

 突き飛ばされて、尻餅をつく。
「ばかはどっちだ! このわからずや!」
「若!」
「構うな!」
 間に割って入りそうな留吉を制した。

 右京が刀の柄に手をかけている。
「さあ、斬れ!」
 ふんぞり帰るようにあぐらをかいて座り、腕組みして叫んだ。
 思いっきりかぶき者を気取り、人の前で挑発する。
 右京に野次が飛ぶ。
 力を振り上げる方が悪者になるのだ。
 冷たい風が熱くなった頬を冷やしてくれる。

「今日のところは見逃してやる。・・・もう、次はない」
 右京が背を向けた。
 振り切るように、足早に去っていく。

 あんなに会いたかったのに、おれは何をやってるんだろう。
 暗い空を見上げた。
「ばかだな・・・」
 本当に終わっちゃった。
 戦いたくなかったはずなのに。
 本当に敵同士になってしまった。

「若・・・」
 留吉が心配そうな顔で覗き込んできた。
 答える代わりに、両手を伸ばした。
「もう、若は・・・子供やないんやから」
 力が抜けて、立ち上がる気力がない。
 文句を言いながらも、抱くように立ち上がらせてくれた。



 賭場まで帰ってくると、髑髏を脱いで、置いてくる。
 留吉は、元締のところでそのまま働いていた。
 ねぐらに戻るのは、伊織と一緒だった。

 いつもは見えないところで景司を見守っている伊織だが、夜道は並んで歩いてくれる。
 寒いので綿入れを羽織っているが、それでも寒くて伊織にひっついた。
 伊織も右京とのことは見ているはずだ。

 増蔵が用意してくれた家に帰る。
 灯りを入れ、火鉢に火を起こす。
 家のことは、ほとんど伊織がやってくれる。

「伊織がいなかったら、おれ、生きてけないかも」
 仲間だと言っておきながら、便利に使ってしまっている。
「おそばに置いていただけるだけで、私は幸せです」
「伊織は、式部が好きなんじゃないの?」
「好きですよ」
「離れてて寂しくなったりしないの?」
「平気です。若がそばにいてくれますから。私を人として扱ってくださるのは、若だけです。道具か、人形か、汚いものを見るような目で見られるのが普通です」
「そんなことないって」
「災いのもとだと、何度斬られそうになったことか」
 怖いことをさらりと軽く言って、伊織は笑った。
「美人すぎるからだよ、きっと。伊織は何も悪くないのに」
「私は、人として、何かが欠けているのかもしれません。おそらく、死ねば、地獄行きです」
「そんなこと言うなよ。こんなに優しくて癒される人はいないのに」
「そう言ってくださるのは、若だけです」
「そんなことないって」
「可愛い人・・・」
 伊織が言って、優しく抱いてくれた。
 右京と別れて傷ついた心も癒されるようだ。
「一つだけ、私の願いをきいてくださいますか?」
「なに? 伊織の願いならなんでも聞くよ」
「若を、抱いてもいいですか? 極楽を味わってみたいのです。この世に生きた証に」
「え?・・・」
 一瞬、何を言われているのかわからなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...