【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

鍛冶谷みの

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4章 対決 桑名城

2 再会は別れの序章(右京)

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「右京!」
 左門が叫んだ。
 久松を見る右京の目に、殺気がこもっている。

 どうして初めからそう言わなかったのだろうと思うほど、胸がスッとした。

「あなたのせいだ」
 景三郎をここまで追い込んだのは、久松に違いない。
「許せない」

 久松は、右京の殺気を受け止め、目を細めて笑っている。
 楽しそうに。
「頼もしい。それでこそ、右京どのだ。死ぬ覚悟なら、とっくにできている」

「右京、抑えろ。式部、こいつを挑発するな」

 左門の言葉でも、もう溢れてしまった想いに蓋はできない。

「兄上、おれはしばらく登城しません。景三郎を探しに行きます」
「おい、正気か」
「もっと早くそうするべきでした」
 迷っていたせいで、事態が悪化している。

「好きなら、取り戻してみよ。手放したのは、己の罪だぞ」
 久松の声が背中を押した。

 久松のせいだけでもない。
 そうだ。
 おれが、景三郎を手放してしまったのだ。
 取り戻す。
 説得してみせる。

「では、私も別邸に戻るとしよう」
「何を言う」
 左門が慌てた。
「取引は、もう成立しない。ここにいる意味もない」
「まったくお前らは、どうしようもないな」
 お手上げだと言うように首を振った。
「後で後悔しても知らんぞ!」



 夜になるのを待って、町へ出た。
 かぶき者がよくいき、騒ぎを起こす場所はだいたい決まっている。
 あみを張るまでもなく、引っかかるはずだった。
 以前は姿を隠していて、そういう場所は避けていただろうが、今はもう、己の姿を晒しているのだ。
 なにも遠慮することはない。

 そう思って来てみたが、冬の寒さに、歩く人も少なかった。

 昼間は奉行所へ寄って、今までわかっていることを把握してきた。

 景三郎は、髑髏が染め抜かれた羽織を着て、力士崩れの大男を従えているという。
 かなり目立つ。
 髑髏の羽織なんて持っていないのだから、誰かに乗せられたのだろうが、思い切ったことをする。
 正気の沙汰とは思えない。
 おあきの話からは、想像できない飛躍だった。
 ならず者扱いされて、自暴自棄になったのか。
 もう、隠れるのが嫌になったのか。
 そんな無茶なこと、続くはずないのに、どうして・・・。

 光徳院さまの亡霊だという声もあるという。
 領民は、光徳院さまを慕っていた。
 民が求める殿様の姿を追っているのだろうか。
 でもそれは、今のご政道を批判することでもある。
 左門の言う通り、生かしてはおけない。
 騒ぎが大きくなる前に、やめさせなければならない。
 とにかく会って、話がしたかった。


 考えながら、道を歩いていると、喧嘩の声が聞こえてきた。
 料理屋が立ち並ぶ通りだった。
 ならず者が転がるようにして出てきた。
 捨て台詞を吐きながら、逃げていく。
 見ていると、今度は大男が出てきた。
「留吉、追わなくていい」
 大男に言う声に、聞き覚えがあった。

 店の者に、ありがとうございますと、礼を言われていた。
 大男について、右京が立っている反対の方へ、歩いていく、その羽織の背中には、髑髏模様。
 それは店からの灯りで、怪しげに見える。

「おい」
 思わず声をかけた。
 名前を呼んでいいのかどうか迷った。

 大男がそばにいるせいで、小さく見えるその背中。
 肩越しに振り返った。
「呼んだ?」

 ほんの数ヶ月前に、旅籠屋の前で、かぶき者に絡まれていた姿とは、まるで別人のような、凛とした顔で右京を見た。
「誰だっけ?」
 小首をかしげて、挑発するようにきく。

 右京はかぶっていた笠をとった。
 景三郎は、わざとなのか、大きく口元を笑みの形に歪めた。
 夜のせいか、妖艶な雰囲気になる。
「へえ、吉村の御曹司のお出まし?」
「どういうつもりだ」
 苛立った口調になった。
「いきなり説教なの? 勘弁してよ」
 慌てた様子がまったくなかった。
「若、お知り合いですか?」
 大男がきいている。
「まあね。会えて嬉しいよ。おれを捕まえに来たの? そうだよね」
「酔ってるのか」
「酔ってなんかいないよ。浮かれてるだけだよ。会いたい人に会えたからさ」
 からかうように、笑いながら言った。
 これが、景三郎なのか。
「・・・」
 右京が黙っていると、すっと躊躇うことなく近づいてくる。
「捕まえてよ。右京」
 腕を伸ばして、抱きしめられる距離だ。
「本当に嬉しいよ。なんで黙ってるの? ずっと、会いたかったんだよ」
「今すぐやめろ。そんなマネは、今すぐにだ」
「やめてどうしろって? 牢屋にでも入れる?」
「死なせたくない」
「・・・」
 見つめてくる。

 が、次の瞬間、吹き出した。
「本気で言ってる?」
 そして、言われたくない言葉が飛び出した。
「嘘言うな。吉村がおれを生かすわけないだろ」
 目が鋭く刺してくる。
「殺せよ。お前に殺されるのなら本望だ」

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