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4章 対決 桑名城

1 救うとは(右京)

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 城中がなんとなく騒がしい。

 いつもと違って、左門も落ち着きを欠いている。

 あの人が登城するからかな?

 久松が登城するようになってから、城中がいつもと違う雰囲気になった。

 異彩を放っていて、とにかく目立つ。
 おまけに積極的に藩士たちに接触し、程なくして、一派ができるのではないかと噂されていた。

「右京どのも参られよ」
 と、どの口が言うのか、誘われたが、丁重に断った。

 どうしてムカムカするところへ行かなきゃならんのだ。
 あの日は何も得るものがなく、尻尾を巻いて帰ってきた。
 そのことが悔しくてならない。

「何かあったのでしょうか」
 右京の耳には、重大なことほど入ってはこない。

 左門は、右京の顔を見て、舌打ちした。
 ムッとした。
 兄だからって、失礼だ。
「だから、何なのですか」

 左門が何か言う前に、戸が開いて、久松が入ってきた。
 近頃は、登城すると、ここに顔をだす。
 左門と久松が仲がいいとは知らなかった。
 幼馴染なのだという。

 右京は頭を下げて、場所を譲った。
 家老と、時期家老と、ただの見習いでは、雲泥の差だ。
 兄にぞんざいに扱われても、何も文句を言えない立場だった。
 それなのに、景三郎を守りたいなんて、言えるわけがない。

 久松に見られているのを感じる。
「本当に何もしていないのか」
 左門が久松に厳しい口調で言っている。
「今もお歴々に弁明してきたところだ。疑われるのも仕方がないが・・・」

 やはり何かあったのだ。

「まだ話していないのか」
 また久松が右京を見る。
 おそらく思っていることが顔に出ているのだろう。
「わかりやすいやつだ」
 左門が苦笑した。
「こいつに話したら、何かやらかしそうでな。なかなか踏ん切りがつかんのだ」
「いいではないか。好きなようにやらせれば」
「無責任なことを言うな。まだ疑いが晴れたわけではないぞ。お前のところにいた家士が、一緒にいるそうじゃないか」
「ああ。あれは、暇をくれと言うので、出した男だ。もはや当家とは関わりがない」
「それならいいが・・・」
 左門がため息をつく。
「おい、右京。お前はどう思う。今から言うことを聞いて、どうするべきか答えろ」
「はい」
 よくわからないが、とりあえず頷いた。

「昔、髑髏組と称して、かぶき者を気取った者たちがいたのだ。ちょうど光徳院さまがおられた頃だ」
「髑髏組・・・」
「近頃復活したようだ。花街や商家に出没し、役人を脅したり、悪どい商人から金を巻き上げたりし始めている」
「悪どい商人? それは、人気取りですか」
「そうだ。厄介なことに、民はそういうのが好きだからな」
「取り締まる方が、悪者になりそうですね」
「そうだ。我らは悪役にならねばならん」
「奉行所が動くのでしょうか」
「そうだ。かぶき者が御法度なのはわかるな」
 久松の前で、左門が言う。
「はい。わかっております」
「それが、ご落胤であってもだ」
「は?・・・まさか・・・」
「ご落胤が暴れ出した。どうすべきだと思う?」
「・・・」
 顔がこわばり、拳を握りしめる。
 景三郎だというのか。
 信じられない。

「お前はどうする、式部」
 左門は、久松にも厳しい視線を向けた。
「大人しくしていれば、命は取らない。そういう約束だったな」
「約束は、反故だな」
 久松が低く言った。
「殺すのなら、私も殺せ。それで終わりだ」
「そうはさせない。お前は殺さない。お家騒動になれば、お家が潰れる」
 吉村が恐れているのはそれだ。
「ならば、生かしておくことだ」
 久松が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「それはできん」
 左門の表情が悔しげに歪む。

 景三郎が動けば、それは謀反に等しい。

 そんな馬鹿な・・・。
 これは、景三郎の意思なのか。
 担がれているだけではないのか。
 今なら、まだ間に合う。
 その矛先は、お家に向いているわけではない、と思いたい。

 思わず立ち上がった。
 じっとしてはいられない。
 確かめなくては。

「右京、どこへ行くのだ」
「確かめてきます」
「その必要はない」
「でも・・・」
「確かめてどうする」
「やめさせます」
「できなかったときはどうするのだ」
「そのときは、・・・景三郎は、おれが、この手で・・・斬ります!」
 それを望んでいるような気がした。
「おれが止めます。・・・そして、あなたも」
 と、久松を正面から見据えた。
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