25 / 40
3章 血染めの髑髏
7 仲間
しおりを挟む
「伊織」
思わず駆けよって抱きついた。
斬り合いで見せた恐ろしげな表情は消えて、いつもの優しくて美しい伊織に戻っている。
頭を優しく撫でてくれた。
「伊賀者に気を許してはなりませぬ」
「どうしてもっと早く来てくれなかったんだよ」
と、拗ねたようになじる。
「あやつが何をしようとしているのか、見たかったので。申し訳ございませぬ。・・・伊賀者の味はいかがでしたか」
「ばか! からかうな」
見られていたのだ。
自分からくっついたくせに、照れ隠しに突き放した。
離れると、伊織が片膝をつく。
「これからは、私がお守りいたします」
「でも、あいつが言ってたけど、式部とは、関わってはいけないんだろ?」
景司としては、その方が一安心ではあるけれど、伊織は久松家の人だ。
一緒にいたら咎められるのではと思った。
「殿は、城下の本宅へお戻りになりました。私は、お屋敷にはいられません。なので、お暇を頂戴してきました」
「え? お暇って・・・」
「はい。もう、久松家とは関わりがありませぬ」
「なんで・・・」
驚いた。
「本宅には、奥方さまがおられます。私は別邸にしかいられないのです」
「そんな・・・。でも、式部がよく許したな」
「若さまをお守りするという役目がありますから」
表向き、縁が切れたということなのだろうか。
「これからは、浪人として、おそばにおります」
「嬉しいけど・・・」
伊織がそばにいてくれるなら、こんなに嬉しいことはない。
でも・・・。
何かが違う気がする。
考え込んだ景司を、伊織が小首をかしげて見上げている。
「伊織」
景司は、伊織を立たせた。
違和感の正体がわかった。
「主従は嫌だ。伊織は、おれの仲間だ。仲間としてそばにいてほしい」
「若・・・」
伊織が目を見張ったが、すぐに細めて笑った。
「あなたというお方は・・・」
抱き寄せられた。
優しい抱擁に、心が癒されるようだった。
おれは、一人じゃなかった。
生きる覚悟をもう一度してみる。
隠れるように生きていれば、何も起こらないような気がした。
右京にも、式部にも会わずに過ごせばいいんだ。
城下に戻ることにした。
戻る場所は、ここしかない。
伊織を外で待たせて、中に入った。
いるかな。
つい数ヶ月前まで住んでた長屋の部屋だ。
自分の部屋ではないけれど・・・。
「あ? 誰だ。起こしやがるのは」
目をこすってあくびをしているのは、増蔵だ。
昼寝中だったんだろう。
「お?」
「起こしちゃってごめん。また置いてもらってもいいかな」
眠そうな目を瞬かせ、寄ってきた。
「どこいっとったんや、お前!」
肩をバシバシ叩く。
嫌そうな顔じゃなくてよかった。
「生きとったか! もうあかんかとおもたで。・・・ん? なんかこざっぱりしたなあ」
全身を眺めている。
「女か」
と小指を立ててニヤニヤする。
「まあ、そんなとこかな」
懐から銀の粒を取り出して見せた。
「手切れ金だってさ。追い出されちゃった」
「おっ、豪勢やな。・・・じゃあ、久々にパッといくか!」
数ヶ月前は、こんな暮らし、続けていていいのかと悩んでいた。
なのに今は、戻ってこられてホッとしている。
増蔵の変わらない態度に安らぎを覚える。
これでよかったんだ。
増蔵に、もう一部屋借りられないか聞いてみた。
新しい暮らしを始めるのだ。
思わず駆けよって抱きついた。
斬り合いで見せた恐ろしげな表情は消えて、いつもの優しくて美しい伊織に戻っている。
頭を優しく撫でてくれた。
「伊賀者に気を許してはなりませぬ」
「どうしてもっと早く来てくれなかったんだよ」
と、拗ねたようになじる。
「あやつが何をしようとしているのか、見たかったので。申し訳ございませぬ。・・・伊賀者の味はいかがでしたか」
「ばか! からかうな」
見られていたのだ。
自分からくっついたくせに、照れ隠しに突き放した。
離れると、伊織が片膝をつく。
「これからは、私がお守りいたします」
「でも、あいつが言ってたけど、式部とは、関わってはいけないんだろ?」
景司としては、その方が一安心ではあるけれど、伊織は久松家の人だ。
一緒にいたら咎められるのではと思った。
「殿は、城下の本宅へお戻りになりました。私は、お屋敷にはいられません。なので、お暇を頂戴してきました」
「え? お暇って・・・」
「はい。もう、久松家とは関わりがありませぬ」
「なんで・・・」
驚いた。
「本宅には、奥方さまがおられます。私は別邸にしかいられないのです」
「そんな・・・。でも、式部がよく許したな」
「若さまをお守りするという役目がありますから」
表向き、縁が切れたということなのだろうか。
「これからは、浪人として、おそばにおります」
「嬉しいけど・・・」
伊織がそばにいてくれるなら、こんなに嬉しいことはない。
でも・・・。
何かが違う気がする。
考え込んだ景司を、伊織が小首をかしげて見上げている。
「伊織」
景司は、伊織を立たせた。
違和感の正体がわかった。
「主従は嫌だ。伊織は、おれの仲間だ。仲間としてそばにいてほしい」
「若・・・」
伊織が目を見張ったが、すぐに細めて笑った。
「あなたというお方は・・・」
抱き寄せられた。
優しい抱擁に、心が癒されるようだった。
おれは、一人じゃなかった。
生きる覚悟をもう一度してみる。
隠れるように生きていれば、何も起こらないような気がした。
右京にも、式部にも会わずに過ごせばいいんだ。
城下に戻ることにした。
戻る場所は、ここしかない。
伊織を外で待たせて、中に入った。
いるかな。
つい数ヶ月前まで住んでた長屋の部屋だ。
自分の部屋ではないけれど・・・。
「あ? 誰だ。起こしやがるのは」
目をこすってあくびをしているのは、増蔵だ。
昼寝中だったんだろう。
「お?」
「起こしちゃってごめん。また置いてもらってもいいかな」
眠そうな目を瞬かせ、寄ってきた。
「どこいっとったんや、お前!」
肩をバシバシ叩く。
嫌そうな顔じゃなくてよかった。
「生きとったか! もうあかんかとおもたで。・・・ん? なんかこざっぱりしたなあ」
全身を眺めている。
「女か」
と小指を立ててニヤニヤする。
「まあ、そんなとこかな」
懐から銀の粒を取り出して見せた。
「手切れ金だってさ。追い出されちゃった」
「おっ、豪勢やな。・・・じゃあ、久々にパッといくか!」
数ヶ月前は、こんな暮らし、続けていていいのかと悩んでいた。
なのに今は、戻ってこられてホッとしている。
増蔵の変わらない態度に安らぎを覚える。
これでよかったんだ。
増蔵に、もう一部屋借りられないか聞いてみた。
新しい暮らしを始めるのだ。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる