【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

鍛冶谷みの

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3章 血染めの髑髏

7 仲間

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「伊織」
 思わず駆けよって抱きついた。
 斬り合いで見せた恐ろしげな表情は消えて、いつもの優しくて美しい伊織に戻っている。

 頭を優しく撫でてくれた。
「伊賀者に気を許してはなりませぬ」
「どうしてもっと早く来てくれなかったんだよ」
 と、拗ねたようになじる。
「あやつが何をしようとしているのか、見たかったので。申し訳ございませぬ。・・・伊賀者の味はいかがでしたか」
「ばか! からかうな」
 見られていたのだ。
 自分からくっついたくせに、照れ隠しに突き放した。

 離れると、伊織が片膝をつく。
「これからは、私がお守りいたします」
「でも、あいつが言ってたけど、式部とは、関わってはいけないんだろ?」
 景司としては、その方が一安心ではあるけれど、伊織は久松家の人だ。
 一緒にいたら咎められるのではと思った。
「殿は、城下の本宅へお戻りになりました。私は、お屋敷にはいられません。なので、お暇を頂戴してきました」
「え? お暇って・・・」
「はい。もう、久松家とは関わりがありませぬ」
「なんで・・・」
 驚いた。
「本宅には、奥方さまがおられます。私は別邸にしかいられないのです」
「そんな・・・。でも、式部がよく許したな」
「若さまをお守りするという役目がありますから」
 表向き、縁が切れたということなのだろうか。
「これからは、浪人として、おそばにおります」
「嬉しいけど・・・」
 伊織がそばにいてくれるなら、こんなに嬉しいことはない。
 でも・・・。
 何かが違う気がする。
 考え込んだ景司を、伊織が小首をかしげて見上げている。

「伊織」
 景司は、伊織を立たせた。
 違和感の正体がわかった。

「主従は嫌だ。伊織は、おれの仲間だ。仲間としてそばにいてほしい」
「若・・・」
 伊織が目を見張ったが、すぐに細めて笑った。
「あなたというお方は・・・」
 抱き寄せられた。
 優しい抱擁に、心が癒されるようだった。

 おれは、一人じゃなかった。

 生きる覚悟をもう一度してみる。

 隠れるように生きていれば、何も起こらないような気がした。
 右京にも、式部にも会わずに過ごせばいいんだ。



 城下に戻ることにした。
 戻る場所は、ここしかない。

 伊織を外で待たせて、中に入った。
 いるかな。
 つい数ヶ月前まで住んでた長屋の部屋だ。
 自分の部屋ではないけれど・・・。

「あ? 誰だ。起こしやがるのは」
 目をこすってあくびをしているのは、増蔵だ。
 昼寝中だったんだろう。
「お?」
「起こしちゃってごめん。また置いてもらってもいいかな」
 眠そうな目をしばたたかせ、寄ってきた。
「どこいっとったんや、お前!」
 肩をバシバシ叩く。
 嫌そうな顔じゃなくてよかった。
「生きとったか! もうあかんかとおもたで。・・・ん? なんかこざっぱりしたなあ」
 全身を眺めている。
「女か」
 と小指を立ててニヤニヤする。
「まあ、そんなとこかな」
 懐から銀の粒を取り出して見せた。
「手切れ金だってさ。追い出されちゃった」
「おっ、豪勢やな。・・・じゃあ、久々にパッといくか!」

 数ヶ月前は、こんな暮らし、続けていていいのかと悩んでいた。
 なのに今は、戻ってこられてホッとしている。
 増蔵の変わらない態度に安らぎを覚える。
 これでよかったんだ。

 増蔵に、もう一部屋借りられないか聞いてみた。
 新しい暮らしを始めるのだ。
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