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3章 血染めの髑髏
2 待ち人
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目が覚めたとき、どこにいるのかまったく覚えがなかった。
ここ、どこだっけ。
久松式部の別邸から、出たことだけは覚えている。
どこをどう歩いたのか記憶がない。
夜になっていて、暗闇の中を、いくあてもなく、ふらふらと彷徨っていただけだった。
もうこれ以上居られない。
その思いだけで出てきた。
これ以上誰かが死ぬのを見たくない。
式部の思いを受け入れたら、それは、死を受け入れることになる。
それなのに、おれは・・・。
拒むこともできず、求めてしまった。
誰かにすがっていないと、辛くてどうにかなりそうだ。
それが、式部の術中にはまることだったとしても。
無理やり抱かれたんじゃなかった。
確かに、自分から抱きついていった。
身を切るような辛さを忘れたかったのだ。
式部を、伊織を失いたくないから、もう二度と戻らない、と言って出てきた。
おれの存在が、戦を招くのならば、式部のそばにいてはいけない。
そう思って、この前も出て行ったばかりだったのに。
引き止められないのは、これも、思惑だからなのだろうか。
誰かの手のひらの上で、転がされている気分だった。
誰かとは、式部かもしれないし、筆頭家老の右京の父親かもしれない。
権力争いのことはさっぱりわからない。
見せしめって、伊織は言ったけど、もともと争う気なんてないのに。
誰も傷つかずに、不毛な争いを止めることはできないのだろうか。
止めたいのに、全てが裏目に出ている気がする。
体がわたのように疲れていた。
ふと、人の気配に横を見ると、女の子が座っていた。
居眠りしている。
その顔に見覚えがあった。
「おあきちゃん・・・?」
手に針を持ったままだった。
縫い物をしながら寝てしまったようだった。
針が、縫い物を持った指に刺さりそうになっている。
気になって放っておけない。
手を伸ばして、針を取ろうとした。
おあきの目が開いた。
「ひゃっ!」
声にならない声をあげて、おあきが抱きついてきた。
針がついたままの縫いかけの布が、二人の間に挟まっている。
「よかったー。目が覚めたのね。・・・あ、ごめんなさい」
と、顔を真っ赤にして、離れると、その布を後ろにやった。
「ここは、どこ? どうして、ここに? 何も覚えてなくて・・・」
「ここはうちが働いている旅籠です。道に、倒れている人がいると聞いて、見に行ってみたら、片瀬さまが倒れていたんです。かぶき者に連れて行かれて、心配で、心配で・・・。ご無事で本当によかった」
顔を覆って泣き出した。
「かぶき者はもういない。心配いらないよ」
「うん」
「これ以上迷惑はかけられない。すぐに、出ていくから・・・」
「まだだめです。お身体がちゃんと回復してからじゃないと、また倒れてしまいますから」
「すまない。ありがとう」
確かに、まだ体に力が入らないし、とても眠い。
「吉村さまも、とても心配しておられました」
「右京、が?」
「はい。片瀬さまのお名前を、吉村さまからお聞きしました。たぶん知られたくないだろうから、片瀬さまがいらっしゃっても知らせなくていい、時々こちらから訪ねるとおっしゃって」
「来るのかい?」
「いいえ、まだお見えになってはいませんけど・・・」
ここにいたら、右京が来るというのか。
「あ、いけない。片瀬さまはゆっくり休んでいてくださいね」
おあきはそう言って、出ていった。
右京には、もうずいぶんと会っていない気がする。
会いたい。
会えない。
会いたくない。
会ってはいけない。
今の気持ちは、これら全部がごちゃ混ぜになっている。
おれは、どうしたらいい?
教えてくれよ、右京。
今、一番欲しいのは・・・。
ここ、どこだっけ。
久松式部の別邸から、出たことだけは覚えている。
どこをどう歩いたのか記憶がない。
夜になっていて、暗闇の中を、いくあてもなく、ふらふらと彷徨っていただけだった。
もうこれ以上居られない。
その思いだけで出てきた。
これ以上誰かが死ぬのを見たくない。
式部の思いを受け入れたら、それは、死を受け入れることになる。
それなのに、おれは・・・。
拒むこともできず、求めてしまった。
誰かにすがっていないと、辛くてどうにかなりそうだ。
それが、式部の術中にはまることだったとしても。
無理やり抱かれたんじゃなかった。
確かに、自分から抱きついていった。
身を切るような辛さを忘れたかったのだ。
式部を、伊織を失いたくないから、もう二度と戻らない、と言って出てきた。
おれの存在が、戦を招くのならば、式部のそばにいてはいけない。
そう思って、この前も出て行ったばかりだったのに。
引き止められないのは、これも、思惑だからなのだろうか。
誰かの手のひらの上で、転がされている気分だった。
誰かとは、式部かもしれないし、筆頭家老の右京の父親かもしれない。
権力争いのことはさっぱりわからない。
見せしめって、伊織は言ったけど、もともと争う気なんてないのに。
誰も傷つかずに、不毛な争いを止めることはできないのだろうか。
止めたいのに、全てが裏目に出ている気がする。
体がわたのように疲れていた。
ふと、人の気配に横を見ると、女の子が座っていた。
居眠りしている。
その顔に見覚えがあった。
「おあきちゃん・・・?」
手に針を持ったままだった。
縫い物をしながら寝てしまったようだった。
針が、縫い物を持った指に刺さりそうになっている。
気になって放っておけない。
手を伸ばして、針を取ろうとした。
おあきの目が開いた。
「ひゃっ!」
声にならない声をあげて、おあきが抱きついてきた。
針がついたままの縫いかけの布が、二人の間に挟まっている。
「よかったー。目が覚めたのね。・・・あ、ごめんなさい」
と、顔を真っ赤にして、離れると、その布を後ろにやった。
「ここは、どこ? どうして、ここに? 何も覚えてなくて・・・」
「ここはうちが働いている旅籠です。道に、倒れている人がいると聞いて、見に行ってみたら、片瀬さまが倒れていたんです。かぶき者に連れて行かれて、心配で、心配で・・・。ご無事で本当によかった」
顔を覆って泣き出した。
「かぶき者はもういない。心配いらないよ」
「うん」
「これ以上迷惑はかけられない。すぐに、出ていくから・・・」
「まだだめです。お身体がちゃんと回復してからじゃないと、また倒れてしまいますから」
「すまない。ありがとう」
確かに、まだ体に力が入らないし、とても眠い。
「吉村さまも、とても心配しておられました」
「右京、が?」
「はい。片瀬さまのお名前を、吉村さまからお聞きしました。たぶん知られたくないだろうから、片瀬さまがいらっしゃっても知らせなくていい、時々こちらから訪ねるとおっしゃって」
「来るのかい?」
「いいえ、まだお見えになってはいませんけど・・・」
ここにいたら、右京が来るというのか。
「あ、いけない。片瀬さまはゆっくり休んでいてくださいね」
おあきはそう言って、出ていった。
右京には、もうずいぶんと会っていない気がする。
会いたい。
会えない。
会いたくない。
会ってはいけない。
今の気持ちは、これら全部がごちゃ混ぜになっている。
おれは、どうしたらいい?
教えてくれよ、右京。
今、一番欲しいのは・・・。
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