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1章 嵐
7 体に刻む愛
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「こんなところで何をやってる! お前が心配で、やっと抜け出して来たんだ」
「右京・・・ご家老に会わせろ! 聞きたいことがある!」
激しさが増す風雨に、叫ばなければ、声が届かない。
「だめだ! 行かせられない!」
「なぜだ! 父上が死んだんだぞ! おれには経緯を聞く権利がある! 邪魔をするなら、押し通るだけだ。どけ!」
「よせ!」
右京を押し退けて、進もうとする。
が、ガッチリと抱き止められた。
「バカっ! 行けば、殺されるぞ!」
「じゃあ教えろよ! なぜこんなことになったんだ! 右京! 教えてくれ!」
右京の胸元を掴んで、揺さぶった。
「それは、・・・おれにもわからん!」
「やっぱりな! だったら行くしかないだろう! どけ!」
「この、わからずや!」
「わからずやはどっちだ!」
「こんなところで押し問答もないだろう。お前の家に帰るぞ」
「嫌だ! 今しかないんだ! 今を逃したら、もう・・・あああああ!」
右京を突破するほどの力が入らず、足が萎えて、膝をついた。
泣き叫んだが、吹きすさぶ嵐に飲み込まれて、かき消された。
右京が蓑をとって、景司にかぶせると、抱き上げた。
片瀬家の勝手口から、中に入った。
上がり框に景司をおろす。
「加平次は? いないのか」
「里に戻っている。今日は帰らない」
「そうか。・・・暗いな」
「やるよ」
もう落ち着いている。
景司は、土間に降りると、柄杓で水を汲み、右京に差し出した。
まずは喉をうるおす。
自分も飲んで、今度は、足盥に水を汲み、置いた。
足を洗わなければ、屋敷に上がれない。
「少しは落ち着いたようだな。おれが知っていることを話す」
「うん」
框に並んで座った。
「兵衛介どのは、おれの屋敷で腹を切られた。ご遺体が返されないのには訳がある。詳しいことは知らないが、親父どのは、片瀬家を黙って消すつもりなんだ。だから、昨日、おれは外に出られなかった。兵衛介どののことを隠すために。お前と接触しないように。・・・嵐になって、監視の目もゆるくなったから、抜け出して来た」
「・・・そんなこと、聞かされても・・・何にもわからないじゃないか。その理由が知りたいのに」
「すまない」
右京が苦しげに言った。
そうだ。右京を責めても何にもならない。
「ありがとう、教えてくれて。・・・わかったよ。お屋敷に行ってはいけないんだな」
「二人ともずぶ濡れだな。風邪引くぞ」
景司の言葉に、ほっとしたのか、右京が少し明るくなる。
「着替え、あったかな」
景司は、部屋にあがろうとして、水が着物から滴るのに気がついた。
脱ぐしかない。
下帯までぐっしょり濡れている。
パッパとすべて脱ぎ捨てて、荷物を探ろうとするが、暗くてよくわからない。
仕方がないから、行灯にあかりを灯した。
「もう荷物はまとめてあるんだ。どこだっけな・・・」
すぐに運べるように、出入り口の近くに置いてあるのだ。
右京の視線を感じる。
真っ裸で探し物なんて、シャレにもならない。
風呂敷に包んだ荷物を探っていると、こちらも裸になった逞しい右京の腕に、後ろから抱きすくめられた。
「もう二度と会えないなんて、嫌だ」
熱い吐息がうなじにかかる。
「どこにも行くな。おれがなんとかするから。お前が戻ってこられるように、えらくなる。・・・それまで待っていてくれ」
右京の熱が伝わり、景司の体も熱くなってくる。
でも、頭は冷めている。
「ああ、はいはい、期待しないで待ってるわ」
軽くいなすような口調になった。
「バカ! おれは真剣に・・・」
前に向かされ、押し倒された。
見下ろす右京の目は、見たことがないほど、真剣で澄んでいた。
「わかってる。お前の気持ちは・・・」
「わかってない! ・・・わからせてやる」
「いいよ。・・・刻めよ。・・・体で、覚えているから」
熱い唇が降りてきて、嵐のような抱擁が始まった。
なんで、あんなことを言ったのか、自分でもわからなかった。
すぐに後悔した。
今までに感じたことのない快楽と痛みに、気が変になりそうだった。
激しい風雨が戸を叩く音がなければ、恥ずかしくて拒んでいたかもしれない。
嵐に煽られるように、漏れてしまう喘ぎ声を抑えなかった。
そうして、変な力が抜けてきたころから、快楽しか感じなくなくなり、何度もいかされてしまった。
力尽きて、まどろんだ隙に、右京の姿は消えていた。
はっと飛び起きたとき、まだ夜は明けていなかった。
嵐もおさまってはいない。
だが、少し遠ざかったのか、勢いが弱まってきたように感じる。
終わった後の方が、寂しくて別れ難い。
強烈な喪失感と、罪悪感が襲ってきた。
かと言って、どうすれば良かったのかもわからない。
なにやってるんだ、おれは・・・。
気だるい体を起こし、脱ぎ捨てた着物を、濡れたまま身につけた。
どうせまた、濡れるのだ。
外に出ると、強い風と雨に頬を打たれた。
ほてった体が急激に冷えていく。
景司はとぼとぼと歩き出した。
お城に背を向けて。
「右京・・・ご家老に会わせろ! 聞きたいことがある!」
激しさが増す風雨に、叫ばなければ、声が届かない。
「だめだ! 行かせられない!」
「なぜだ! 父上が死んだんだぞ! おれには経緯を聞く権利がある! 邪魔をするなら、押し通るだけだ。どけ!」
「よせ!」
右京を押し退けて、進もうとする。
が、ガッチリと抱き止められた。
「バカっ! 行けば、殺されるぞ!」
「じゃあ教えろよ! なぜこんなことになったんだ! 右京! 教えてくれ!」
右京の胸元を掴んで、揺さぶった。
「それは、・・・おれにもわからん!」
「やっぱりな! だったら行くしかないだろう! どけ!」
「この、わからずや!」
「わからずやはどっちだ!」
「こんなところで押し問答もないだろう。お前の家に帰るぞ」
「嫌だ! 今しかないんだ! 今を逃したら、もう・・・あああああ!」
右京を突破するほどの力が入らず、足が萎えて、膝をついた。
泣き叫んだが、吹きすさぶ嵐に飲み込まれて、かき消された。
右京が蓑をとって、景司にかぶせると、抱き上げた。
片瀬家の勝手口から、中に入った。
上がり框に景司をおろす。
「加平次は? いないのか」
「里に戻っている。今日は帰らない」
「そうか。・・・暗いな」
「やるよ」
もう落ち着いている。
景司は、土間に降りると、柄杓で水を汲み、右京に差し出した。
まずは喉をうるおす。
自分も飲んで、今度は、足盥に水を汲み、置いた。
足を洗わなければ、屋敷に上がれない。
「少しは落ち着いたようだな。おれが知っていることを話す」
「うん」
框に並んで座った。
「兵衛介どのは、おれの屋敷で腹を切られた。ご遺体が返されないのには訳がある。詳しいことは知らないが、親父どのは、片瀬家を黙って消すつもりなんだ。だから、昨日、おれは外に出られなかった。兵衛介どののことを隠すために。お前と接触しないように。・・・嵐になって、監視の目もゆるくなったから、抜け出して来た」
「・・・そんなこと、聞かされても・・・何にもわからないじゃないか。その理由が知りたいのに」
「すまない」
右京が苦しげに言った。
そうだ。右京を責めても何にもならない。
「ありがとう、教えてくれて。・・・わかったよ。お屋敷に行ってはいけないんだな」
「二人ともずぶ濡れだな。風邪引くぞ」
景司の言葉に、ほっとしたのか、右京が少し明るくなる。
「着替え、あったかな」
景司は、部屋にあがろうとして、水が着物から滴るのに気がついた。
脱ぐしかない。
下帯までぐっしょり濡れている。
パッパとすべて脱ぎ捨てて、荷物を探ろうとするが、暗くてよくわからない。
仕方がないから、行灯にあかりを灯した。
「もう荷物はまとめてあるんだ。どこだっけな・・・」
すぐに運べるように、出入り口の近くに置いてあるのだ。
右京の視線を感じる。
真っ裸で探し物なんて、シャレにもならない。
風呂敷に包んだ荷物を探っていると、こちらも裸になった逞しい右京の腕に、後ろから抱きすくめられた。
「もう二度と会えないなんて、嫌だ」
熱い吐息がうなじにかかる。
「どこにも行くな。おれがなんとかするから。お前が戻ってこられるように、えらくなる。・・・それまで待っていてくれ」
右京の熱が伝わり、景司の体も熱くなってくる。
でも、頭は冷めている。
「ああ、はいはい、期待しないで待ってるわ」
軽くいなすような口調になった。
「バカ! おれは真剣に・・・」
前に向かされ、押し倒された。
見下ろす右京の目は、見たことがないほど、真剣で澄んでいた。
「わかってる。お前の気持ちは・・・」
「わかってない! ・・・わからせてやる」
「いいよ。・・・刻めよ。・・・体で、覚えているから」
熱い唇が降りてきて、嵐のような抱擁が始まった。
なんで、あんなことを言ったのか、自分でもわからなかった。
すぐに後悔した。
今までに感じたことのない快楽と痛みに、気が変になりそうだった。
激しい風雨が戸を叩く音がなければ、恥ずかしくて拒んでいたかもしれない。
嵐に煽られるように、漏れてしまう喘ぎ声を抑えなかった。
そうして、変な力が抜けてきたころから、快楽しか感じなくなくなり、何度もいかされてしまった。
力尽きて、まどろんだ隙に、右京の姿は消えていた。
はっと飛び起きたとき、まだ夜は明けていなかった。
嵐もおさまってはいない。
だが、少し遠ざかったのか、勢いが弱まってきたように感じる。
終わった後の方が、寂しくて別れ難い。
強烈な喪失感と、罪悪感が襲ってきた。
かと言って、どうすれば良かったのかもわからない。
なにやってるんだ、おれは・・・。
気だるい体を起こし、脱ぎ捨てた着物を、濡れたまま身につけた。
どうせまた、濡れるのだ。
外に出ると、強い風と雨に頬を打たれた。
ほてった体が急激に冷えていく。
景司はとぼとぼと歩き出した。
お城に背を向けて。
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