【完結】蟠龍に抱かれて眠れ〜美貌のご落胤に転生?家老に溺愛されてお家騒動に巻き込まれる〜

かじや みの

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1章 嵐

1 ここは江戸時代?キスから始まる新生活

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 片瀬景司かたせけいしは高校三年生。

 地元の高校に通っている。

 郷土史研究部の部活動も一学期で終わり、受験勉強に邁進する、ごくごく普通の高校生だ。

 いや、趣味が歴史だから、普通よりも地味かもしれない。
 これまで目立ったこともないし、あえてでもないけれど、地味に生きてきたという自覚がある。

 今も、夏休みの一日、勉強の息抜きに家を抜け出して、城跡公園に来ている。

 誰も誘えないし、そもそも誰も一緒に来てくれるはずはないから、一人だ。

「また来たよ、忠勝さん」

 と本多忠勝公の銅像に挨拶して、蟠龍櫓ばんりゅうやぐらまで自転車を走らせる。

 桑名城で唯一復元された櫓だ。
 他に建物はない。

 復元と言ってもコンクリートで、外側だけが白壁でそれらしく見せているだけだが。

 それでも、何もないよりはマシだと景司は思う。

 ここに、きっと、こんな櫓があったんだな、と思えるだけで気分が良かった。

 蟠龍という名前がかっこいい。
 調べたら、飛ぶ前のうずくまった龍のことらしい。
 どうしてこんな名前が付けられたのかは知らないが、方位の名前ではなくてよかったと思う。
(櫓にはよく、丑寅とか辰巳とかいう方位の名前がよく付けられている)

 ここから飛び立て!ってことなのかな。

 すぐ目の前を、揖斐川が流れていて、対岸は長島、イルミネーションで有名な「なばなの里」があり、タイミングが合えば、富士山の形をした展望台が上がるのが見える。

 真夏でなければ、多少の風でも気持ちがいいが、このうだるような暑さでは、どれだけ風が吹いても暑いだけだ。
 長居はできない。

 景司は早々に自転車にまたがり、すぐ近くの七里の渡しまで走った。

 神社ではないが、鳥居がある。
 この鳥居は、伊勢神宮の鳥居だ。

 桑名は東海道の宿場町であり、伊勢の入り口。
 東から伊勢参りに行く人は、尾張の宮宿から船で来なければならなかった。
 いよいよ伊勢だ、あと少し、と旅人を励ましたことだろう。
 伊勢までは、まだまだなのだが・・・。

 陸路はないから、この渡し場から、たくさんの船が行き交い、たくさんの人がここに降り立った。

 今は人っこひとりいないが、当時はもみくちゃになるほど人が行き来していたのだ。

 そして、目の前にどどんとそびえ立つ桑名城があった!

 どんな城だったんだろう。
 と、想像するのが楽しい。
 それだけで、いい気分転換になる。
 暑い中を来たかいがあるというものだ。

 ここから東海道が南に伸びているので、いつもは、旅人気分で街道を走って帰るのだが、今日の景司は違った。

 暑いし、川沿いを行こう。

 河口付近なので、海も近い。
 せっかくだから、開放感を味わいたかった。

 蟠龍櫓に戻り、土手道を走る。
 ここからは昔なら入ることができなかった城内エリアだ。

 土手道は車も通る。
 市民プールが近くにあって、夏は交通量は多めだ。
 ガードレールがないので、端っこによると転落の危険がある。

 慎重に走っているつもりだったが、自転車に気が付かないのか、交差点で猛スピードで土手道に侵入してくる車に当てられそうになった。

 ギリギリのところで衝突は避けられたものの、端に寄りすぎた。
 接触を避けるために、無意識に傾けた体を、車が通り過ぎたことで生まれた風が押した。

 ふわり、と浮き上がった感覚。

 蟠龍じゃなくて、おれが飛ぶのか!?

 眩しい夏の太陽が目に入り、眩んだ。



 ◇  ◇  ◇


 頭がいたい。

 体を動かそうとしたが、動かない。

 目を開ける気力さえなかった。

 音が聞こえる。

 騒々しい。
 人の声。
 雄叫び?
 床を踏み鳴らす音。
 どんどん、と体に床が軋む衝撃が伝わってくる。

 ここはどこなんだろう。

 体が重い。
 何かが上に乗っかっているような・・・。

「片瀬・・・?」

 おれを呼んでる?

「死んでねえよな」

 唇に柔らかいものが触った。
「早く起きないと、奪うからな」

 耳元で囁く声。

 え? 何を?

 意識はぼんやりとだが戻っているのに、目が開けられないのだ。

 だれ?

 また唇に触れた。

 ん?

 今度は優しくない。

 吸われている。

 何かが侵入してくる。
 舌だ。

 ま、待って!

 びくんっ、と体が震えた。

 力が入った。
 目が開いた。

 男が覆い被さっていた。

 口が塞がれているから声も出せない。
 と思ったら、離れた。

「なんだ、起きたのか」
 残念そうに言って、拳で口を拭う。
 笑いがおきた。

 人がいる前で、何を・・・。

 恥ずかしさでどうにかなりそうだ。
 塞がれていなくても、声が出なかった。

「おい、そこ! 何をしている。片瀬は気がついたのか、端に寄せてやれ」

 誰かの言葉に、口づけ男が脇に腕を入れて、壁際まで景司を運んだ。

 間近で見る男は、精悍な顔立ち。
 切れ長の目に薄い唇のイケメンだ。

「頭打ってるから、しばらく休んでろ」
 と、壁にもたれ掛けさせてくれる。
 そうしておいて、自分は騒々しく人が動いている場所に戻っていった。

 景司はわけがわからず、なんて言っていいかもわからず、ぼーっと、その男と、周りを眺めるしかなかった。

 剣道か?

 道場のようだった。
 竹刀で打ち合っている。
 景司も小学生の頃剣道を習っていたから、雰囲気はわかる。

 でも、簡単な防具をつけているだけで、景司が使っていた物ではない。
 古武道なのかな。

 見知った人はいなさそうだった。

 稽古着に袴。
 自分も同じ格好。

 うっ、気持ち悪い・・・。
 頭痛はまだ続いている。

 思わず両手で口を覆った。

 ん? ちょっと待って。

 手のひらを見た。

 自分の手じゃない・・・。

 その手には、生々しい竹刀だこができている。
 相当稽古している手だ。

 顔に触れてみる。
 おれの顔だろうか?
 わからない。
 鏡を見たいが、ここにはなさそうだ。

 髪に触れる。
 結われている。
 ポニーテール?
 え?

 そこで初めて他人の髪型が気になった。
 気が動転して気がついていなかった。

 目を見張った。
 叫びそうになって、両手で口を押さえる。

 ま、ま、ま、まさか、チョンまげ!?

 この髷は、時代劇で見る髷だ。
 子供の頃、ひいおばあちゃんがテレビで観ていたやつ。

 江戸時代!?

 吐き気が強くなり、思わず突っ伏した。
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