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5話 対決 龍と天女
三 二振り邂逅す(三)
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沈黙があった。
「おわかりになりませんか?」
波蕗が生意気にも、二人を試すように勿体をつけている。
「華やかな刀身だな。そなたに相応しい」
「天女の刀です。そう言っていただけると、嬉しうございます。刃文の形は、相州伝のものと同じでございます」
「すると、これは・・・」
坂下が波蕗に目を戻した。
「写しか」
「さようにございます。相州伝の写し、・・・ゆえに・・・」
そこで言葉をきり、上目遣いに二人を交互に見やった。
「ただのお遊びにございます。皆様が、奪い合う意義など、ないのでございます」
「ほう」
「花ふぶきは、立花家が表も裏も争わぬよう、五頭龍と天女の夫婦のように仲良くあれという願いを込めて打たれたもの。表に出てはならないのです。争いを好まぬ刀ゆえ、立花家にお返しくださいませ。鳥居さまにもそのようにお話し、おわかりいただきました。土岐さまは、いかが?」
波蕗が真っ直ぐに土岐を見つめた。
「姫よ。そなたの勇気には、感服つかまつった。さすがに石見の血を引いておるの。・・・兄妹揃って忌々しいわ。わしは、鳥居のように甘くはない。利用できるものは利用する。花ふぶきには利用する価値がある」
土岐はあくまでも穏やかさを崩さずに言った。
「では、どうあっても、お返しくださらないのですか? ならば、兄さまだけでもお返しくださいませ」
「ならぬ」
土岐の顔に醜悪な笑みがはかれた。
波蕗が凍りつく。
「波蕗!」
新一郎が叫んだ。
縄を解き、立ち上がる。
「はい」
その声にはっとした波蕗が、素早く相州伝の刀を抱えて、縁を飛び降りた。
坂下が花ふぶきを手に持ったままだ。
波蕗を追って、踏み込んだところへ、荘次郎が投げ込んだ小柄を放つ。
坂下の動きが一瞬止まり、その隙に波蕗が新一郎のそばまでたどり着いた。
「おのれ、小癪な」
坂下も縁を降りてくる。
新一郎は、相州伝を受けとって、波蕗を背中に庇った。
「波蕗よくやった。ありがとう。あとは任せろ」
「はい」
鞘を払った。
相州伝と花ふぶきが対峙する。
表裏一体の刀が敵対するなど、あってはならない。
が、そんなことは言ってられない。
土岐は、坂下を信頼しているらしく、黙って見守っていた。
波蕗が邪魔にならないところまで下がった。
柄を握ったときの感触に、胸が踊る。
美濃伝も使いやすかったが、久しぶりに己の手に戻ってきたこいつは、体の一部であるかのように手に馴染んだ。
坂下は遣い手だが、負ける気はしなかった。
気力まで戻ってきたようだった。
刀など、何が相手でも同じだ。
優れた剣士は、使う刀を選ばない。
坂下がじりじりと間合いを詰めてくる。
刀と戦っているのではない。
なんの前触れもなく、坂下の刃が一閃した。
右に踏み込んで外したが、凄まじい太刀風に、首筋がヒヤリとした。
なおも間合いに踏み込まれ、後ろに下がる。
首を狙う刃を、鍔元で受けた。
押し戻して、下段から一閃する。
坂下が飛び退ってかわした。
追っていき、逆に踏み込む。
脇をすり抜けざまに、横殴りの一太刀を見舞った。
二振りが激しく打ち合う。
それは互角に見えた。
もう最後だ。
新一郎が柄を握り直す。
その気を察したのか、坂下がにやりと口元を歪めた。
間合いを詰めながら、刀を一気に上段に引き上げる。
脳天目掛けて振り下ろした。
坂下が受け流そうと、花ふぶきで受け止める。
だが、受けた場所が悪かったのか、刀身がキーンと鳴った。
音と共に、花ふぶきが真ん中から真っ二つに折れ、相州伝が坂下の肩口にめり込んだ。
「おわかりになりませんか?」
波蕗が生意気にも、二人を試すように勿体をつけている。
「華やかな刀身だな。そなたに相応しい」
「天女の刀です。そう言っていただけると、嬉しうございます。刃文の形は、相州伝のものと同じでございます」
「すると、これは・・・」
坂下が波蕗に目を戻した。
「写しか」
「さようにございます。相州伝の写し、・・・ゆえに・・・」
そこで言葉をきり、上目遣いに二人を交互に見やった。
「ただのお遊びにございます。皆様が、奪い合う意義など、ないのでございます」
「ほう」
「花ふぶきは、立花家が表も裏も争わぬよう、五頭龍と天女の夫婦のように仲良くあれという願いを込めて打たれたもの。表に出てはならないのです。争いを好まぬ刀ゆえ、立花家にお返しくださいませ。鳥居さまにもそのようにお話し、おわかりいただきました。土岐さまは、いかが?」
波蕗が真っ直ぐに土岐を見つめた。
「姫よ。そなたの勇気には、感服つかまつった。さすがに石見の血を引いておるの。・・・兄妹揃って忌々しいわ。わしは、鳥居のように甘くはない。利用できるものは利用する。花ふぶきには利用する価値がある」
土岐はあくまでも穏やかさを崩さずに言った。
「では、どうあっても、お返しくださらないのですか? ならば、兄さまだけでもお返しくださいませ」
「ならぬ」
土岐の顔に醜悪な笑みがはかれた。
波蕗が凍りつく。
「波蕗!」
新一郎が叫んだ。
縄を解き、立ち上がる。
「はい」
その声にはっとした波蕗が、素早く相州伝の刀を抱えて、縁を飛び降りた。
坂下が花ふぶきを手に持ったままだ。
波蕗を追って、踏み込んだところへ、荘次郎が投げ込んだ小柄を放つ。
坂下の動きが一瞬止まり、その隙に波蕗が新一郎のそばまでたどり着いた。
「おのれ、小癪な」
坂下も縁を降りてくる。
新一郎は、相州伝を受けとって、波蕗を背中に庇った。
「波蕗よくやった。ありがとう。あとは任せろ」
「はい」
鞘を払った。
相州伝と花ふぶきが対峙する。
表裏一体の刀が敵対するなど、あってはならない。
が、そんなことは言ってられない。
土岐は、坂下を信頼しているらしく、黙って見守っていた。
波蕗が邪魔にならないところまで下がった。
柄を握ったときの感触に、胸が踊る。
美濃伝も使いやすかったが、久しぶりに己の手に戻ってきたこいつは、体の一部であるかのように手に馴染んだ。
坂下は遣い手だが、負ける気はしなかった。
気力まで戻ってきたようだった。
刀など、何が相手でも同じだ。
優れた剣士は、使う刀を選ばない。
坂下がじりじりと間合いを詰めてくる。
刀と戦っているのではない。
なんの前触れもなく、坂下の刃が一閃した。
右に踏み込んで外したが、凄まじい太刀風に、首筋がヒヤリとした。
なおも間合いに踏み込まれ、後ろに下がる。
首を狙う刃を、鍔元で受けた。
押し戻して、下段から一閃する。
坂下が飛び退ってかわした。
追っていき、逆に踏み込む。
脇をすり抜けざまに、横殴りの一太刀を見舞った。
二振りが激しく打ち合う。
それは互角に見えた。
もう最後だ。
新一郎が柄を握り直す。
その気を察したのか、坂下がにやりと口元を歪めた。
間合いを詰めながら、刀を一気に上段に引き上げる。
脳天目掛けて振り下ろした。
坂下が受け流そうと、花ふぶきで受け止める。
だが、受けた場所が悪かったのか、刀身がキーンと鳴った。
音と共に、花ふぶきが真ん中から真っ二つに折れ、相州伝が坂下の肩口にめり込んだ。
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