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4話 天女の行方
二 相州伝対美濃伝(一)
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屋敷に戻ると、洋三郎は手当が済んで、奥の一部屋に移されていた。
「洋三郎兄さまのお世話は、私がいたします」
涙目になっている波蕗が枕元で言った。
「ああ、頼んだぞ、波蕗」
「荘次郎兄さまは?」
「予断は許さないが、さちもみてくれている。きっと大丈夫だ」
「お父上にお願いします。兄さまたちをあちらに連れて行かないでって」
波蕗が、拝むように手を合わせた。
「そうだな。必ずお守りくださる」
(父上、見ていてください)
新一郎も、心の中で語りかけた。
「主計どの。お願いがあります」
新一郎は、主計の都合を聞くこともなく、表の部屋へ上がり込んだ。
「なんだ」
書き物に目を通していた主計が面倒臭そうに目を上げて、新一郎を見た。
「高崎さまにお会いしたいのですが」
「高崎? 誰だ」
「若年寄の高崎勘解由さまです」
「若年寄? 知らんな」
「お使いに行ってまいりましょう」
主計のそばに控えていた侍が言った。
「留守居役の永井と申します。お手伝いいたします」
永井と名乗った侍は、笑顔を見せて手をついた。
新一郎が何者なのか、わかっているようだった。
「かたじけない。立花新一郎と言えば、通るはずです」
新一郎も頭を下げた。
主計が怪訝な顔をしている。
永井はもともと裏の立花家の侍なのだ。
重要な役は、ほとんどが裏の者が務めている。
「今は、裏だの表だの言っている時ではございませぬ。では早速に」
と、永井が立って行った。
「若年寄に知り合いがおるとはな」
永井が勝手に動いたのが気に食わないのか、不機嫌な顔のまま、主計が言う。
「父と、古くから付き合いがあるそうです。当家の処置に何か関わりがあるかもしれません」
「なるほどな」
「それから」
新一郎が、正面から主計に向き合った。
「これは、高崎さまにお会いしてからのことですが・・・」
「なんだ」
「主計どのに、鳥居さまと会っていただきます」
「鳥居に?・・・なぜだ」
怖い顔になっている。
「鳥居さまが言われたのですよね。花ふぶきをよこせば、立花家の罪は問わないと」
「ああ、そうだが・・・まさか!」
目を剥いた。
「花ふぶきを、鳥居さまに差し出してください」
「はあ!? いや、それはならぬ!」
喚いた。
「正気か! 許さんぞ! 貴様、弟たちを傷つけられて血迷ったか!」
大声を出すので、何事かと家臣たちが集まってきた。
意外に声が大きく、凄みがある。
「はい! 血迷いました! 脅しに屈して、花ふぶきを出した。そう思わせるのです!」
新一郎も負けじと大声で応えた。
「・・・」
ふうっと、主計が息を吐く。
畳み掛けるように続ける。
「出すところが重要です。相州伝は、おそらく土岐。なので、花ふぶきは鳥居に。・・・何が起こると思いますか」
「んん・・・」
唸った。
「奪い合いか・・・」
「二人の目は、完全に立花から離れます」
「新一郎・・・」
主計が鋭い目で睨んだ。
「それはそうかもしれんが、花ふぶきを手放すことに変わりはない。戻ってくる保証はあるのか」
「ありません。諦めてください」
主計が頭を抱えている。
「立花家の危機は、それで救われます」
「ついてきてくれるのだろうな」
「もちろんです。お供いたします」
手をついて平伏した。
「洋三郎兄さまのお世話は、私がいたします」
涙目になっている波蕗が枕元で言った。
「ああ、頼んだぞ、波蕗」
「荘次郎兄さまは?」
「予断は許さないが、さちもみてくれている。きっと大丈夫だ」
「お父上にお願いします。兄さまたちをあちらに連れて行かないでって」
波蕗が、拝むように手を合わせた。
「そうだな。必ずお守りくださる」
(父上、見ていてください)
新一郎も、心の中で語りかけた。
「主計どの。お願いがあります」
新一郎は、主計の都合を聞くこともなく、表の部屋へ上がり込んだ。
「なんだ」
書き物に目を通していた主計が面倒臭そうに目を上げて、新一郎を見た。
「高崎さまにお会いしたいのですが」
「高崎? 誰だ」
「若年寄の高崎勘解由さまです」
「若年寄? 知らんな」
「お使いに行ってまいりましょう」
主計のそばに控えていた侍が言った。
「留守居役の永井と申します。お手伝いいたします」
永井と名乗った侍は、笑顔を見せて手をついた。
新一郎が何者なのか、わかっているようだった。
「かたじけない。立花新一郎と言えば、通るはずです」
新一郎も頭を下げた。
主計が怪訝な顔をしている。
永井はもともと裏の立花家の侍なのだ。
重要な役は、ほとんどが裏の者が務めている。
「今は、裏だの表だの言っている時ではございませぬ。では早速に」
と、永井が立って行った。
「若年寄に知り合いがおるとはな」
永井が勝手に動いたのが気に食わないのか、不機嫌な顔のまま、主計が言う。
「父と、古くから付き合いがあるそうです。当家の処置に何か関わりがあるかもしれません」
「なるほどな」
「それから」
新一郎が、正面から主計に向き合った。
「これは、高崎さまにお会いしてからのことですが・・・」
「なんだ」
「主計どのに、鳥居さまと会っていただきます」
「鳥居に?・・・なぜだ」
怖い顔になっている。
「鳥居さまが言われたのですよね。花ふぶきをよこせば、立花家の罪は問わないと」
「ああ、そうだが・・・まさか!」
目を剥いた。
「花ふぶきを、鳥居さまに差し出してください」
「はあ!? いや、それはならぬ!」
喚いた。
「正気か! 許さんぞ! 貴様、弟たちを傷つけられて血迷ったか!」
大声を出すので、何事かと家臣たちが集まってきた。
意外に声が大きく、凄みがある。
「はい! 血迷いました! 脅しに屈して、花ふぶきを出した。そう思わせるのです!」
新一郎も負けじと大声で応えた。
「・・・」
ふうっと、主計が息を吐く。
畳み掛けるように続ける。
「出すところが重要です。相州伝は、おそらく土岐。なので、花ふぶきは鳥居に。・・・何が起こると思いますか」
「んん・・・」
唸った。
「奪い合いか・・・」
「二人の目は、完全に立花から離れます」
「新一郎・・・」
主計が鋭い目で睨んだ。
「それはそうかもしれんが、花ふぶきを手放すことに変わりはない。戻ってくる保証はあるのか」
「ありません。諦めてください」
主計が頭を抱えている。
「立花家の危機は、それで救われます」
「ついてきてくれるのだろうな」
「もちろんです。お供いたします」
手をついて平伏した。
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