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3話 立花家の危機
四 晴れた霧(一)
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「誰かこっちに来る」
荘次郎が塀の上から外を見て言う。
「なんか、偉い人って感じだけど」
騒ぎを聞きつけて、駆けつけて来たのかもしれない。
「別に悪いことしてないからいいんじゃないの?」
洋三郎がのんびりと言っている。
「信じてくれればな」
荘次郎が塀から飛び降りて来た。
「どう見たって、おれたちがやったとしか思えないだろ。長居は無用だ。早く出た方がいい。兄上は無事か?」
履き物を脱いで、縁から上がった。
「ちょっと手を貸して」
さちが洋三郎を引っ張って、倒れている女のそばに寄る。
「殿さまのそばに運んであげて」
洋三郎が女を抱き上げて、佐野のそばに寝かせた。
「この人、殿さまのことが好きだったんだわ」
佐野の手と、女の手を重ね合わせる。
「もっと話をすればよかった。名前も聞いてなかったし。・・・そうすれば、もっとできることがあったかもしれないのに」
冥福を祈るように手を合わせた。
「さあ、行こう」
膝をついてうなだれ、動けずにいる新一郎のそばに行った。
荘次郎は、転がっている相州伝を拾って鞘に収める。
「こいつは預かるよ。弓と一緒に武蔵屋さんに持っていくから」
研ぎに出した方がいい。
「ああ、頼んだ」
「それと、波蕗もうちで預かるから。その方がいいだろう」
「そうだな。ありがとう。頼りにしている。二人がいてくれて助かった」
「兄上を頼んだぞ、洋三郎」
「うん。やっぱり心配だったから、最初は一人で乗り込もうかと思ったけど、荘兄を誘いに行ってよかったよ。そのせいで遅くなっちゃったけど、まさかこんなふうになってるとは思わないからさあ」
集団が来る足音が近づいている。
急がなければ。
「新兄、立つよ」
洋三郎が、右腕を肩に担いで、脇から支えるように立たせた。
「新さん・・・」
左からは、さちが支える。
「もう。・・・感動の再会にならないじゃない!」
と言いながら、涙が溢れて、頬を伝う。
「すまない。・・・無事でよかった」
「それはこっちの台詞でしょ?こんなボロボロの新さん、初めて見た」
「カッコ悪いところを見られたな」
「ううん。カッコよかったよ」
さちが、新一郎にぴたりと寄り添い、抱きつくようにしている。
先に出て行こうとしていた、荘次郎と波蕗が後ずさる。
塗りの陣笠をかぶった、立派な身なりの武士が立ちはだかっていた。
敷居ぎわに立ち、中の様子を鋭い視線で眺め回した。
五人にも、鋭い視線を向けてくる。
浪人、町人、医者、町娘、武家娘。
一見バラバラで何のつながりもなさそうな面々である。
わけがわからない、と言うような訝しむ表情になる。
が、何も言わずに、手下に指示を出し始めた。
「帰っていいってこと?」
洋三郎が痺れを切らして言葉にする。
「しばし待たれよ。聞かねばならぬことがある」
「こっちは怪我人がいるんだ。早くしてもらいたいな」
荘次郎も、ムッとして言う。
「それはすまなかった」
陣笠の武士が意外にも笑顔を見せた。
「立花の身内か?よく似ておる」
「おっさん誰?」
洋三郎が無遠慮に呟いた。
「高崎勘解由と申す。今は若年寄を務めておる。立花とは、古くから付き合いがあった。懐かしいのう」
歳のころは四十半ばごろか、父が生きていたらこんな感じだろうと思われた。
恰幅がよく、顔も丸くて、笑うと目尻が下がり柔和な顔になった。
荘次郎が塀の上から外を見て言う。
「なんか、偉い人って感じだけど」
騒ぎを聞きつけて、駆けつけて来たのかもしれない。
「別に悪いことしてないからいいんじゃないの?」
洋三郎がのんびりと言っている。
「信じてくれればな」
荘次郎が塀から飛び降りて来た。
「どう見たって、おれたちがやったとしか思えないだろ。長居は無用だ。早く出た方がいい。兄上は無事か?」
履き物を脱いで、縁から上がった。
「ちょっと手を貸して」
さちが洋三郎を引っ張って、倒れている女のそばに寄る。
「殿さまのそばに運んであげて」
洋三郎が女を抱き上げて、佐野のそばに寝かせた。
「この人、殿さまのことが好きだったんだわ」
佐野の手と、女の手を重ね合わせる。
「もっと話をすればよかった。名前も聞いてなかったし。・・・そうすれば、もっとできることがあったかもしれないのに」
冥福を祈るように手を合わせた。
「さあ、行こう」
膝をついてうなだれ、動けずにいる新一郎のそばに行った。
荘次郎は、転がっている相州伝を拾って鞘に収める。
「こいつは預かるよ。弓と一緒に武蔵屋さんに持っていくから」
研ぎに出した方がいい。
「ああ、頼んだ」
「それと、波蕗もうちで預かるから。その方がいいだろう」
「そうだな。ありがとう。頼りにしている。二人がいてくれて助かった」
「兄上を頼んだぞ、洋三郎」
「うん。やっぱり心配だったから、最初は一人で乗り込もうかと思ったけど、荘兄を誘いに行ってよかったよ。そのせいで遅くなっちゃったけど、まさかこんなふうになってるとは思わないからさあ」
集団が来る足音が近づいている。
急がなければ。
「新兄、立つよ」
洋三郎が、右腕を肩に担いで、脇から支えるように立たせた。
「新さん・・・」
左からは、さちが支える。
「もう。・・・感動の再会にならないじゃない!」
と言いながら、涙が溢れて、頬を伝う。
「すまない。・・・無事でよかった」
「それはこっちの台詞でしょ?こんなボロボロの新さん、初めて見た」
「カッコ悪いところを見られたな」
「ううん。カッコよかったよ」
さちが、新一郎にぴたりと寄り添い、抱きつくようにしている。
先に出て行こうとしていた、荘次郎と波蕗が後ずさる。
塗りの陣笠をかぶった、立派な身なりの武士が立ちはだかっていた。
敷居ぎわに立ち、中の様子を鋭い視線で眺め回した。
五人にも、鋭い視線を向けてくる。
浪人、町人、医者、町娘、武家娘。
一見バラバラで何のつながりもなさそうな面々である。
わけがわからない、と言うような訝しむ表情になる。
が、何も言わずに、手下に指示を出し始めた。
「帰っていいってこと?」
洋三郎が痺れを切らして言葉にする。
「しばし待たれよ。聞かねばならぬことがある」
「こっちは怪我人がいるんだ。早くしてもらいたいな」
荘次郎も、ムッとして言う。
「それはすまなかった」
陣笠の武士が意外にも笑顔を見せた。
「立花の身内か?よく似ておる」
「おっさん誰?」
洋三郎が無遠慮に呟いた。
「高崎勘解由と申す。今は若年寄を務めておる。立花とは、古くから付き合いがあった。懐かしいのう」
歳のころは四十半ばごろか、父が生きていたらこんな感じだろうと思われた。
恰幅がよく、顔も丸くて、笑うと目尻が下がり柔和な顔になった。
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