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3話 立花家の危機
三 友に捧ぐ(三)
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「湯川さま、何用で当家へ?」
「おう、そうであった」
湯川が廊下で待機する者に目配せをしたように見えた。
何人かが立っていく。
「町方が騒いでおってな。屋敷内を調べさせてもらう」
「それは!・・・」
佐野の顔色が変わった。
「何もなければそれで良い。形ばかりの調べよ」
佐野は何事もなかったように振る舞おうとしていたが、落ち着きのなさを隠すことができない。
湯川はまだ新一郎の刀を手に持っていた。
「お返しください」
新一郎が声をかけたが、一向に返す気配がない。
「もう一度考え直せ。これを渡せば、悪いようにはせん」
「お家再興でもしてくれるのですか?」
「口添えならいくらでもしてやる」
「確実に叶うのでなければ渡せません」
「取引をしようと言うのか。花ふぶきは渡すと申したな」
「あなたに渡すつもりはありませんよ」
「なに?」
湯川が目を剥いた。
「話が違うではないか」
「平四郎に渡すということです。平四郎以外に渡るのであれば、花ふぶきは出さない」
きっぱりと言った。
「新一郎・・・」
佐野が驚いた顔で新一郎を見た。
「ちょっと、一人で歩けるわよ。触らないで!」
騒々しい声と足音が、こっちに近づいてくる。
抱えられるようにして、連れてこられたさちと波蕗だ。
「あ、新さん!」
新一郎に気がついたさちが叫んだ。
「お兄さま、来てくださったのですね。よかったあ」
波蕗がほっとしたように笑顔を見せた。
「これはどういうことだ。佐野」
湯川の声が厳しくなる。
「・・・」
弁明の言葉が見つからないのか、無言で唇を噛んでいる。
「さあ、帰ろうか、二人とも。・・・邪魔したな、平四郎」
新一郎が、普段と変わらない口調で言った。
「!・・・」
佐野がはっとする。
「昔馴染みの屋敷にちょっと立ち寄ってみただけだ。・・・だな、さち、波蕗」
二人に同意を求めるように、念を押す。
「え?・・・ああ」
さちが新一郎と、周りを見回して、悟ったらしい。
「そうそう。こちらの能面、じゃなくて、お方によくしていただいて、長居しちゃったわよ。ねえ、波蕗ちゃん」
「え、ええ。お菓子が大変美味しうございました」
何事もなかったというように、二人が顔を見合わせて笑った。
「世話になったな」
と立ち上がったが、ふらついてしまい、そばに寄ってきた佐野に支えられた。
「新一郎、よせ。湯川さまをこれ以上怒らせるな」
小声で忠告した。
だが、新一郎は湯川に近づき、右手を差し出した。
刀を返せと要求している。
「平四郎に落ち度はありません。何もなかったと報告してください」
「浪人の分際で、指図するとはけしからん。何事もないで済むと思うか」
怒っているのか、湯川の目が据わっている。
「わしを愚弄すると、ただではすまんぞ」
二人を解放するなと部下に指図した。
「ちょっと、どういうこと?」
さちが文句を言っている。
湯川どの、と新一郎が前に進んだ。
「今、二人を拘束すれば、それは、あなたが指図したことになりますよ。咎められるのは、平四郎ではなくあなただ」
右手を伸ばして、己の刀を掴みにいく。
「おう、そうであった」
湯川が廊下で待機する者に目配せをしたように見えた。
何人かが立っていく。
「町方が騒いでおってな。屋敷内を調べさせてもらう」
「それは!・・・」
佐野の顔色が変わった。
「何もなければそれで良い。形ばかりの調べよ」
佐野は何事もなかったように振る舞おうとしていたが、落ち着きのなさを隠すことができない。
湯川はまだ新一郎の刀を手に持っていた。
「お返しください」
新一郎が声をかけたが、一向に返す気配がない。
「もう一度考え直せ。これを渡せば、悪いようにはせん」
「お家再興でもしてくれるのですか?」
「口添えならいくらでもしてやる」
「確実に叶うのでなければ渡せません」
「取引をしようと言うのか。花ふぶきは渡すと申したな」
「あなたに渡すつもりはありませんよ」
「なに?」
湯川が目を剥いた。
「話が違うではないか」
「平四郎に渡すということです。平四郎以外に渡るのであれば、花ふぶきは出さない」
きっぱりと言った。
「新一郎・・・」
佐野が驚いた顔で新一郎を見た。
「ちょっと、一人で歩けるわよ。触らないで!」
騒々しい声と足音が、こっちに近づいてくる。
抱えられるようにして、連れてこられたさちと波蕗だ。
「あ、新さん!」
新一郎に気がついたさちが叫んだ。
「お兄さま、来てくださったのですね。よかったあ」
波蕗がほっとしたように笑顔を見せた。
「これはどういうことだ。佐野」
湯川の声が厳しくなる。
「・・・」
弁明の言葉が見つからないのか、無言で唇を噛んでいる。
「さあ、帰ろうか、二人とも。・・・邪魔したな、平四郎」
新一郎が、普段と変わらない口調で言った。
「!・・・」
佐野がはっとする。
「昔馴染みの屋敷にちょっと立ち寄ってみただけだ。・・・だな、さち、波蕗」
二人に同意を求めるように、念を押す。
「え?・・・ああ」
さちが新一郎と、周りを見回して、悟ったらしい。
「そうそう。こちらの能面、じゃなくて、お方によくしていただいて、長居しちゃったわよ。ねえ、波蕗ちゃん」
「え、ええ。お菓子が大変美味しうございました」
何事もなかったというように、二人が顔を見合わせて笑った。
「世話になったな」
と立ち上がったが、ふらついてしまい、そばに寄ってきた佐野に支えられた。
「新一郎、よせ。湯川さまをこれ以上怒らせるな」
小声で忠告した。
だが、新一郎は湯川に近づき、右手を差し出した。
刀を返せと要求している。
「平四郎に落ち度はありません。何もなかったと報告してください」
「浪人の分際で、指図するとはけしからん。何事もないで済むと思うか」
怒っているのか、湯川の目が据わっている。
「わしを愚弄すると、ただではすまんぞ」
二人を解放するなと部下に指図した。
「ちょっと、どういうこと?」
さちが文句を言っている。
湯川どの、と新一郎が前に進んだ。
「今、二人を拘束すれば、それは、あなたが指図したことになりますよ。咎められるのは、平四郎ではなくあなただ」
右手を伸ばして、己の刀を掴みにいく。
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