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3話 立花家の危機
一 黒幕現る(三)
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「武蔵屋さんはどうだろう」
荘次郎が言った。
「弓矢を預けてある。花ふぶきも預かって貰えば。餅は餅屋って言うし」
「いや。これ以上は危ない。あまり負担をかけたくない」
「じゃあ、どうするの?」
「おれに考えがある」
新一郎が手招きで二人を寄らせた。
「まずは主計どのから話を聞かねばならん」
「どうやって?」
「入れないんじゃないの?」
小声で耳打ちする。
洋三郎が思わず吹き出した。
「それ、面白そう・・・やろうやろう」
「よし、腕がなるぜ」
荘次郎が腕を回した。
立花屋敷の表は、竹が門の前で組んであり、出入りが禁止されている。
二人の門番がいて、両脇を固めていた。
洋三郎が、医者の格好で前を歩く。
(こいつは厳しいなあ)
立ち止まって、じろじろ眺めた。
門番が睨んでくる。
「やるか」
何くわぬ顔で、潜戸に近づいた。
ドンドンと思い切り叩いた。
「ちょっと、開けてくださいよー!」
「おい、何をしている」
門番が長い棒を、洋三郎の前に突き出した。
「医者ですがね。急患だって言うから来たんですよ。開けてくれませんかね」
「急患?そんなことは聞いていない。離れろ」
「確かにここですよ。ちょっと中に聞いてもらえませんかね」
「駄目だ」
「ちょっとー!!医者が来ましたよーー!」
門の中に向かって叫んだ。
「大丈夫ですかーー!!」
「うるさい、黙れ!」
「死んじゃったらどうするんですか?責任取れます?入れてくださいよ!」
庭木が塀の上にまで伸びているところで、新一郎が、肩に荘次郎を乗せた。
「どうだ」
「中は、あまり人がいないみたい。行ってくるね」
「頼んだぞ。雨戸が閉まっている部屋だ」
「了解」
塀を飛び越え、木を伝って庭に降りる。
人の出入りがないせいで静かなものだ。
(忍びの真似事をするなんてな。いや、泥棒か。しかも真っ昼間に)
この前来たばかりだから、大体の間取りは頭に入っている。
洋三郎が関心を引きつけてくれているからか、近くに人はいない。
難なく部屋を見つけて近づいた。
見張もいなかった。
まったく警戒されていない。
雨戸をコツコツと叩いた。
「主計どの、ご無事か?」
耳を澄ますと、部屋の中から人が動く気配が、荘次郎のいる場所に近づいてきた。
「誰だ」
さすがにささやく声が落ち着いている。
「荘次郎です。いったい何があったんですか」
「斬り込み隊長か。よく来たな。いきなりやられた。問答無用だ」
「波蕗が攫われたことは」
「やはりそうか。戻ってこなかったゆえ、案じていた。ここにいても同じことだったろうが」
「目的は花ふぶき」
「そうだ。蔵を開けさせ、全部持って行った」
「やった奴に心当たりは?それを聞きに来た」
「はっきりとはわからん」
「思い当たる奴はいるのか。花ふぶきに関心のありそうな奴」
「そうだな・・・紙に書け。こっちでは暗くて書くに書けん」
「いや、そんな暇はない。言ってくれ」
荘次郎は、あたりに目を配りながら促した。
「名だけ言おう。土岐甲斐、湯川伯耆、鳥居越前」
「そんなに・・・」
「だから書けと言った。とりあえずだ。もっとあげてもいいぞ」
相変わらず嫌味だ。
「もういい。蔵の鍵はどこにある」
「蔵?蔵は空だと言ったろう」
だから誰も蔵を気にしない。
「私が持っている。私が蔵を開け、持っていかれるのを確認している。もう無用だから取り上げられもしなかった。そのままここに閉じ込められた」
「今持っているのか」
「ある。が、ここからどう出す?」
荘次郎は懐から棒手裏剣を出した。
本当に泥棒ができそうだ。
雨戸の敷居に差し込んで外す。
隙間ができ、その隙間からすかさず鍵が出てきた。
戸を元に戻し、庭木まで走った。
「もう、どうなっても知りませんよ」
門番が棒を振り下ろしてくる。
棒を掴んで引き、背後に回った。
腕を掴む。
「いたたたっ!」
悲鳴をあげた。
「あーあ、肩が外れちゃった」
もう片方の腕も後ろにねじる。
「こっちも外れるよ。ああ、首にしようか」
頭を掴んで捻ろうとする。
ぽきっと音がする。
「外れるよー」
「やめてくれーー!!」
何事かと、中からも人が出てきた。
「きたきた」
洋三郎は、門番から離れ、潜戸に突進する。
当然阻まれる。
「入れてくれませんかねえ。・・・無理?・・・そこをなんとか」
「痛い目に遭いたくなければ、帰れ」
「え?それはこっちの台詞なんですけどお」
ときを稼ぐのが目的だから、ゆっくりやる。
指をぼきぼき鳴らした。
「まだやる?」
関節を外されて転がされている侍の数が増えている。
そのとき、路地から出てきて走っていく二人が見えた。
荘次郎が手を挙げて、引き上げの合図をした。
「あ、すいませんねえ。また来ます」
外した関節を一人ずつ戻して走り去った。
荘次郎が言った。
「弓矢を預けてある。花ふぶきも預かって貰えば。餅は餅屋って言うし」
「いや。これ以上は危ない。あまり負担をかけたくない」
「じゃあ、どうするの?」
「おれに考えがある」
新一郎が手招きで二人を寄らせた。
「まずは主計どのから話を聞かねばならん」
「どうやって?」
「入れないんじゃないの?」
小声で耳打ちする。
洋三郎が思わず吹き出した。
「それ、面白そう・・・やろうやろう」
「よし、腕がなるぜ」
荘次郎が腕を回した。
立花屋敷の表は、竹が門の前で組んであり、出入りが禁止されている。
二人の門番がいて、両脇を固めていた。
洋三郎が、医者の格好で前を歩く。
(こいつは厳しいなあ)
立ち止まって、じろじろ眺めた。
門番が睨んでくる。
「やるか」
何くわぬ顔で、潜戸に近づいた。
ドンドンと思い切り叩いた。
「ちょっと、開けてくださいよー!」
「おい、何をしている」
門番が長い棒を、洋三郎の前に突き出した。
「医者ですがね。急患だって言うから来たんですよ。開けてくれませんかね」
「急患?そんなことは聞いていない。離れろ」
「確かにここですよ。ちょっと中に聞いてもらえませんかね」
「駄目だ」
「ちょっとー!!医者が来ましたよーー!」
門の中に向かって叫んだ。
「大丈夫ですかーー!!」
「うるさい、黙れ!」
「死んじゃったらどうするんですか?責任取れます?入れてくださいよ!」
庭木が塀の上にまで伸びているところで、新一郎が、肩に荘次郎を乗せた。
「どうだ」
「中は、あまり人がいないみたい。行ってくるね」
「頼んだぞ。雨戸が閉まっている部屋だ」
「了解」
塀を飛び越え、木を伝って庭に降りる。
人の出入りがないせいで静かなものだ。
(忍びの真似事をするなんてな。いや、泥棒か。しかも真っ昼間に)
この前来たばかりだから、大体の間取りは頭に入っている。
洋三郎が関心を引きつけてくれているからか、近くに人はいない。
難なく部屋を見つけて近づいた。
見張もいなかった。
まったく警戒されていない。
雨戸をコツコツと叩いた。
「主計どの、ご無事か?」
耳を澄ますと、部屋の中から人が動く気配が、荘次郎のいる場所に近づいてきた。
「誰だ」
さすがにささやく声が落ち着いている。
「荘次郎です。いったい何があったんですか」
「斬り込み隊長か。よく来たな。いきなりやられた。問答無用だ」
「波蕗が攫われたことは」
「やはりそうか。戻ってこなかったゆえ、案じていた。ここにいても同じことだったろうが」
「目的は花ふぶき」
「そうだ。蔵を開けさせ、全部持って行った」
「やった奴に心当たりは?それを聞きに来た」
「はっきりとはわからん」
「思い当たる奴はいるのか。花ふぶきに関心のありそうな奴」
「そうだな・・・紙に書け。こっちでは暗くて書くに書けん」
「いや、そんな暇はない。言ってくれ」
荘次郎は、あたりに目を配りながら促した。
「名だけ言おう。土岐甲斐、湯川伯耆、鳥居越前」
「そんなに・・・」
「だから書けと言った。とりあえずだ。もっとあげてもいいぞ」
相変わらず嫌味だ。
「もういい。蔵の鍵はどこにある」
「蔵?蔵は空だと言ったろう」
だから誰も蔵を気にしない。
「私が持っている。私が蔵を開け、持っていかれるのを確認している。もう無用だから取り上げられもしなかった。そのままここに閉じ込められた」
「今持っているのか」
「ある。が、ここからどう出す?」
荘次郎は懐から棒手裏剣を出した。
本当に泥棒ができそうだ。
雨戸の敷居に差し込んで外す。
隙間ができ、その隙間からすかさず鍵が出てきた。
戸を元に戻し、庭木まで走った。
「もう、どうなっても知りませんよ」
門番が棒を振り下ろしてくる。
棒を掴んで引き、背後に回った。
腕を掴む。
「いたたたっ!」
悲鳴をあげた。
「あーあ、肩が外れちゃった」
もう片方の腕も後ろにねじる。
「こっちも外れるよ。ああ、首にしようか」
頭を掴んで捻ろうとする。
ぽきっと音がする。
「外れるよー」
「やめてくれーー!!」
何事かと、中からも人が出てきた。
「きたきた」
洋三郎は、門番から離れ、潜戸に突進する。
当然阻まれる。
「入れてくれませんかねえ。・・・無理?・・・そこをなんとか」
「痛い目に遭いたくなければ、帰れ」
「え?それはこっちの台詞なんですけどお」
ときを稼ぐのが目的だから、ゆっくりやる。
指をぼきぼき鳴らした。
「まだやる?」
関節を外されて転がされている侍の数が増えている。
そのとき、路地から出てきて走っていく二人が見えた。
荘次郎が手を挙げて、引き上げの合図をした。
「あ、すいませんねえ。また来ます」
外した関節を一人ずつ戻して走り去った。
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