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覚悟
しおりを挟む グレンは、ぼくの言葉を待たずに歩き出した。
逃げるように速くなった。
この場所から早く逃げないと、また追っ手がくる。
路地に入って抜け、また路地に入って抜ける。
どこをどう通ったのか、迷路のようにわからなくなった。
ぼくって、意外に俊敏なのかも。
こんな才能が眠っていたなんて、と得意になっていたら、路地で見失った。
あれ? 確かにここに入ったはずなのに。
「グレン! グレンったらどこ!?」
ウロウロしながら大声で呼んだ。
「ねえ! ぼくを置いていかないで!」
壁に見えていたところが、ドアのように開いて、腕が伸びてきて引き込まれた。
一瞬の出来事に声も出なかったが、
「大声を出すな。死にたいのか」
低く凄みのある声がして、口が塞がれた。
死ぬのうんぬんではなくて、口をふさぐグレンの手にドキドキした。
血の匂いがする。
クラクラした。
息ができない。
ぼんやりしたぼくは、そのグレンの手が、顔から首へ降りてきて、ボタンを外し、胸元に入ってくるのを想像して身悶えた。
押し倒されて床に転がった。
じゃなくて、突き飛ばされて、無様に転んだだけだった。
「なんのつもりだ。お前」
冷たい声に、我に返る。
「仇をとるつもりなのか」
「違う。確かに、王さまを殺されて、黙っていちゃいけないのかもしれないけど、グレンを恨む気にはなれないんだ。王さまは好きだったけど、なんか、・・・自由になれたっていうか。せいせいしたっていうか。その・・・」
「・・・」
「自分でもわからないけど、敵じゃない。敵だと思ってない。それだけは信じて」
信じてもらえないかもしれないけど、首を振ってすがるように見た。
「家に帰らなくていいのか」
「ぼくに家なんてないよ」
「名前は?」
「セバスチャン。センって呼んで」
名前を聞かれて、嬉しくなった。
どうでもいいやつから、名前のあるやつに昇格した嬉しさだ。
蔑むようだった目が、ふと優しくなった気がした。
敵じゃないとわかってくれただろうか。
起き上がって、さりげなく部屋の中を見回す。
窓もなく、奥にベッドがあり、壁際に小さな机が置いてあるだけの、質素な部屋だった。
「ここは、隠れ家?」
「着替えて出ていく」
「着替え? ぼくも連れてって」
「それは無理だ。が、お前も着替えた方がいいな」
グレンは、ぼくの格好を見て、気の毒そうに言った。
下着にガウンを羽織っただけの、あられもない姿だったんだ。
「着替えを持ってきてやる。それまでに体を綺麗にしておけ」
「本当に戻ってきてよ。そのまま行っちゃうってことないよね」
確認せずにはいられない。
「お前こそ、出ていくのなら今のうちだ。出ていかなければ、巻き込まれて命を落としても責任は取らない。戻ってくるまでに考えておけ」
そう言って出て行った。
一人になって、不安に襲われた。
それは、巻き添えで命を落とすかもしれないからじゃなくて、グレンに置いていかれることへの恐怖からくるものだった。
もう覚悟は決まっている。
逃げるように速くなった。
この場所から早く逃げないと、また追っ手がくる。
路地に入って抜け、また路地に入って抜ける。
どこをどう通ったのか、迷路のようにわからなくなった。
ぼくって、意外に俊敏なのかも。
こんな才能が眠っていたなんて、と得意になっていたら、路地で見失った。
あれ? 確かにここに入ったはずなのに。
「グレン! グレンったらどこ!?」
ウロウロしながら大声で呼んだ。
「ねえ! ぼくを置いていかないで!」
壁に見えていたところが、ドアのように開いて、腕が伸びてきて引き込まれた。
一瞬の出来事に声も出なかったが、
「大声を出すな。死にたいのか」
低く凄みのある声がして、口が塞がれた。
死ぬのうんぬんではなくて、口をふさぐグレンの手にドキドキした。
血の匂いがする。
クラクラした。
息ができない。
ぼんやりしたぼくは、そのグレンの手が、顔から首へ降りてきて、ボタンを外し、胸元に入ってくるのを想像して身悶えた。
押し倒されて床に転がった。
じゃなくて、突き飛ばされて、無様に転んだだけだった。
「なんのつもりだ。お前」
冷たい声に、我に返る。
「仇をとるつもりなのか」
「違う。確かに、王さまを殺されて、黙っていちゃいけないのかもしれないけど、グレンを恨む気にはなれないんだ。王さまは好きだったけど、なんか、・・・自由になれたっていうか。せいせいしたっていうか。その・・・」
「・・・」
「自分でもわからないけど、敵じゃない。敵だと思ってない。それだけは信じて」
信じてもらえないかもしれないけど、首を振ってすがるように見た。
「家に帰らなくていいのか」
「ぼくに家なんてないよ」
「名前は?」
「セバスチャン。センって呼んで」
名前を聞かれて、嬉しくなった。
どうでもいいやつから、名前のあるやつに昇格した嬉しさだ。
蔑むようだった目が、ふと優しくなった気がした。
敵じゃないとわかってくれただろうか。
起き上がって、さりげなく部屋の中を見回す。
窓もなく、奥にベッドがあり、壁際に小さな机が置いてあるだけの、質素な部屋だった。
「ここは、隠れ家?」
「着替えて出ていく」
「着替え? ぼくも連れてって」
「それは無理だ。が、お前も着替えた方がいいな」
グレンは、ぼくの格好を見て、気の毒そうに言った。
下着にガウンを羽織っただけの、あられもない姿だったんだ。
「着替えを持ってきてやる。それまでに体を綺麗にしておけ」
「本当に戻ってきてよ。そのまま行っちゃうってことないよね」
確認せずにはいられない。
「お前こそ、出ていくのなら今のうちだ。出ていかなければ、巻き込まれて命を落としても責任は取らない。戻ってくるまでに考えておけ」
そう言って出て行った。
一人になって、不安に襲われた。
それは、巻き添えで命を落とすかもしれないからじゃなくて、グレンに置いていかれることへの恐怖からくるものだった。
もう覚悟は決まっている。
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