きみと最初で最後の奇妙な共同生活

美和優希

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5.健太郎とシンクロ

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「NEVERって……。私、NEVERの曲ってほっとんど知らないんだけど」

 “NEVER”とは、今波に乗ってるビジュアル系のロックバンド。

 私の周りでは、美也子がNEVERのファンだ。確かボーカルの人が好きだとか言っていた記憶がある。

 街を歩けば知らないと言う人はほとんどいないと言っていいくらいの知名度はあるけれど、私は曲を歌えと言われて歌えるほど知っているわけでもない。

 美也子と健太郎が仲良くなったのも、お互いにNEVERのファン同士だったというのもある。

 美也子も連れてくれば良かったかなと思うけれど、美也子は健太郎が私の中にいることを知らないのだから仕方ない。


「はぁ? マジで!? お前、人生損してるぞ!?」


 たかだかバンドの曲を知らないくらいでそこまで言われるものなのか。


「千夏がそういうのに疎いのは知ってたけどさ。ほら、この曲とか知ってんじゃねーの? 四ページ目の右下の曲」

「NEVER END……?」

「そう、それ! NEVERのデビュー曲でな、俺がファンになるきっかけになった……」

「ごめん、曲名は知ってるけど、歌えるほど知らない」

「お前なぁ……」


 タッチパネルに表示される曲の位置まで覚えてるなんて……。
 よく健太郎がクラスや部活が一緒の男子とカラオケに行っていることは知っていたけれど、ここまでとは思わなかった。

 次から次へとこの曲は? と曲の位置を示して聞いてくる健太郎。それにはさすがに感心させられた。


「この曲なら知ってるかも」

「あえてそれかよ」


 私が指し示した曲は、しっとりとしたバラード曲。

 それも美也子がよくカラオケで歌ってるから他の曲より知ってるというだけで、中身はうろ覚えだ。

 とりあえずその曲を入れてみようとタッチパネルを操作すると、すぐに室内のモニターはカラオケの画面に切り替わる。

 そして、優しいピアノとともに重なるギターの音色で奏でられる、聞き覚えのあるイントロが流れ始めた。


 そのとき、私の中で少しの違和感を感じた。

 まるで、ビリビリと何かを思い出したときに感じるような、変な感覚。

 最初はわからなかった違和感も、歌い始めてその正体に気づいた。

 うろ覚えな曲だということから、曲の途中には全く覚えていないフレーズがあった。それなのに、私の知らないはずのフレーズさえ、スムーズに喉から勝手に言葉が次いで出てきたのだ。

 歌い方も私じゃないみたいだし、まるで私の身体が勝手に歌ってるみたいだった……。


「意外と歌えてるじゃん」

「いや、それが自分でもこんなに歌えると思ってなかったからびっくりして……」

「そうか? 結構上手かったと思うぞ?」

「そ、そうかな……?」

「でも、久しぶりに歌ったわ、この曲。いい曲だけど、俺にはちょっとキーが高くて、なかなか自分では入れないんだよな~」

「……え、健太郎、一緒に歌ってた?」


 私が歌ってたとき、健太郎の声は聞こえなかったような気がするけれど……。


「ああ、俺が歌うタイミングと同じタイミングでマイクに声入ってたから気づかなかったか? いや~声出すとスッキリするわ~」


 健太郎が歌うタイミングと同じタイミングで私の声が入ってた……?

 もしかして、健太郎は私の身体を通して歌っているのだろうか。

 直感的にそう感じた私は、一番最初に健太郎に言われた『NEVER END』という曲を入れてみる。


「おい、お前、それ無理ってさっき言ってなかったか?」

「……いいの! 健太郎は二番から一緒に歌って!」


 今度はさっきの曲とはうってかわってアップテンポの曲が流れ始める。

 有名な曲みたいだから、どこかで聞いたことある気はするけれど、歌える自信はさらさらない。

 当然ながら一番は私一人では全く歌えなかった。
 しかし、健太郎が一緒に歌った二番からは、私は覚えてないはずの歌詞やメロディーがするすると口から出て、音を奏でていたのだ。

 私の、声で。

 もちろんその間は、健太郎の声は私には聞こえなかった。

 それは、他の健太郎が歌いたいと言った曲でも同じだった。

 健太郎が一緒になって歌うと、私自身が知らない曲でも、どういうわけかスムーズに歌えたのだ。
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