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第7章
桃色恋華(5)
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桃栗3年とは良く言うものだ。
あの桃の木の苗を植えて3年──。
あの桃の木は満開に花を咲かせた。
いや、拓人にとっては桃の木ではなく、桃華の木なのかもしれない。
拓人は綺麗に咲き乱れる花びらに触れ、
「今日も頑張ってくるな」
と声をかけるのが、いつしか日課になっていた。
昔、桃華のために作った曲。
──桃色恋華──。
桃華の名前と、拓人の心の中に咲いた桃色の恋の華とを掛け合わせてこの題名にしたんだったな──。
空は一面の青空。
桃華を送り出したあの日のように眩しい。
3年経っても戻って来ない桃華。
貴女は今どこにいますか──?
どこかで幸せに暮らしていますか──?
俺の詩は。
俺の声は。
聞こえていますか──?
貴女が旅立って3年。
俺は今でも貴女を愛しています──。
その日は久しぶりに早く仕事が終わり、日が暮れる頃家に帰れた。
拓人が家のすぐ傍まで帰ってきた時、見慣れない女性が門の傍に立っていた。
(客……? 俺ん家に何か用かな……?)
辺りは薄暗くなりはじめているのと
拓人の位置からは女性の後ろ姿しか見えず、さらにその女性は幅広いつば付きの帽子を被っていたので、誰かは全く見当がつかない。
声をかけるのも少しためらわれたが、そこに立たれていると入るに入れない。
「すみません、俺ん家に何か用ですか?」
拓人は思い切って声をかけてみる。
女性はゆっくり振り向くと拓人を見つめ、帽子を取る。
拓人はその女性の顔を見た瞬間、時が止まったような気がした。
「拓人……?」
拓人は驚きのあまり声が出ない。
昔とは違う大人びた顔立ちだったが、可愛らしさは変わらない
首に掛けられたチェーンには見覚えのあるペアリングと、アクセサリー。
女性は何も言わない拓人を寂しそうな目で見つめる。
「もしかして……覚えてない……?」
拓人は必死に首を横に振る。
「……いや、覚えてるけど……なんか、信じ、られなくてさ……」
拓人は戸惑いを隠せず、途切れがちだったが必死に言葉を繋ぐ。
そして、ひとつ深呼吸をして、目の前の女性を呼んだ。
「……桃華、だろ?」
桃華は瞳いっぱいに涙を浮かべて大きく頷いた。
「本当に桃華……なんだよな? 夢じゃないよな?」
桃華はまた大きく頷いた。
「遅くなってごめんなさい。移植手術が無事に成功しても、その後の副作用対策の治療とかいろいろあって、なかなか会いに来れなかったの」
桃華の話を聞き終えると、拓人は優しく目の前の桃華を抱きしめた。
「おかえり、桃華」
桃華もそれに応えるように拓人を抱きしめる。
桃華の温もりが──。
桃華が俺を抱きしめる腕の力が──。
桃華が生きてるという事実を実感させてくれる──。
これからも決して楽しいだけではない運命が待ち受けているかもしれない──。
でも2人でそれを乗り越えていきたい──。
「拓人、ただいま。そして、ありがとう」
桃華の愛しい声が、春の夜に響いた。
──白い小さな扉を開けた時
そこに貴女はいた
今から思えば
その時から貴女に恋をしていたのかもしれない──
──例え貴女にどんな運命が待ち受けていようと
俺はそれを傍で支えたいって強く思った
桃色の風が吹き抜ける時
貴女にそっと伝えたい
桃色恋華──
──END──
あの桃の木の苗を植えて3年──。
あの桃の木は満開に花を咲かせた。
いや、拓人にとっては桃の木ではなく、桃華の木なのかもしれない。
拓人は綺麗に咲き乱れる花びらに触れ、
「今日も頑張ってくるな」
と声をかけるのが、いつしか日課になっていた。
昔、桃華のために作った曲。
──桃色恋華──。
桃華の名前と、拓人の心の中に咲いた桃色の恋の華とを掛け合わせてこの題名にしたんだったな──。
空は一面の青空。
桃華を送り出したあの日のように眩しい。
3年経っても戻って来ない桃華。
貴女は今どこにいますか──?
どこかで幸せに暮らしていますか──?
俺の詩は。
俺の声は。
聞こえていますか──?
貴女が旅立って3年。
俺は今でも貴女を愛しています──。
その日は久しぶりに早く仕事が終わり、日が暮れる頃家に帰れた。
拓人が家のすぐ傍まで帰ってきた時、見慣れない女性が門の傍に立っていた。
(客……? 俺ん家に何か用かな……?)
辺りは薄暗くなりはじめているのと
拓人の位置からは女性の後ろ姿しか見えず、さらにその女性は幅広いつば付きの帽子を被っていたので、誰かは全く見当がつかない。
声をかけるのも少しためらわれたが、そこに立たれていると入るに入れない。
「すみません、俺ん家に何か用ですか?」
拓人は思い切って声をかけてみる。
女性はゆっくり振り向くと拓人を見つめ、帽子を取る。
拓人はその女性の顔を見た瞬間、時が止まったような気がした。
「拓人……?」
拓人は驚きのあまり声が出ない。
昔とは違う大人びた顔立ちだったが、可愛らしさは変わらない
首に掛けられたチェーンには見覚えのあるペアリングと、アクセサリー。
女性は何も言わない拓人を寂しそうな目で見つめる。
「もしかして……覚えてない……?」
拓人は必死に首を横に振る。
「……いや、覚えてるけど……なんか、信じ、られなくてさ……」
拓人は戸惑いを隠せず、途切れがちだったが必死に言葉を繋ぐ。
そして、ひとつ深呼吸をして、目の前の女性を呼んだ。
「……桃華、だろ?」
桃華は瞳いっぱいに涙を浮かべて大きく頷いた。
「本当に桃華……なんだよな? 夢じゃないよな?」
桃華はまた大きく頷いた。
「遅くなってごめんなさい。移植手術が無事に成功しても、その後の副作用対策の治療とかいろいろあって、なかなか会いに来れなかったの」
桃華の話を聞き終えると、拓人は優しく目の前の桃華を抱きしめた。
「おかえり、桃華」
桃華もそれに応えるように拓人を抱きしめる。
桃華の温もりが──。
桃華が俺を抱きしめる腕の力が──。
桃華が生きてるという事実を実感させてくれる──。
これからも決して楽しいだけではない運命が待ち受けているかもしれない──。
でも2人でそれを乗り越えていきたい──。
「拓人、ただいま。そして、ありがとう」
桃華の愛しい声が、春の夜に響いた。
──白い小さな扉を開けた時
そこに貴女はいた
今から思えば
その時から貴女に恋をしていたのかもしれない──
──例え貴女にどんな運命が待ち受けていようと
俺はそれを傍で支えたいって強く思った
桃色の風が吹き抜ける時
貴女にそっと伝えたい
桃色恋華──
──END──
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