【旧版】桃色恋華

美和優希

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第7章

桃色恋華(4)

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 それから数日後、桃華のお誕生日の日を迎えた。



 ──今日で桃華も二十歳か。



 二十歳……。



 ふと脳裏に蘇る言葉


『私……あと数年もたないって言われてるの……二十歳まで生きられないかもしれないって……』



 桃華は今、どこでどんな状態で居るのですか──?



 さすがにこの時は不安に涙を流した。



 ──まだそうと決まった訳じゃない……。



 拓人が植えた桃の木の苗はかなり大きくなり、まばらにつぼみを付けはじめていた。


 そんな桃の木を眺めていると、自然とあの日の記憶が蘇る。




 ──桃華と最後に病院で話したあの日。


 貴女あなたはこう言った。


『私のことは忘れて……拓人は健康な女の人と幸せになって欲しい』


 今でも思う。やっぱり俺には無理だと……。


 2年経ってもまだこんなに好きなのに……。


 もし、また会えるなら。


 すぐにでも抱きしめたいって思っているのに……。


 そういえば、


『拓人には待っていて欲しくない。必ず帰って来れるって約束できないから』


 とも言われてたっけ……。


 心のどこかで、いつも貴女が帰って来る日を、今日か今日かと待ち侘びている自分が居る──。



 ──俺、結局何ひとつ貴女との約束守れてないや──。



「……俺がこんな風にメソメソしてるって知ったら……桃華、きっと悲しむだろうな……」


 拓人は桃の木に向かって小さく呟く。


 ──俺も、前を向かなきゃ


 拓人はこの日を境に変わった。


 桃華のことで不安に思って涙を流すことを、桃華のことで寂しくて涙を流すことをやめることにした。


 あの日の桃華の言葉は、こうやって拓人に涙を流して欲しくないから言った言葉だったんだって気づいたから──。


 ──でも、貴女のことを想い続けるのは自由だよね──?



 NEVERはあのニューヨークでのライブ以来、海外からのライブの依頼がポツポツ来るようになり、忙しい日々を送った。


 でもそれが拓人にとっては良かったのかもしれない。


 仕事に打ち込んでいる間は、余計な事を考えずに済むから──。


 慌ただしい日々に追われる中。


 夏が来て、秋が来て、冬が来る。


 そしてまた再び春が来た──。

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