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第7章
桃色恋華(1)
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春のライブツアーが終わってから、拓人は家の庭にひとつの苗を植えた。
桃の木の苗だ。
なんとなくだけど、桃の木を見るとそこに桃華が居るような気持ちになれるからだ。
ガーデニングって柄ではないが、拓人は桃の木の苗を大切に育て始めた。
──桃華が旅立って3ヶ月、夏がやってきた。
時々拓人は、まだまだ小さな桃の木を見ては涙を流した。
寂しさに耐えられなくなった時は、決まってこの小さな桃の木の傍に来るようになっていた。
『桃色恋華』は5月末に発売後、たくさんの共感を得て、大ヒットを飛ばした。
誰もが聴き入ってしまうようなバラードに乗せてTAKUが歌い上げる切ない愛の詩は、多くの人々の感動と涙を誘った。
そしてこの曲の歌詞は、TAKUが発表した初めての恋の詩ということでも話題にされた。
特別ヒットを飛ばそうと狙って書いた曲ではないのに、こんな風に共感してこの曲が好きだと言ってくれる人がたくさん居ることに、拓人はとても嬉しく感じた。
時々歌ってる途中に、気持ちがこもり過ぎて涙ぐむこともあった。
するといつもNEVERのみんなが優しくフォローしてくれた。
季節は秋に移り行き、桃華と出会った季節がやってきた。
──あれから1年……か──。
桃華は旅立って行ったっきり、何の連絡もない。
きっと今も頑張っているんだろうなと思い、拓人も頑張った。
そして冬になり、年が明ける。
ジュンの命日から1年……。
拓人はジュンの墓参りに来ていた。
手を合わせて、花を供える。
脳裏に蘇るジュンの言葉──。
『桃華ちゃんを幸せにしてあげて……何かあったら守ってあげて……拓人さん強いから大丈夫』
(結局俺は桃華を幸せにできたのかな……?)
ふと不安になった。
拓人が帰ろうとした時、ジュンの両親に会った。
「あら? あなたは……」
「お久しぶりです」
既に供えられていた色とりどりの花を見て、ジュンの両親は涙ぐんだ。
「覚えててくれたのね。ジュンもきっと喜んでるわ」
いろんなことがあった1年前──。
あれから1年という月日が経っていっているんだと思うと不思議でならない。
でもこの進み行く月日は決して戻ることはなく、常に一定の速度で過ぎていくんだ。
そしてまた、春が来た。
桃華のお誕生日には庭の桃の木の前で、
「おめでとう」
と小さく呟いた。
桃華は今、19歳のお誕生日を無事に迎えられていますか──?
手術は無事に受けられましたか──?
もしかして、まだ臓器提供者待ちなのかな──?
拓人が立ち上がると派手に財布を落とし、中身が散らばってしまった。
(日頃からちゃんと整理して入れておけばよかった)
と思いながら、拓人はこぼれた中身をかき集める。
その時、ふと保険証の裏の“臓器提供意思表示”と書かれた文字が目に入った。
“あなたが脳死になった時、移植により提供しても良いと思う臓器に印をつけて下さい”
──心臓──。
拓人はその文字を見て、桃華の言葉を思い出す。
──日本ではなかなか提供してもらえない──。
拓人はここに印をつけたからといって、直接桃華が助かる訳ではないと分かっていたが
桃華と同じ悩みを抱えている人が少しでも減るように、もし自分に何かあった時力になれるならと思い、迷うことなく印を入れた。
桃の木の苗だ。
なんとなくだけど、桃の木を見るとそこに桃華が居るような気持ちになれるからだ。
ガーデニングって柄ではないが、拓人は桃の木の苗を大切に育て始めた。
──桃華が旅立って3ヶ月、夏がやってきた。
時々拓人は、まだまだ小さな桃の木を見ては涙を流した。
寂しさに耐えられなくなった時は、決まってこの小さな桃の木の傍に来るようになっていた。
『桃色恋華』は5月末に発売後、たくさんの共感を得て、大ヒットを飛ばした。
誰もが聴き入ってしまうようなバラードに乗せてTAKUが歌い上げる切ない愛の詩は、多くの人々の感動と涙を誘った。
そしてこの曲の歌詞は、TAKUが発表した初めての恋の詩ということでも話題にされた。
特別ヒットを飛ばそうと狙って書いた曲ではないのに、こんな風に共感してこの曲が好きだと言ってくれる人がたくさん居ることに、拓人はとても嬉しく感じた。
時々歌ってる途中に、気持ちがこもり過ぎて涙ぐむこともあった。
するといつもNEVERのみんなが優しくフォローしてくれた。
季節は秋に移り行き、桃華と出会った季節がやってきた。
──あれから1年……か──。
桃華は旅立って行ったっきり、何の連絡もない。
きっと今も頑張っているんだろうなと思い、拓人も頑張った。
そして冬になり、年が明ける。
ジュンの命日から1年……。
拓人はジュンの墓参りに来ていた。
手を合わせて、花を供える。
脳裏に蘇るジュンの言葉──。
『桃華ちゃんを幸せにしてあげて……何かあったら守ってあげて……拓人さん強いから大丈夫』
(結局俺は桃華を幸せにできたのかな……?)
ふと不安になった。
拓人が帰ろうとした時、ジュンの両親に会った。
「あら? あなたは……」
「お久しぶりです」
既に供えられていた色とりどりの花を見て、ジュンの両親は涙ぐんだ。
「覚えててくれたのね。ジュンもきっと喜んでるわ」
いろんなことがあった1年前──。
あれから1年という月日が経っていっているんだと思うと不思議でならない。
でもこの進み行く月日は決して戻ることはなく、常に一定の速度で過ぎていくんだ。
そしてまた、春が来た。
桃華のお誕生日には庭の桃の木の前で、
「おめでとう」
と小さく呟いた。
桃華は今、19歳のお誕生日を無事に迎えられていますか──?
手術は無事に受けられましたか──?
もしかして、まだ臓器提供者待ちなのかな──?
拓人が立ち上がると派手に財布を落とし、中身が散らばってしまった。
(日頃からちゃんと整理して入れておけばよかった)
と思いながら、拓人はこぼれた中身をかき集める。
その時、ふと保険証の裏の“臓器提供意思表示”と書かれた文字が目に入った。
“あなたが脳死になった時、移植により提供しても良いと思う臓器に印をつけて下さい”
──心臓──。
拓人はその文字を見て、桃華の言葉を思い出す。
──日本ではなかなか提供してもらえない──。
拓人はここに印をつけたからといって、直接桃華が助かる訳ではないと分かっていたが
桃華と同じ悩みを抱えている人が少しでも減るように、もし自分に何かあった時力になれるならと思い、迷うことなく印を入れた。
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