81 / 95
第6章
病魔の影(3)
しおりを挟む
──ドクンッ。
(やだ……こんな時に……苦しい……拓人……)
拓人は背後から聞こえた物音で振り返る。
「桃華っ!!」
拓人の視界の先には、地面に倒れ込んで丸くなる桃華の姿があった。
拓人は直ぐさま桃華に駆け寄り、大声で桃華に呼びかける。
「おいっ! 桃華!! しっかりしろっ!!」
「……う、苦し……い……」
拓人の脳裏に、ジュンが心臓発作を起こした日の記憶が過ぎる。
あの時のジュンの様子と、目の前の桃華の様子が拓人の頭の中で重なった。
──心臓発作。
桃華は心臓発作を起こしているんだ。
早く誰か呼ばないと、ここじゃ人気がなさ過ぎる。
拓人が助けを呼びに行こうとするも、桃華は拓人の腕を掴み、離そうとしない。
「行か、ない……で……」
「でも、このままじゃ……」
「……た、くと……か、ない……で」
本当にこのままじゃ桃華が──。
埒が明かないので、とっさに拓人は桃華を抱き抱えて走り出した。
それはものすごいスピードで。
ものすごいスピードで病院内に向けて──。
病院内に入り込むなり拓人は大声で叫んだ。
「心臓発作を起こしています!! 誰か! 誰か助けて下さい!!」
無我夢中で叫んだ。
何度も何度も。
TAKUの存在に気づいて指さす人の存在も気に留めることすらなく、大声で──。
──桃華を、助けて下さい──。
桃華は直ぐさま気づいた病院職員によって運び込まれた。
拓人は、桃華が運び込まれた部屋の前にあった長椅子に崩れ落ちるように座ると、全身を襲う恐怖に頭を抱えた。
──俺のせいだ。
──俺があの時、桃華を責めたから。
──俺は最低だ。
桃華……──。
神様、あなたは本当に存在するのですか──?
もし、もしも存在するのならば……。
桃華を助けて下さい──。
桃華を連れて行かないで下さい──。
俺から桃華を奪わないで下さい──。
何故、桃華なのですか──?
俺の勝手だって分かってるけど、俺には桃華が必要なんです──。
大切なんです──。
拓人は必死で願った。何度も何度も。
桃華はなんとか一命を取り留めた。
あとひと足遅ければ危険だったらしい。
桃華が助かった──。
目の前の事実に拓人は胸を撫で下ろした。
拓人が桃華の姿を目にした時、桃華はベッドの上でまだぐっすり眠っているようだった。
拓人は優しく桃華の手を取り握りしめた。
「桃華、ごめんな……」
拓人の目から大粒の涙が桃華の頬にごぼれ落ちた。
桃華は微かに顔を歪めるが、再び気持ち良さそうな寝顔に戻る。
本当は、桃華が目を覚ますまで傍に居てあげたかった。
しかし、病院に駆け付けた桃華の母親に
「桃華を本当にありがとうございます。後は私に任せて今日は帰って下さい」
と言われてしまい、無理に傍に居る訳にもいかず、その日は一旦帰ることにした。
(やだ……こんな時に……苦しい……拓人……)
拓人は背後から聞こえた物音で振り返る。
「桃華っ!!」
拓人の視界の先には、地面に倒れ込んで丸くなる桃華の姿があった。
拓人は直ぐさま桃華に駆け寄り、大声で桃華に呼びかける。
「おいっ! 桃華!! しっかりしろっ!!」
「……う、苦し……い……」
拓人の脳裏に、ジュンが心臓発作を起こした日の記憶が過ぎる。
あの時のジュンの様子と、目の前の桃華の様子が拓人の頭の中で重なった。
──心臓発作。
桃華は心臓発作を起こしているんだ。
早く誰か呼ばないと、ここじゃ人気がなさ過ぎる。
拓人が助けを呼びに行こうとするも、桃華は拓人の腕を掴み、離そうとしない。
「行か、ない……で……」
「でも、このままじゃ……」
「……た、くと……か、ない……で」
本当にこのままじゃ桃華が──。
埒が明かないので、とっさに拓人は桃華を抱き抱えて走り出した。
それはものすごいスピードで。
ものすごいスピードで病院内に向けて──。
病院内に入り込むなり拓人は大声で叫んだ。
「心臓発作を起こしています!! 誰か! 誰か助けて下さい!!」
無我夢中で叫んだ。
何度も何度も。
TAKUの存在に気づいて指さす人の存在も気に留めることすらなく、大声で──。
──桃華を、助けて下さい──。
桃華は直ぐさま気づいた病院職員によって運び込まれた。
拓人は、桃華が運び込まれた部屋の前にあった長椅子に崩れ落ちるように座ると、全身を襲う恐怖に頭を抱えた。
──俺のせいだ。
──俺があの時、桃華を責めたから。
──俺は最低だ。
桃華……──。
神様、あなたは本当に存在するのですか──?
もし、もしも存在するのならば……。
桃華を助けて下さい──。
桃華を連れて行かないで下さい──。
俺から桃華を奪わないで下さい──。
何故、桃華なのですか──?
俺の勝手だって分かってるけど、俺には桃華が必要なんです──。
大切なんです──。
拓人は必死で願った。何度も何度も。
桃華はなんとか一命を取り留めた。
あとひと足遅ければ危険だったらしい。
桃華が助かった──。
目の前の事実に拓人は胸を撫で下ろした。
拓人が桃華の姿を目にした時、桃華はベッドの上でまだぐっすり眠っているようだった。
拓人は優しく桃華の手を取り握りしめた。
「桃華、ごめんな……」
拓人の目から大粒の涙が桃華の頬にごぼれ落ちた。
桃華は微かに顔を歪めるが、再び気持ち良さそうな寝顔に戻る。
本当は、桃華が目を覚ますまで傍に居てあげたかった。
しかし、病院に駆け付けた桃華の母親に
「桃華を本当にありがとうございます。後は私に任せて今日は帰って下さい」
と言われてしまい、無理に傍に居る訳にもいかず、その日は一旦帰ることにした。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる