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第4章
初デート(2)
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水族館の中に入ると、部屋一面に広がる大きな水槽の中に、様々な大きさの魚が泳いでいた。
「わぁ! 拓人! 見て! 天井にもお魚泳いでるよ!!」
上も下も右も左も、大きな水槽内に作られたトンネルは、まるで海の中に居るように感じさせられるようなものだった。
トンネルを通り抜けるとラッコやペンギン、アシカやアザラシと様々な生き物が見えた。
その度に桃華は
「可愛い!」
とか
「こっち向いた!」
とか言いながら水槽に手を振ったり、拓人と繋いだ手を引っ張ったりしていた。
拓人はそんな桃華に振り回されっぱなしで、自分の方が疲れて倒れるのではないかと思うくらいの勢いに感じた。
一通り水族館の中を見終わった時には、お昼を過ぎた頃だった。
「弁当作って来たからあそこで食べるか?」
拓人は水族館の隅にある休憩室を指さした。
「うんっ!」
桃華は笑顔で答えた。
桃華は病気による食事制限から、外食は困るかなと思い、拓人はお昼はお弁当にすることにしたのだ。
拓人が朝早くから腕を奮った2人分のお弁当を広げるなり、桃華は真ん丸な目をさらに丸くした。
「拓人って、本当に料理上手だよね~!」
「俺の隠れた特技っ」
拓人は得意げな笑みを浮かべる。
「拓人も同じの食べるの? これ、私用の味付けで作ってくれたんでしょ?」
桃華が心配そうに拓人の顔を覗いた。
「なにそんな顔してんだよ! せっかく一緒に居るんだから一緒のもの食べたいじゃん」
拓人には、桃華用の味付けは確かに薄すぎる。
でも拓人にとってはそれ以上に、桃華と同じものを共有したいと思う気持ちの方が強かった。
少し遅めのお昼ごはんを食べた後、ちょうどイルカショーが始まる時間が近かったので、イルカショーを見ることにした。
桃華に水がかかったらいけないので、少し後方の座席を選んで座る。
「身体冷えるといけねぇから、これも羽織っとけ!」
桃華は拓人の着ていたジャンパーを渡される。
「でも、拓人は寒くないの?」
「俺は平気だから」
拓人はそう言いながら桃華に自分のジャンパーを羽織らせた。
イルカショーが始まると4、5匹のイルカが宙を舞ったり、ボールを回したり、様々な芸を披露してくれた。
「すごい! すごい!」
と手を叩く桃華。
拓人自身も水族館に来たことはあったが、イルカショーをこんな風にじっくりと見たことはなかったので、しばらくその芸に見入っていた。
イルカショーが終わると、少し早いがお土産屋に寄って帰ることにした。
「これ、欲しいのか?」
桃華はイルカショーを見て、かなりイルカを気に入ったらしく、イルカのぬいぐるみをじっと眺めていた。
「あっ! いや、そういう訳じゃないんだけど……」
語尾はゴニョゴニョ言ってて桃華が何を言いたかったのか聞き取れなかったが、なんとなく拓人は桃華がよっぽどこのぬいぐるみを気に入ったんだなと察した。
「分かったよ、俺が買ってやるから」
拓人はイルカのぬいぐるみをひょいっとつまみ上げた。
ぬいぐるみは、ビーズクッションのような触り心地で、手触りもすごくいいなと拓人は感じた。
桃華はそんな拓人を見て少し焦っていたが、とても嬉しそうに
「ありがとう」
と言った。
会計を済ませ、拓人が桃華にイルカのぬいぐるみを手渡すと、桃華は大事そうにぬいぐるみを懐に抱いて歩いた。
「わぁ! 拓人! 見て! 天井にもお魚泳いでるよ!!」
上も下も右も左も、大きな水槽内に作られたトンネルは、まるで海の中に居るように感じさせられるようなものだった。
トンネルを通り抜けるとラッコやペンギン、アシカやアザラシと様々な生き物が見えた。
その度に桃華は
「可愛い!」
とか
「こっち向いた!」
とか言いながら水槽に手を振ったり、拓人と繋いだ手を引っ張ったりしていた。
拓人はそんな桃華に振り回されっぱなしで、自分の方が疲れて倒れるのではないかと思うくらいの勢いに感じた。
一通り水族館の中を見終わった時には、お昼を過ぎた頃だった。
「弁当作って来たからあそこで食べるか?」
拓人は水族館の隅にある休憩室を指さした。
「うんっ!」
桃華は笑顔で答えた。
桃華は病気による食事制限から、外食は困るかなと思い、拓人はお昼はお弁当にすることにしたのだ。
拓人が朝早くから腕を奮った2人分のお弁当を広げるなり、桃華は真ん丸な目をさらに丸くした。
「拓人って、本当に料理上手だよね~!」
「俺の隠れた特技っ」
拓人は得意げな笑みを浮かべる。
「拓人も同じの食べるの? これ、私用の味付けで作ってくれたんでしょ?」
桃華が心配そうに拓人の顔を覗いた。
「なにそんな顔してんだよ! せっかく一緒に居るんだから一緒のもの食べたいじゃん」
拓人には、桃華用の味付けは確かに薄すぎる。
でも拓人にとってはそれ以上に、桃華と同じものを共有したいと思う気持ちの方が強かった。
少し遅めのお昼ごはんを食べた後、ちょうどイルカショーが始まる時間が近かったので、イルカショーを見ることにした。
桃華に水がかかったらいけないので、少し後方の座席を選んで座る。
「身体冷えるといけねぇから、これも羽織っとけ!」
桃華は拓人の着ていたジャンパーを渡される。
「でも、拓人は寒くないの?」
「俺は平気だから」
拓人はそう言いながら桃華に自分のジャンパーを羽織らせた。
イルカショーが始まると4、5匹のイルカが宙を舞ったり、ボールを回したり、様々な芸を披露してくれた。
「すごい! すごい!」
と手を叩く桃華。
拓人自身も水族館に来たことはあったが、イルカショーをこんな風にじっくりと見たことはなかったので、しばらくその芸に見入っていた。
イルカショーが終わると、少し早いがお土産屋に寄って帰ることにした。
「これ、欲しいのか?」
桃華はイルカショーを見て、かなりイルカを気に入ったらしく、イルカのぬいぐるみをじっと眺めていた。
「あっ! いや、そういう訳じゃないんだけど……」
語尾はゴニョゴニョ言ってて桃華が何を言いたかったのか聞き取れなかったが、なんとなく拓人は桃華がよっぽどこのぬいぐるみを気に入ったんだなと察した。
「分かったよ、俺が買ってやるから」
拓人はイルカのぬいぐるみをひょいっとつまみ上げた。
ぬいぐるみは、ビーズクッションのような触り心地で、手触りもすごくいいなと拓人は感じた。
桃華はそんな拓人を見て少し焦っていたが、とても嬉しそうに
「ありがとう」
と言った。
会計を済ませ、拓人が桃華にイルカのぬいぐるみを手渡すと、桃華は大事そうにぬいぐるみを懐に抱いて歩いた。
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