【旧版】桃色恋華

美和優希

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第4章

電話(1)

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 2月も半ばとなり、桃華の心も順調に回復し、以前のような笑顔も見せるようになった。


 桃華は、特別病気が悪化したとかという訳ではないが、数日前から検査も兼ねて入院した。


 拓人は昨夜、NEVERのバレンタインライブを終えたばかりでクタクタであったが、今日の午前中は久しぶりのオフだったので、桃華の元へ向かった。



「あ、拓人! おはよう!」

 病室に入ると笑顔の桃華が拓人を迎えてくれた。


 桃華は昨夜のバレンタインライブの中継の録画を見ていたようだ。


 ジュンやミカのことでショックを受けた時は、本当に以前の桃華に戻れるのか心配だっただけに、桃華の笑顔を見ると安心する。


「おはよう、桃華」


 拓人は桃華のベッドの脇に座る。


「昨日はお疲れさまっ! 最後の方、就寝時間過ぎちゃったから今録画したの見てたの!」


 桃華はにっこりとした笑みでそう言った後、そっと拓人の顔を覗き込む。


「ねぇ、拓人? 昨日の今日でしんどくならないの?」

 桃華は不思議そうな表情で言う。


「すげぇ眠い……でも、桃華に会えると思ったら平気だよ」


 拓人は桃華に軽くもたれかかると、ニッと笑った。


 桃華はそんな拓人に両腕を巻き付けて抱きしめる。


「好き……」

「俺も」


 拓人は桃華の後頭部に手を伸ばして、ふわりと唇を重ねた。



「そうだっ!」


 桃華は拓人から離れ、ベッドの隣の引き出しから大きく膨らんだ袋を引っ張り出した。


 桃華がさらに袋の中の何かを引っ張り出し、拓人の前に広げる。


「これっ! 拓人に! 帽子とマフラーとお揃いの毛糸で編んだのっ!」


 以前桃華からもらった帽子やマフラーと同じ色合いのセーターだ。


「ええっ!? これも桃華が作ったの!?」


 拓人はしばらく差し出されたセーターを見つめる。


「あっ、もしかしてあまり気に入らないかな……」

 桃華は少し不安げに拓人を見る。


「ううん、すげぇ嬉しい! ありがとう!」


 拓人は着ていた上着を脱いで、桃華からもらったセーターを着て見せた。


「ピッタリだ! すげぇな、桃華! でも、これだけ編むの大変だったろ?」


「時間はかかるけど、編み物は私にとっての楽しみなの!」


 さらに桃華は頬を赤めて
「昨日は、バレンタインだったし……」
 と言い、拓人の手を握った。


「ありがとう……肝心のバレンタイン、会えなくてごめんな」


「そんなっ! 昨日はバレンタインライブだったし、今日疲れてるのに会いに来てくれただけで嬉しい……」


「桃華には負けるわ」

 拓人はそう言うと、桃華を抱き寄せて、桃華の髪をくしゃくしゃっと撫でた。


「今日は検査あるんか?」

 拓人が桃華の髪を指でいじりながら聞く。


「うん、でも昼からだから大丈夫!」 


「そうか。じゃああまり疲れさせたらダメだな」

 拓人はそう言うと桃華の頭を2、3回撫でて立ち上がった。


 桃華は拓人の手を引く。

「えぇーっ! もう帰っちゃうの!?」


「検査の結果悪かったらまた入院なんだろ? しっかり休んどけ」


 拓人がそう言っても、桃華は拓人の手を離そうとしない。



 拓人は桃華の耳元に口を近づけ囁いた。


「検査無事クリアして入院免れたら、どこかデート連れてってやるよ」


「ほんとに!?」

 桃華は目を輝かせた。


「ってか、俺も行きたいし」

 拓人は少し恥ずかしくなり、頬を赤く染めた。


 桃華は早速拓人の手を離し、ベッドに潜り込み、掛け布団から顔を覗かせた。


 その姿がとても可愛らしくて、拓人は桃華の前髪を掻き上げるように撫でると。


 ──チュッ。


 と小さく音を立てて桃華の額にキスをした。


 桃華は嬉しそうな表情をしたが、すぐに口を突き出してねだるような顔をした。


 拓人は
(唇には来た時もしたじゃん)
 と思い笑みを浮かべると、そっと桃華の唇に唇を重ね、病室を後にした。
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