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第3章
登校日(3)
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ジュンと一旦別れた後、桃華は正門でジュンを待つ。
グラウンドの方をぼんやりと見つめ、そこから聞こえる元気良い声に耳を傾けていると、しばらくしてジュンの声が桃華の耳に届いた。
「ごめんね、待たせちゃったね」
「ううん。でも、ほんとに授業出なくていいの?」
「普段はこんなことはしてないよ。今日は特別!」
ジュンは桃華に白い歯を見せて笑った。
「家まで送るよ」
「そんなっ! 悪いよ……」
「今日だけ。いいでしょ?」
断ったらいけないような瞳でジュンが言うので、桃華は首を縦に振った。
学校から桃華の家までには、大きな公園の中を横切って帰るのが一番の近道だった。
「ここって病院から見える公園だよね! 僕、こんな風に中をゆっくり見て歩くの初めてだよ!」
ジュンは子どものような無邪気な笑顔を浮かべて公園の中を見渡す。
「そうなんだ。私は近所だからね。病院の中庭も綺麗だけど、ここは四季を1番感じ取れる場所だよ」
枝にわずかに付いていた茶色い葉が、北風に舞って地面に落ちた。
「あれ? あんた桃華ちゃんじゃない?」
どこからともなく聞こえた女の声に、2人は足を止めた。
「ミカさん?」
声がした方へ桃華が振り向くと、この前のお正月に拓人と一緒に居た美人が立っていた。
買い出しに出ていたのか、ミカの右手にはスーパーの袋があった。
でもミカの表情は強張っていて、桃華はついつい後ずさりしてしまいそうだ。
「桃華ちゃん、知り合い?」
ジュンがミカの様子を見て桃華に耳打ちする。
「うん、拓人さんの幼なじみらしい」
ミカはその様子を見て口を開いた。
「今日は可愛らしい男の子と一緒なのね? 彼氏?」
「そんなんじゃないです」
桃華は慌てて答える。
しかし、ミカは
「ふーん」
と全く桃華の話を信じる素振りはない。
「拓人の気を引いておきながら、他にも男が居たんだ」
「だから違っ……」
桃華がそう言いかけた時、ジュンは桃華の一歩前に出て片手でそれを遮った。
「失礼ですが、僕は彼女のことが好きですが、一方的な片想いです。桃華ちゃん、行こう」
ジュンは桃華の手首をぐいっと引っ張り、ミカから遠ざかろうとした。
このまま桃華をミカの傍に置いておくのは危険な気がしたから。
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
ミカが叫び、ジュンは冷静を装った目つきでミカを見つめる。
「まだ、何か用ですか?」
「あんたには用はないわ! ミカはこの子に用があるの」
ミカはそう言って、桃華を指さした。
グラウンドの方をぼんやりと見つめ、そこから聞こえる元気良い声に耳を傾けていると、しばらくしてジュンの声が桃華の耳に届いた。
「ごめんね、待たせちゃったね」
「ううん。でも、ほんとに授業出なくていいの?」
「普段はこんなことはしてないよ。今日は特別!」
ジュンは桃華に白い歯を見せて笑った。
「家まで送るよ」
「そんなっ! 悪いよ……」
「今日だけ。いいでしょ?」
断ったらいけないような瞳でジュンが言うので、桃華は首を縦に振った。
学校から桃華の家までには、大きな公園の中を横切って帰るのが一番の近道だった。
「ここって病院から見える公園だよね! 僕、こんな風に中をゆっくり見て歩くの初めてだよ!」
ジュンは子どものような無邪気な笑顔を浮かべて公園の中を見渡す。
「そうなんだ。私は近所だからね。病院の中庭も綺麗だけど、ここは四季を1番感じ取れる場所だよ」
枝にわずかに付いていた茶色い葉が、北風に舞って地面に落ちた。
「あれ? あんた桃華ちゃんじゃない?」
どこからともなく聞こえた女の声に、2人は足を止めた。
「ミカさん?」
声がした方へ桃華が振り向くと、この前のお正月に拓人と一緒に居た美人が立っていた。
買い出しに出ていたのか、ミカの右手にはスーパーの袋があった。
でもミカの表情は強張っていて、桃華はついつい後ずさりしてしまいそうだ。
「桃華ちゃん、知り合い?」
ジュンがミカの様子を見て桃華に耳打ちする。
「うん、拓人さんの幼なじみらしい」
ミカはその様子を見て口を開いた。
「今日は可愛らしい男の子と一緒なのね? 彼氏?」
「そんなんじゃないです」
桃華は慌てて答える。
しかし、ミカは
「ふーん」
と全く桃華の話を信じる素振りはない。
「拓人の気を引いておきながら、他にも男が居たんだ」
「だから違っ……」
桃華がそう言いかけた時、ジュンは桃華の一歩前に出て片手でそれを遮った。
「失礼ですが、僕は彼女のことが好きですが、一方的な片想いです。桃華ちゃん、行こう」
ジュンは桃華の手首をぐいっと引っ張り、ミカから遠ざかろうとした。
このまま桃華をミカの傍に置いておくのは危険な気がしたから。
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
ミカが叫び、ジュンは冷静を装った目つきでミカを見つめる。
「まだ、何か用ですか?」
「あんたには用はないわ! ミカはこの子に用があるの」
ミカはそう言って、桃華を指さした。
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