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第3章
ミニライブ(1)
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桃華が退院してから、初めて拓人は桃華に会いに桃華の家を訪れた。
少し荒れた庭に、こじんまりとした2階建ての家だ。
自分の素直な気持ちに気づいてしまった以上、妙に緊張する。
拓人は首に巻いていた桃華からプレゼントされたマフラーに、顔の半分くらいまで覆い隠した。
自分の気持ちが顔に出ていたら困るから……。
門のチャイムを押すのを躊躇していた時だった。
「拓人さん?」
2階から、か細い高い声が響く。
拓人が声の聞こえた方へ顔を上げると、窓から顔を出す桃華の姿が視界に映った。
「桃華ちゃん……」
しばらくして桃華が玄関から出て来た。
「来てくれたんだ! 嬉しい!!」
桃華の満面の笑みが今日はやたらと可愛く見え、拓人は顔が熱くなるのを感じた。
桃華の母親に軽く挨拶して、通されたのは桃華のお部屋だった。
桃華の母親は、桃華が家に居る時は、桃華に何かあった時のために家に居てくれることが多いそうだ。
「気兼ねなくゆっくり過ごしてね」
桃華はそう言うと、桃華の母親が拓人に入れてくれた1人分のコーヒーを小さなテーブルの上に置いた。
1人分なのは、桃華は病気による食事制限から、カフェインを取るのも良くないからだそうだ。
拓人は少し桃華の身体が心配になった。
「拓人さん、マフラーと帽子着けてくれてるんだね!! やっぱり拓人さんにはこの色似合うと思ったんだぁ~」
拓人の心配に気づいていない桃華は明るい声を上げた。
「とても暖かいよ、ありがとう」
拓人は緊張で声が上擦った。
桃華はそんな拓人にニコッと微笑むと、テーブルの傍に座った。
続いて隣に腰を下ろした拓人は、部屋全体を見渡した。
壁にはNEVERのポスターやカレンダー。
本棚にはNEVERのCDやDVDやTAKUの写真集。
NEVERやTAKUのグッズがたくさん並んでいて、それを見て拓人はだんだん恥ずかしくなってきた。
「どうしたの?」
桃華が不思議そうに拓人の様子を窺う。
「いや、俺らがいっぱい居て……その、なんか恥ずかしい……」
桃華は周りのポスターやらのことについて言われたことに気づき、頬を真っ赤に染めてうつむいた。
「……すみません」
「いや、すげぇ嬉しい……」
「えっ? 良かった……」
拓人の言葉に、桃華はホッと胸を撫で下ろしたようだった。
「私、拓人さんのこと、デビューした時からずっと好きで……お部屋拓人さんだらけなんです」
桃華は、少し照れているような笑みを浮かべて言った。
「……桃華ちゃんが好きなのは拓人じゃなくてTAKUだろ?」
「……えっ!?」
「……TAKUの俺と拓人の俺とどっちが好き?」
拓人は、桃華の困惑した反応に何気なく発した言葉の意味に気づき、後悔した。
「ごめん……何でもねぇよ」
ごまかすように桃華に微笑んだ。
ふと拓人が顔を上げると、部屋の隅に置かれていたほこりがかった電子ピアノに目が留まる。
「桃華ちゃん、ピアノ弾くの?」
拓人は話をそらした。
「小さい頃少しだけ習ってたの……でも、結局全然弾けるようにならなかったんだ」
「そっか……少し借りていい?」
桃華は不思議そうに拓人を見つめる。
「桃華ちゃんの好きな曲歌ってやるよ」
「ほんとに!?」
桃華は目をキラキラと輝かせる。
拓人はマフラーと帽子と脱ぎ、TAKUの顔を覗かせた。
「桃華ちゃんのためだけのミニライブの開催! 他のメンバーは居ないけどね」
拓人は以前、桃華の病室に行った時、NEVERのライブツアーの特集を見てはため息をつく桃華の様子を見て知っていた。
電子ピアノの音色に乗せて、桃華のリクエストした曲を3曲程歌う。
桃華の部屋に電子ピアノを見つけたから突如思いついたミニライブだったが、桃華はかなり感動してくれたようだった。
少し荒れた庭に、こじんまりとした2階建ての家だ。
自分の素直な気持ちに気づいてしまった以上、妙に緊張する。
拓人は首に巻いていた桃華からプレゼントされたマフラーに、顔の半分くらいまで覆い隠した。
自分の気持ちが顔に出ていたら困るから……。
門のチャイムを押すのを躊躇していた時だった。
「拓人さん?」
2階から、か細い高い声が響く。
拓人が声の聞こえた方へ顔を上げると、窓から顔を出す桃華の姿が視界に映った。
「桃華ちゃん……」
しばらくして桃華が玄関から出て来た。
「来てくれたんだ! 嬉しい!!」
桃華の満面の笑みが今日はやたらと可愛く見え、拓人は顔が熱くなるのを感じた。
桃華の母親に軽く挨拶して、通されたのは桃華のお部屋だった。
桃華の母親は、桃華が家に居る時は、桃華に何かあった時のために家に居てくれることが多いそうだ。
「気兼ねなくゆっくり過ごしてね」
桃華はそう言うと、桃華の母親が拓人に入れてくれた1人分のコーヒーを小さなテーブルの上に置いた。
1人分なのは、桃華は病気による食事制限から、カフェインを取るのも良くないからだそうだ。
拓人は少し桃華の身体が心配になった。
「拓人さん、マフラーと帽子着けてくれてるんだね!! やっぱり拓人さんにはこの色似合うと思ったんだぁ~」
拓人の心配に気づいていない桃華は明るい声を上げた。
「とても暖かいよ、ありがとう」
拓人は緊張で声が上擦った。
桃華はそんな拓人にニコッと微笑むと、テーブルの傍に座った。
続いて隣に腰を下ろした拓人は、部屋全体を見渡した。
壁にはNEVERのポスターやカレンダー。
本棚にはNEVERのCDやDVDやTAKUの写真集。
NEVERやTAKUのグッズがたくさん並んでいて、それを見て拓人はだんだん恥ずかしくなってきた。
「どうしたの?」
桃華が不思議そうに拓人の様子を窺う。
「いや、俺らがいっぱい居て……その、なんか恥ずかしい……」
桃華は周りのポスターやらのことについて言われたことに気づき、頬を真っ赤に染めてうつむいた。
「……すみません」
「いや、すげぇ嬉しい……」
「えっ? 良かった……」
拓人の言葉に、桃華はホッと胸を撫で下ろしたようだった。
「私、拓人さんのこと、デビューした時からずっと好きで……お部屋拓人さんだらけなんです」
桃華は、少し照れているような笑みを浮かべて言った。
「……桃華ちゃんが好きなのは拓人じゃなくてTAKUだろ?」
「……えっ!?」
「……TAKUの俺と拓人の俺とどっちが好き?」
拓人は、桃華の困惑した反応に何気なく発した言葉の意味に気づき、後悔した。
「ごめん……何でもねぇよ」
ごまかすように桃華に微笑んだ。
ふと拓人が顔を上げると、部屋の隅に置かれていたほこりがかった電子ピアノに目が留まる。
「桃華ちゃん、ピアノ弾くの?」
拓人は話をそらした。
「小さい頃少しだけ習ってたの……でも、結局全然弾けるようにならなかったんだ」
「そっか……少し借りていい?」
桃華は不思議そうに拓人を見つめる。
「桃華ちゃんの好きな曲歌ってやるよ」
「ほんとに!?」
桃華は目をキラキラと輝かせる。
拓人はマフラーと帽子と脱ぎ、TAKUの顔を覗かせた。
「桃華ちゃんのためだけのミニライブの開催! 他のメンバーは居ないけどね」
拓人は以前、桃華の病室に行った時、NEVERのライブツアーの特集を見てはため息をつく桃華の様子を見て知っていた。
電子ピアノの音色に乗せて、桃華のリクエストした曲を3曲程歌う。
桃華の部屋に電子ピアノを見つけたから突如思いついたミニライブだったが、桃華はかなり感動してくれたようだった。
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