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第2章
再会
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心地好い秋の気候は、次第に肌寒ささえも感じるようになっていた。
意外にもマメに桃華の部屋に足を運んでくれる拓人のおかげか、最近の桃華は体調もかなり安定してきていた。
今日も体調が良かった桃華は、毛糸のカーディガンを羽織り、病院の中庭で本を読んでいた。
「……あれ? もしかして桃華ちゃんじゃない?」
頭上から聞こえた声に、桃華は顔を上げる。
そこには桃華と同じくらいの歳の男の子が立っていた。
「僕のこと、分かる? 昔よく病院に入院してたとき一緒にお話したよね?」
「……ジュンくん?」
男の子はにっこりと微笑んで首を縦に振った。
「嬉しいなぁ~桃華ちゃんとまた会えるなんて! 久しぶりだね」
ジュンは桃華が小さい頃、桃華と同じ病気でこの病院に入院していた。
以前は入院の時期が重なることも多く、桃華とジュンはよく顔を合わせていたが、最近は桃華が入院してもジュンと会うことは全くなかった。
ジュンの方が病状が桃華より軽いので、調子良くやっているんだろうなと桃華は感じていた。
「本当、久しぶり。最近全く見かけなかったけど、元気にやってたの?」
「うん! 体調も安定してたから、ここ数年は家の近くの病院にかかってたんだ! でもちょっと無理しすぎちゃって……この有様だよ。桃華ちゃんは?」
「私は相変わらず入院してる時の方が多いかな。でも最近調子良いし、そろそろ退院出来るといいなって感じ」
「そっかぁ、桃華ちゃんも頑張ってるんだね」
ジュンは空を見上げた。
「私のこと、覚えててくれたんだね!」
「当たり前じゃん!」
ジュンはニコッと微笑んだ。
桃華が小さい頃、病室が近くになることの多かったジュンとは、お互いの病室を行き来して一緒に時間を過ごすことも多かった。
ジュンにはいつも優しくしてもらった記憶がある。
「そういえば、昔ジュンくんとよく病室抜け出して怒られたっけ……?」
「そうそう! 検査が恐くて2人で逃げ出したんだったよね!」
「あの後相当怒られたの今でも覚えてるよ。恐かったぁ」
「僕もだよ! なんか懐かしいなぁ。そうだ! あの時のことも覚えてる?」
「何々?」
しばらく2人は昔の思い出話に花を咲かせた。
あのお医者さん恐かったとか、あの看護師さん苦手だったとか、あの検査嫌いだったとか。
桃華もジュンも幼い頃に戻ったかのように仲良く楽しい時間を過ごした。
時間が過ぎるのを感じることもなく──。
「あれ……桃華ちゃん?」
しばらくして、また別の男性の声が響いた。
桃華が声が聞こえた方向を見ると、今となっては見慣れた人影があった。
「拓人さん!? あ、この前はすみません……その、可愛いお土産ありがとう」
「えっ!? ……桃華ちゃんの知り合い?」
ジュンが驚きの声を上げると、桃華はジュンににっこりと頷いた。
その様子を見て、拓人はためらいがちに口を開く。
「看護師さんにここに居るって聞いたから来てみたんだけど、なんだか邪魔しちゃたみたいだね……。その子、友達?」
「うん、この人はジュンくん。ジュンくんは私と同じ病気でね、昔病院に入院してた時に仲良くしてもらってたの。さっき偶然再会したんだ」
「そっか、良かったね」
拓人は素っ気なく返事を返すと、桃華の隣にいたジュンに軽く頭を下げた。
ジュンはスッと立って拓人の方へやって来てジ~っと拓人の顔を見つめた。
「何かな……? ジュンくん……?」
ジュンがあまりに拓人の顔を見つめるので、拓人は思わず口を開く。
「……もしかして、NEVERのTAKUさんですか?」
「え……」
拓人は仕事の時以外で外に出る時は、TAKUだと気づかれないように帽子を深く被り、淡い色のレンズのサングラスをかけている。
それを一瞬で見抜かれたので戸惑った。
拓人は仕方なく頷き、口の前で人差し指を立てて言った。
「良く分かったね。でも、俺がTAKUだってことは内緒にしてね!」
「本当に!? うん! 絶対内緒にします! 僕もファンだったんです! 桃華ちゃん、知り合いだったんだ! すごいね!!」
「えへへ」
桃華は嬉しそうに笑った。
楽しそうに話を弾ませる桃華とジュンを見て、拓人は自然と胸に沸き上がる切ない気持ちに耐え切れず、軽く挨拶をして2人に背を向けた。
それからも拓人は、時間を見つけては病院に立ち寄ったが、桃華はジュンと話していたり、ジュンが居なくても桃華が寝ていたり、診察中だったりで結局会えず仕舞いなことが続いた。
診察やらで会えなかったのは仕方ないにしても、桃華とジュンが2人で笑っている姿を見ると胸が締め付けられるような気持ちになった。
そんな時は、誰にも気づかれないようにそっと病院に背を向けるのだった。
(──今日もダメ、か……)
そして、拓人は今まで感じたことのない気持ちに包まれる。
腹立たしい気持ちと寂しいと思う気持ちとやり場のない不安。
(なんだよ、あのジュンって男……)
拓人は道端に転がっていた空き缶を思いっ切り蹴り飛ばす。
(でも、最近の俺がどうかしてるんだろうな……。桃華ちゃんの寂しさを紛らわしてくれる奴が現れたんだから、桃華ちゃんにとっては良いことのはずなのに……)
「訳わかんねぇ……」
拓人は小さく呟くと、蹴り飛ばした空き缶を拾い、近くにあったごみ箱に捨てた。
意外にもマメに桃華の部屋に足を運んでくれる拓人のおかげか、最近の桃華は体調もかなり安定してきていた。
今日も体調が良かった桃華は、毛糸のカーディガンを羽織り、病院の中庭で本を読んでいた。
「……あれ? もしかして桃華ちゃんじゃない?」
頭上から聞こえた声に、桃華は顔を上げる。
そこには桃華と同じくらいの歳の男の子が立っていた。
「僕のこと、分かる? 昔よく病院に入院してたとき一緒にお話したよね?」
「……ジュンくん?」
男の子はにっこりと微笑んで首を縦に振った。
「嬉しいなぁ~桃華ちゃんとまた会えるなんて! 久しぶりだね」
ジュンは桃華が小さい頃、桃華と同じ病気でこの病院に入院していた。
以前は入院の時期が重なることも多く、桃華とジュンはよく顔を合わせていたが、最近は桃華が入院してもジュンと会うことは全くなかった。
ジュンの方が病状が桃華より軽いので、調子良くやっているんだろうなと桃華は感じていた。
「本当、久しぶり。最近全く見かけなかったけど、元気にやってたの?」
「うん! 体調も安定してたから、ここ数年は家の近くの病院にかかってたんだ! でもちょっと無理しすぎちゃって……この有様だよ。桃華ちゃんは?」
「私は相変わらず入院してる時の方が多いかな。でも最近調子良いし、そろそろ退院出来るといいなって感じ」
「そっかぁ、桃華ちゃんも頑張ってるんだね」
ジュンは空を見上げた。
「私のこと、覚えててくれたんだね!」
「当たり前じゃん!」
ジュンはニコッと微笑んだ。
桃華が小さい頃、病室が近くになることの多かったジュンとは、お互いの病室を行き来して一緒に時間を過ごすことも多かった。
ジュンにはいつも優しくしてもらった記憶がある。
「そういえば、昔ジュンくんとよく病室抜け出して怒られたっけ……?」
「そうそう! 検査が恐くて2人で逃げ出したんだったよね!」
「あの後相当怒られたの今でも覚えてるよ。恐かったぁ」
「僕もだよ! なんか懐かしいなぁ。そうだ! あの時のことも覚えてる?」
「何々?」
しばらく2人は昔の思い出話に花を咲かせた。
あのお医者さん恐かったとか、あの看護師さん苦手だったとか、あの検査嫌いだったとか。
桃華もジュンも幼い頃に戻ったかのように仲良く楽しい時間を過ごした。
時間が過ぎるのを感じることもなく──。
「あれ……桃華ちゃん?」
しばらくして、また別の男性の声が響いた。
桃華が声が聞こえた方向を見ると、今となっては見慣れた人影があった。
「拓人さん!? あ、この前はすみません……その、可愛いお土産ありがとう」
「えっ!? ……桃華ちゃんの知り合い?」
ジュンが驚きの声を上げると、桃華はジュンににっこりと頷いた。
その様子を見て、拓人はためらいがちに口を開く。
「看護師さんにここに居るって聞いたから来てみたんだけど、なんだか邪魔しちゃたみたいだね……。その子、友達?」
「うん、この人はジュンくん。ジュンくんは私と同じ病気でね、昔病院に入院してた時に仲良くしてもらってたの。さっき偶然再会したんだ」
「そっか、良かったね」
拓人は素っ気なく返事を返すと、桃華の隣にいたジュンに軽く頭を下げた。
ジュンはスッと立って拓人の方へやって来てジ~っと拓人の顔を見つめた。
「何かな……? ジュンくん……?」
ジュンがあまりに拓人の顔を見つめるので、拓人は思わず口を開く。
「……もしかして、NEVERのTAKUさんですか?」
「え……」
拓人は仕事の時以外で外に出る時は、TAKUだと気づかれないように帽子を深く被り、淡い色のレンズのサングラスをかけている。
それを一瞬で見抜かれたので戸惑った。
拓人は仕方なく頷き、口の前で人差し指を立てて言った。
「良く分かったね。でも、俺がTAKUだってことは内緒にしてね!」
「本当に!? うん! 絶対内緒にします! 僕もファンだったんです! 桃華ちゃん、知り合いだったんだ! すごいね!!」
「えへへ」
桃華は嬉しそうに笑った。
楽しそうに話を弾ませる桃華とジュンを見て、拓人は自然と胸に沸き上がる切ない気持ちに耐え切れず、軽く挨拶をして2人に背を向けた。
それからも拓人は、時間を見つけては病院に立ち寄ったが、桃華はジュンと話していたり、ジュンが居なくても桃華が寝ていたり、診察中だったりで結局会えず仕舞いなことが続いた。
診察やらで会えなかったのは仕方ないにしても、桃華とジュンが2人で笑っている姿を見ると胸が締め付けられるような気持ちになった。
そんな時は、誰にも気づかれないようにそっと病院に背を向けるのだった。
(──今日もダメ、か……)
そして、拓人は今まで感じたことのない気持ちに包まれる。
腹立たしい気持ちと寂しいと思う気持ちとやり場のない不安。
(なんだよ、あのジュンって男……)
拓人は道端に転がっていた空き缶を思いっ切り蹴り飛ばす。
(でも、最近の俺がどうかしてるんだろうな……。桃華ちゃんの寂しさを紛らわしてくれる奴が現れたんだから、桃華ちゃんにとっては良いことのはずなのに……)
「訳わかんねぇ……」
拓人は小さく呟くと、蹴り飛ばした空き缶を拾い、近くにあったごみ箱に捨てた。
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