【旧版】桃色恋華

美和優希

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第2章

秋のライブツアー前に(2)

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「え!? 何それ! もしかして拓人、その子に気があるの?」

 ミカは信じられないと言わんばかりの表情で拓人を見た。


「別にそんなんじゃねぇよ」

 拓人は少し苛々した声色で答える。


「もうっ! なによ、拓人ったら! ミカがちょっとそういうこと言ったら機嫌悪くして!」


「せやで! ミカちゃんそんな拓人の気に障るようなこと言ってへんで! まさか図星とちゃうんか?」

 カイトが意地悪な目つきで拓人を見る。


「じゃあ……やっぱり?」

 静かに様子を窺っていたシンジまでもが口を開く。



 ──バンッ。


「そんなんじゃねぇっつってんだろ!!」


 拓人は両手で机を叩き立ち上がって大声で怒鳴った。


 室内は一瞬しーんとなる。


「ちょっと拓人! 落ち着けって!」

 ハルキは拓人を落ち着かせようと腕を掴む。


「冗談だよ、拓人! 拓人が誰かに恋とかないよねっ! ごめんごめんっ」

 ミカはいつもと違う拓人に動揺しているような言い方でそう言うと、追加の酒を入れにまた奥へ入って行った。


「拓人、らしくないぞ? 大丈夫か?」


「ハルキまでなんだよ! みんなしてからかいやがって……」


「拓人! 俺はそういうことを言ってるんじゃない! もう少し冷静になれよ!」


 ハルキの言葉に、拓人は無言のまま、ミカに出された追加の酒を一気に飲み干した。



「……ごめん」


 そして、落ち着きを取り戻した拓人は小さく呟くように言った。


「分かれば良いって! 明日から気持ち切り替えて頑張ろうな!」


「せやな! 明日からのライブツアー気合い入れて行くで~!!」


「おぅ! 絶対成功させような!」


 ハルキの一言で話題はライブツアーに向けられた。


「よっしゃ! 明日に備えて今日はここまでにするで!!」


「え? もう帰るんかよ!」

 カイトの言葉に、ヒロが不満そうに口を尖らせる。


「明日に響いたら困るやろ? ヒロがまだ飲みたいなら置いて帰るけど、明日遅刻したら承知せぇへんで?」


 カイトがヒロを脅すと、ヒロは渋々帰る準備をした。


「みんなありがとう! またツアー終わったら来てね!」


 ミカに見送られ5人は店を出た。


 家の近い拓人は、駅でみんなと別れた。


 NEVERは明日からライブツアーが控えている。


 真っ暗な空に手をかざす。


 絶対成功させるぞ──。


 拓人は強い意思を示した。


 目を閉じると不意に桃華の姿が浮かび、思わず目を開く。


(え……?)


 そして、ふとみんなに言われた言葉を思い出し、


「そんなんじゃねぇよ……」


 と小さな声で空に呟き歩き出した。


 家に着くと、明日に備えるために拓人は早く床につくことにした。







 ジリリリリリリリ──。


 けたたましく鳴り響く目覚まし時計。


 帰ってすぐに寝てしまった拓人は、一瞬にして朝がやってきたように感じる。


 昨日は控えめにしたつもりだったが、飲み過ぎたみたいで頭が重い。


 あまり気分もよくなかったので、軽くシャワーを浴びて事務所に向かった。




 事務所の前にはもうすでにツアー用の小型のバスが来ていた。


「TAKUさん、おはようございます。ツアー初日、秋晴れの良い天気で良かった良かった。皆さんもうお揃いですよ」

 松本は何故か朝から機嫌が良いようだ。


「拓人、遅いぞ! 早くこっち来て手伝えよ!」

 向こうでメンバーが最終点検をしているのが見えた。


 拓人はまだ詰め込まれてなかった衣装やらをバスに詰め込むのを手伝い、予定時間通りにバスは出発した。


 今回のツアーは、名古屋、大阪、広島、東京とを約1週間かけてまわる。


 NEVERにとって大きなイベントの1つである。


「TAKUさん、少し緊張されているようですね」

 隣の席に座っていた松本が口を開く。

「そうですか……?」

 拓人は知らず知らずのうちに力んでいたようだ。


「肩の力を抜いて、いつも通りのTAKUさんでいけば大丈夫ですよ」


 松本はTAKUを励まし、後ろのメンバー達を見る。

「彼等は、少し緊張感が足りなさすぎますがね」

 松本は苦笑した。


 拓人が後ろを振り返ると、他のメンバーはすでに大口を開けて寝ていた。


(確かに……緊張感ねぇ奴らだな)


 拓人も呆れ気味に笑った。

 同時に拓人の緊張も和らいだ。
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