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第2章
癒しの場所(2)
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その後も数日おきに拓人は来てくれた。
やっぱり忙しいみたいで、病室に挨拶程度の時間しか居ないことが多かった。
(拓人さんも疲れているだろうに、私のことを気にかけて、頻繁に足を運んでくれるなんて……)
はじめは本当にたまに会えたらいいなと思っていたのに、そんな拓人の優しさに桃華は幸せを感じていた。
拓人と桃華が出会って1ヶ月くらいが経ったある日のことだった。
「今日はこんなの作ってきたんだけど……」
拓人は鞄から小さな丸い容器を2つ取り出した。
「プリン?」
桃華は一瞬驚いたような表情をするが、申し訳なさそうな表情に変わる。
「大丈夫。食事制限のことは新井さんから聞いてるから。桃華ちゃん用のレシピで作ったんだ。気になると思ってプリンの成分書いてきたし」
拓人は1枚の紙を桃華に渡しながら言った。
そこには心臓病患者向けのプリンのレシピが書かれていた。
「えっ!? 私のためにわざわざ!?」
「ああ。量も多過ぎるといけねぇだろうから、一口サイズにしたんだ」
そう言って拓人は微笑んだ。
「これなら大丈夫です! どうもありがとう!」
桃華はレシピを一通り見て、喜びの声を上げる。
桃華はプリンを食べるなり更なる喜びに包まれた。
「わぁ~、すっごく美味しい! こんなに美味しいもの初めて食べるよ!」
「そうか、それなら良かった」
正直、拓人にとってそのプリンは味が薄すぎて微妙かなと思っていたので、桃華の喜ぶ姿を見て少し安心した。
「でも、私なんかのためにいっぱい時間使わせちゃって、ごめんなさい……」
桃華は空になった小さな容器を見つめながら言った。
「どうしたの? 急に」
拓人は心配そうに桃華を覗き込む。
「拓人さんすっごく忙しいのに……私のためにこんなにいろいろしてたら休む時間なんて無いでしょう? 身体、しんどくない?」
拓人はきょとんとした表情で桃華を見つめ、笑いながら答える。
「そんなこと心配してたんだ」
「だ、だって……」
桃華は拓人にそう抜かされ、うつむいてしまう。
「確かに身体はすげぇしんどいし、はじめはこんなに頻繁に会いに来るようになるとは思ってなかったよ」
拓人は桃華の様子を見て、ゆっくり話し出した。
「でも、俺が桃華ちゃんに会いたいんだ。なんて言うか癒されるんだよな」
桃華は真っ赤な顔を上げる。
「ええっ!?」
「だから、気にしないで? 迷惑ならやめるし」
桃華は首を横に振り
「迷惑なんかじゃないです……」
と小さな声で答えた。
「よかった」
桃華は拓人が微笑むのを見て、話し始める。
「私とても嬉しいんです。私って幼い頃から病院に入退院を繰り返してて、学校もあまり行くことができずにいたの。
だから、退院して学校に戻っても、物珍しさや同情心から近づいて来てくれる子たちは居るけど、ちやほやされるだけでこれといって仲良くしてもらった記憶もないし……。
だから、こうやって自分の病気を理解してくれようしてくれたり、自分のために何かしてくれたりっていう人って少なくて……だからすごく嬉しいの」
「そうか。どこにでも居るもんな、野次馬みたいな奴。なんか分からなくはないな」
「え?」
「桃華ちゃんと俺とでは状況って違うけどさ、良く似たことは感じたことある。
俺って昔良く学校で嫌がらせみたいなのされててさ、みんな俺のこと嫌なのかなって感じていた時期があったんだ。
でもな、歌手デビューが決まった頃からみんなにちやほやされるようになって、人って目立つものに群がるのかなって感じた。
でもやっぱりそういう奴らって興味本位でしかないから、結局仲良くはなれないんだよね」
(え……拓人さんでもそういう経験あるんだ。しかも嫌がらせを受けてたことがあったなんて……信じられない)
桃華が何て返していいか分からずに居ると、拓人は苦笑いを浮かべて口を開く。
「なんかごめんな。こんなこと言って欲しかった訳じゃねぇよな」
「そっ、そんなことないですっ! その……話してくれて嬉しかった」
「ありがとう。なんか俺の方が話聞いてもらっちゃったみたいだな」
「そんなっ! 私の方がいつも聞いてもらってばかりなのに……」
「そうか?」
拓人が桃華を見つめるとお互いに目が合い、自然に笑みがこぼれる。
──桃華にとって、ついこの間まではテレビの向こうの世界の人だったTAKU。
今ではTAKUは拓人として忙しい中、桃華に会いに来てくれる。
それだけで贅沢なのに。
今ではこんな風に2人笑い合えるような仲になっている。
人との縁って不思議なものだなぁ、と桃華はしみじみ感じた。
気づくと外は夕焼けに染まっていた。
「ところで拓人さん、今日はお仕事は大丈夫なの?」
「ああ、今日昼から久しぶりにオフだったんだ。すっかり長居しちゃってごめんね」
「ううん、私こそせっかくのお休みなのにありがとう」
「次はツアー後になると思う。お土産楽しみにしてろよ」
拓人は笑顔でそう言うと病室を去った。
桃華は布団に潜り込み、しばらく拓人との回想に浸っていた。
やっぱり忙しいみたいで、病室に挨拶程度の時間しか居ないことが多かった。
(拓人さんも疲れているだろうに、私のことを気にかけて、頻繁に足を運んでくれるなんて……)
はじめは本当にたまに会えたらいいなと思っていたのに、そんな拓人の優しさに桃華は幸せを感じていた。
拓人と桃華が出会って1ヶ月くらいが経ったある日のことだった。
「今日はこんなの作ってきたんだけど……」
拓人は鞄から小さな丸い容器を2つ取り出した。
「プリン?」
桃華は一瞬驚いたような表情をするが、申し訳なさそうな表情に変わる。
「大丈夫。食事制限のことは新井さんから聞いてるから。桃華ちゃん用のレシピで作ったんだ。気になると思ってプリンの成分書いてきたし」
拓人は1枚の紙を桃華に渡しながら言った。
そこには心臓病患者向けのプリンのレシピが書かれていた。
「えっ!? 私のためにわざわざ!?」
「ああ。量も多過ぎるといけねぇだろうから、一口サイズにしたんだ」
そう言って拓人は微笑んだ。
「これなら大丈夫です! どうもありがとう!」
桃華はレシピを一通り見て、喜びの声を上げる。
桃華はプリンを食べるなり更なる喜びに包まれた。
「わぁ~、すっごく美味しい! こんなに美味しいもの初めて食べるよ!」
「そうか、それなら良かった」
正直、拓人にとってそのプリンは味が薄すぎて微妙かなと思っていたので、桃華の喜ぶ姿を見て少し安心した。
「でも、私なんかのためにいっぱい時間使わせちゃって、ごめんなさい……」
桃華は空になった小さな容器を見つめながら言った。
「どうしたの? 急に」
拓人は心配そうに桃華を覗き込む。
「拓人さんすっごく忙しいのに……私のためにこんなにいろいろしてたら休む時間なんて無いでしょう? 身体、しんどくない?」
拓人はきょとんとした表情で桃華を見つめ、笑いながら答える。
「そんなこと心配してたんだ」
「だ、だって……」
桃華は拓人にそう抜かされ、うつむいてしまう。
「確かに身体はすげぇしんどいし、はじめはこんなに頻繁に会いに来るようになるとは思ってなかったよ」
拓人は桃華の様子を見て、ゆっくり話し出した。
「でも、俺が桃華ちゃんに会いたいんだ。なんて言うか癒されるんだよな」
桃華は真っ赤な顔を上げる。
「ええっ!?」
「だから、気にしないで? 迷惑ならやめるし」
桃華は首を横に振り
「迷惑なんかじゃないです……」
と小さな声で答えた。
「よかった」
桃華は拓人が微笑むのを見て、話し始める。
「私とても嬉しいんです。私って幼い頃から病院に入退院を繰り返してて、学校もあまり行くことができずにいたの。
だから、退院して学校に戻っても、物珍しさや同情心から近づいて来てくれる子たちは居るけど、ちやほやされるだけでこれといって仲良くしてもらった記憶もないし……。
だから、こうやって自分の病気を理解してくれようしてくれたり、自分のために何かしてくれたりっていう人って少なくて……だからすごく嬉しいの」
「そうか。どこにでも居るもんな、野次馬みたいな奴。なんか分からなくはないな」
「え?」
「桃華ちゃんと俺とでは状況って違うけどさ、良く似たことは感じたことある。
俺って昔良く学校で嫌がらせみたいなのされててさ、みんな俺のこと嫌なのかなって感じていた時期があったんだ。
でもな、歌手デビューが決まった頃からみんなにちやほやされるようになって、人って目立つものに群がるのかなって感じた。
でもやっぱりそういう奴らって興味本位でしかないから、結局仲良くはなれないんだよね」
(え……拓人さんでもそういう経験あるんだ。しかも嫌がらせを受けてたことがあったなんて……信じられない)
桃華が何て返していいか分からずに居ると、拓人は苦笑いを浮かべて口を開く。
「なんかごめんな。こんなこと言って欲しかった訳じゃねぇよな」
「そっ、そんなことないですっ! その……話してくれて嬉しかった」
「ありがとう。なんか俺の方が話聞いてもらっちゃったみたいだな」
「そんなっ! 私の方がいつも聞いてもらってばかりなのに……」
「そうか?」
拓人が桃華を見つめるとお互いに目が合い、自然に笑みがこぼれる。
──桃華にとって、ついこの間まではテレビの向こうの世界の人だったTAKU。
今ではTAKUは拓人として忙しい中、桃華に会いに来てくれる。
それだけで贅沢なのに。
今ではこんな風に2人笑い合えるような仲になっている。
人との縁って不思議なものだなぁ、と桃華はしみじみ感じた。
気づくと外は夕焼けに染まっていた。
「ところで拓人さん、今日はお仕事は大丈夫なの?」
「ああ、今日昼から久しぶりにオフだったんだ。すっかり長居しちゃってごめんね」
「ううん、私こそせっかくのお休みなのにありがとう」
「次はツアー後になると思う。お土産楽しみにしてろよ」
拓人は笑顔でそう言うと病室を去った。
桃華は布団に潜り込み、しばらく拓人との回想に浸っていた。
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