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第2章
癒しの場所(1)
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拓人と桃華が出会って数日が経った。
未だにこの前の出来事が信じられない桃華は、ぼーっと病室のテレビでTAKUが歌っている姿を眺めていた。
『また、会いに来てもいいかな?』
桃華の頭の中に拓人の声が反響する。
もしかしたら、ただの同情からかも知れないが、あのTAKUとまた会えるかもしれないという事実に、桃華はそれだけで嬉しく感じていた。
(次はいつ会えるんだろう?)
満ち足りる心に思わず顔がほころぶ。
こんなに幸せを感じたのは何年ぶりだろう?
(でも本当にこのTAKUさんが……こんな私なんかにまた会いに来てくれるのかな……?)
幸せを感じたり、急に不安になったりと落ち着かない桃華は、そのまま布団の中に潜り込んだ。
今日の面会時間も終わりに近づいた頃だった。
──コンコン。
「白石さん、面会の方が見られました。今大丈夫ですか?」
病室の扉がノックされるとともに聞こえる看護師さんの声。
「はい」
(私に面会? 今日も家の人は仕事で来れないはず)
桃華が疑問に思っていると、看護師さんに誘導される形で、拓人が病室に姿を現した。
「こんにちは。調子はどう?」
「たっ、拓人さん!!」
桃華は動揺を隠せない。
(わわっ!? 拓人さんだ! ほんとに来てくれたんだ!!)
「そんな驚くなよ。また会いに来るって約束したろ? 今少しだけだけど時間取れたから寄ってみた」
「ごっ、ごめんなさい」
「これ、昨夜の歌番組?」
拓人は桃華の横で静かに流れるテレビの映像を見て尋ねる。
桃華はテレビを消し忘れていたことを思い出し、恥ずかしくてとっさにテレビを消そうとベッドを立つが、
「きゃぁっ!」
桃華はバランスを崩して倒れそうになる。
その瞬間、フワッとした感覚とともに、身体中に温もりが走る。
(……あ……れ?)
「危ねぇなぁ。急に動くから」
頭上でする拓人の声に顔を上げ、桃華は赤面した。
バランスを崩して倒れそうになった桃華を拓人が正面から抱き抱えてくれたのだ。
「わ、私ったら……ご、ごめんなさい……」
「あはは、構わないよ。ところでなんで急に飛び上がったの? あまり身体に良くないでしょ?」
「その、テレビ……見てたの見られて、恥ずかしかったから……」
拓人は優しく微笑んだ。
「なんだ、そんなことか」
(なんだ……とか言われちゃった……)
桃華は少し胸が痛んだ。
しかしそれも束の間──。
「そういうの嬉しいから、隠さなくていいよ」
そのままひょいっと桃華は持ち上げられ、ベッドの上に座らされた。
「あ……の……」
桃華は恥ずかしくて思わず言葉を口にする。
「どうした?」
「や、やっぱりなんでもないっ!!」
拓人が優しく聞いてくれたものの、続く言葉が見つからなくて、桃華が慌ててそう答えると、拓人はそんな桃華を見て突然笑い出した。
「わわっ! 何? 何!?」
桃華は何に笑われているのか分からなくて、今度はあたふたしだした。
「悪い悪い。だって桃華ちゃん俺がすることすることに過剰に反応して、なんかおもしろくてさ」
「そんなっ!?」
「なんか目が離せねぇな……」
拓人はそう小声で呟くと、桃華の頭をポンポンと撫でた。
桃華は驚いた表情で拓人を見る。
「えっ!?」
(今、何て言ったの!?)
「じゃあ今日はこの辺で。長居出来なくてごめんね」
拓人が帰ろうと帽子を被るのを見ながら、桃華は口を開く。
「また会える?」
「桃華ちゃんが嫌にならない限りはね」
拓人はそう答えると、淡い色のレンズのサングラスをかけ、手を振りながら病室を出て行った。
拓人と入れ違いのように看護師さんが夕食を持って来てくれた。
「桃華ちゃん、夜ご飯持って来たよ」
「あっ! ありがとうございますっ!」
看護師さんが備え付けのテーブルに夕食を置くと、興味津々な笑顔を向ける。
「桃華ちゃん、さっきのかっこいい男性、もしかして彼氏?」
「そんなんじゃないですよ!! 最近できたお友達です!」
桃華がTAKUと会っていることは、この病院内では新井と桃華しか知らない。
周りの人もまさかこんなところにTAKUが来ていると思ってないので、誰も気づいていないようだった。
「えぇーそうなんだぁ! どこで知り合ったの? 私達看護師の間でもNEVERのTAKUに雰囲気が似てるってさっきからその話題で持ち切りだよ~! ほらっ! 髪の色とかそっくりだし!」
(TAKUに似てるって拓人さんはTAKUだもんっ!!)
そんな風に思って桃華は笑みを漏らした。
そして「えへへ、秘密っ!!」とだけ答えた。
「なんだぁ~残念……でも最近、桃華ちゃんの雰囲気明るくなって良かったわ! きっと彼のおかげね!」
看護師さんはそう言うと、桃華の病室を出て行った。
改めて病室に1人になると、拓人が触れた部分がほんのりと熱をもっていることに気づき、桃華は頬を赤く染める。
(次はいつ来てくれるのかな……)
再びそんな期待を胸に抱き、桃華は夕食を食べた。
桃華の食べる献立は、心臓の病気による食事制限から塩分等が控えめに作られている。
そのため、日頃は特別美味しく感じることはなかったが、今日の夕食は不思議と美味しく感じた。
未だにこの前の出来事が信じられない桃華は、ぼーっと病室のテレビでTAKUが歌っている姿を眺めていた。
『また、会いに来てもいいかな?』
桃華の頭の中に拓人の声が反響する。
もしかしたら、ただの同情からかも知れないが、あのTAKUとまた会えるかもしれないという事実に、桃華はそれだけで嬉しく感じていた。
(次はいつ会えるんだろう?)
満ち足りる心に思わず顔がほころぶ。
こんなに幸せを感じたのは何年ぶりだろう?
(でも本当にこのTAKUさんが……こんな私なんかにまた会いに来てくれるのかな……?)
幸せを感じたり、急に不安になったりと落ち着かない桃華は、そのまま布団の中に潜り込んだ。
今日の面会時間も終わりに近づいた頃だった。
──コンコン。
「白石さん、面会の方が見られました。今大丈夫ですか?」
病室の扉がノックされるとともに聞こえる看護師さんの声。
「はい」
(私に面会? 今日も家の人は仕事で来れないはず)
桃華が疑問に思っていると、看護師さんに誘導される形で、拓人が病室に姿を現した。
「こんにちは。調子はどう?」
「たっ、拓人さん!!」
桃華は動揺を隠せない。
(わわっ!? 拓人さんだ! ほんとに来てくれたんだ!!)
「そんな驚くなよ。また会いに来るって約束したろ? 今少しだけだけど時間取れたから寄ってみた」
「ごっ、ごめんなさい」
「これ、昨夜の歌番組?」
拓人は桃華の横で静かに流れるテレビの映像を見て尋ねる。
桃華はテレビを消し忘れていたことを思い出し、恥ずかしくてとっさにテレビを消そうとベッドを立つが、
「きゃぁっ!」
桃華はバランスを崩して倒れそうになる。
その瞬間、フワッとした感覚とともに、身体中に温もりが走る。
(……あ……れ?)
「危ねぇなぁ。急に動くから」
頭上でする拓人の声に顔を上げ、桃華は赤面した。
バランスを崩して倒れそうになった桃華を拓人が正面から抱き抱えてくれたのだ。
「わ、私ったら……ご、ごめんなさい……」
「あはは、構わないよ。ところでなんで急に飛び上がったの? あまり身体に良くないでしょ?」
「その、テレビ……見てたの見られて、恥ずかしかったから……」
拓人は優しく微笑んだ。
「なんだ、そんなことか」
(なんだ……とか言われちゃった……)
桃華は少し胸が痛んだ。
しかしそれも束の間──。
「そういうの嬉しいから、隠さなくていいよ」
そのままひょいっと桃華は持ち上げられ、ベッドの上に座らされた。
「あ……の……」
桃華は恥ずかしくて思わず言葉を口にする。
「どうした?」
「や、やっぱりなんでもないっ!!」
拓人が優しく聞いてくれたものの、続く言葉が見つからなくて、桃華が慌ててそう答えると、拓人はそんな桃華を見て突然笑い出した。
「わわっ! 何? 何!?」
桃華は何に笑われているのか分からなくて、今度はあたふたしだした。
「悪い悪い。だって桃華ちゃん俺がすることすることに過剰に反応して、なんかおもしろくてさ」
「そんなっ!?」
「なんか目が離せねぇな……」
拓人はそう小声で呟くと、桃華の頭をポンポンと撫でた。
桃華は驚いた表情で拓人を見る。
「えっ!?」
(今、何て言ったの!?)
「じゃあ今日はこの辺で。長居出来なくてごめんね」
拓人が帰ろうと帽子を被るのを見ながら、桃華は口を開く。
「また会える?」
「桃華ちゃんが嫌にならない限りはね」
拓人はそう答えると、淡い色のレンズのサングラスをかけ、手を振りながら病室を出て行った。
拓人と入れ違いのように看護師さんが夕食を持って来てくれた。
「桃華ちゃん、夜ご飯持って来たよ」
「あっ! ありがとうございますっ!」
看護師さんが備え付けのテーブルに夕食を置くと、興味津々な笑顔を向ける。
「桃華ちゃん、さっきのかっこいい男性、もしかして彼氏?」
「そんなんじゃないですよ!! 最近できたお友達です!」
桃華がTAKUと会っていることは、この病院内では新井と桃華しか知らない。
周りの人もまさかこんなところにTAKUが来ていると思ってないので、誰も気づいていないようだった。
「えぇーそうなんだぁ! どこで知り合ったの? 私達看護師の間でもNEVERのTAKUに雰囲気が似てるってさっきからその話題で持ち切りだよ~! ほらっ! 髪の色とかそっくりだし!」
(TAKUに似てるって拓人さんはTAKUだもんっ!!)
そんな風に思って桃華は笑みを漏らした。
そして「えへへ、秘密っ!!」とだけ答えた。
「なんだぁ~残念……でも最近、桃華ちゃんの雰囲気明るくなって良かったわ! きっと彼のおかげね!」
看護師さんはそう言うと、桃華の病室を出て行った。
改めて病室に1人になると、拓人が触れた部分がほんのりと熱をもっていることに気づき、桃華は頬を赤く染める。
(次はいつ来てくれるのかな……)
再びそんな期待を胸に抱き、桃華は夕食を食べた。
桃華の食べる献立は、心臓の病気による食事制限から塩分等が控えめに作られている。
そのため、日頃は特別美味しく感じることはなかったが、今日の夕食は不思議と美味しく感じた。
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