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第1章
出会い(1)
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(……この病院だな)
松本の言う通り病院は拓人の自宅から近かった。
これといって大きな病気にかかったことのない拓人にとって病院はほとんど無縁の存在だったため、少し緊張する。
慣れない病院の空気に触れながら、拓人はボランティア団体の部屋に向かう。
他の人にTAKUの存在を気づかれたら厄介だから、拓人は外出時はいつも帽子を深く被り、淡い色のレンズのサングラスをしている。
帽子からはみ出すオレンジがかった明るい色の髪は、病院内では少し浮いているように感じた。
(確か、1階の突き当たり……)
それらしき看板の書かれた事務室の扉を見つけ、拓人は一呼吸おいてノックした。
「──失礼します」
拓人の姿を一目見ると、願い叶え隊の担当者の新井が飛んできた。
先週、拓人の事務所に挨拶に来ていた小太りの女性だ。
「TAKUさん、お忙しいところ本当にありがとうございます。これからお部屋に案内しますね。桃華ちゃん、朝から大喜びでしたよ」
「そうですか。俺で大丈夫なんですかね?」
「何言ってるんですか! そんなに固くならないで」
新井の勢いに拓人は戸惑いつつも、新井の誘導に従い病棟へ向かった。
「──こちらのお部屋になります」
白い扉には『白石 桃華』と書かれた標札がかけられていた。
──コンコン。
「願い叶え隊担当の新井です」
ノックされた扉の向こうから
「どうぞ」
と小さく声が聞こえ、扉を開ける。
「TAKUさんをお連れしました。また時間になったらお伺いしますので、それまで楽しんで下さい」
「はぁい。新井さん、どうもありがとうございます」
新井は拓人に
「よろしくお願いします」
と軽く頭を下げ、部屋を出て行った。
病室のベッドの上には、小柄で華奢な可愛らしい女の子がちょこんと座っていた。
淡いピンクのパジャマに身を包み、肌は白く病室の白さに溶け込んでいるようだった。
女の子は嬉しそうに微笑みながら拓人の方を見ている。
拓人はどうしていいか分からずしばらく立ったまま、彼女を見つめていた。
初めて仕事でステージに立った時以上の緊張が拓人を襲った。
不器用な手つきで身につけていた帽子とサングラスを取り、桃華と向き合った。
松本の言う通り病院は拓人の自宅から近かった。
これといって大きな病気にかかったことのない拓人にとって病院はほとんど無縁の存在だったため、少し緊張する。
慣れない病院の空気に触れながら、拓人はボランティア団体の部屋に向かう。
他の人にTAKUの存在を気づかれたら厄介だから、拓人は外出時はいつも帽子を深く被り、淡い色のレンズのサングラスをしている。
帽子からはみ出すオレンジがかった明るい色の髪は、病院内では少し浮いているように感じた。
(確か、1階の突き当たり……)
それらしき看板の書かれた事務室の扉を見つけ、拓人は一呼吸おいてノックした。
「──失礼します」
拓人の姿を一目見ると、願い叶え隊の担当者の新井が飛んできた。
先週、拓人の事務所に挨拶に来ていた小太りの女性だ。
「TAKUさん、お忙しいところ本当にありがとうございます。これからお部屋に案内しますね。桃華ちゃん、朝から大喜びでしたよ」
「そうですか。俺で大丈夫なんですかね?」
「何言ってるんですか! そんなに固くならないで」
新井の勢いに拓人は戸惑いつつも、新井の誘導に従い病棟へ向かった。
「──こちらのお部屋になります」
白い扉には『白石 桃華』と書かれた標札がかけられていた。
──コンコン。
「願い叶え隊担当の新井です」
ノックされた扉の向こうから
「どうぞ」
と小さく声が聞こえ、扉を開ける。
「TAKUさんをお連れしました。また時間になったらお伺いしますので、それまで楽しんで下さい」
「はぁい。新井さん、どうもありがとうございます」
新井は拓人に
「よろしくお願いします」
と軽く頭を下げ、部屋を出て行った。
病室のベッドの上には、小柄で華奢な可愛らしい女の子がちょこんと座っていた。
淡いピンクのパジャマに身を包み、肌は白く病室の白さに溶け込んでいるようだった。
女の子は嬉しそうに微笑みながら拓人の方を見ている。
拓人はどうしていいか分からずしばらく立ったまま、彼女を見つめていた。
初めて仕事でステージに立った時以上の緊張が拓人を襲った。
不器用な手つきで身につけていた帽子とサングラスを取り、桃華と向き合った。
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