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12*もう二度と、離さへんで

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「どうしたの?」


 追加にデザートでも注文するわけでもないのに、不思議に思って首をかしげる。



「まぁ、もうちょい待っとってや」


 だけど、こうちゃんはニッと笑って何も教えてくれない。



「何よ、さっきから! こうちゃんの秘密主義!」


 あたしがそう言ったところで、男性店員の声が頭上から響く。



「お待たせいたしました。ケーキセットでございます」


 ケーキ? そんなの頼んだっけ?

 そう思っている間に、目の前に小さな可愛らしいケーキが何種類も乗った大皿が置かれる。



「注文は以上でよろしいでしょうか?」


 思わずケーキの盛り合わせに目を奪われていたあたしだけど、店員さんの声でハッと現実に引き戻される。



「……い、いえ」


 だ、だって、これ、頼んでないし……!

 そう思って口を開きかけたとき、あたしの声に被さるようにこうちゃんの声が聞こえた。



「はい、以上です。ありがとうございます」


「……えぇっ!?」


 店員さんは軽く一礼すると、あたしたちのテーブルを去っていった。

 一体、どういうこと!?



「ねぇ、こうちゃん。あたしたち、ケーキなんて頼んでたっけ?」


 相変わらず平然とした様子のこうちゃんに尋ねる。


 こうちゃんはあたしの言葉にクスッと笑うと、ケーキの乗った大皿の中央を指して口を開く。



「よく見てみ? これ、ちぃのやで?」


 え……? あたしの……?


 再びあたしの頭の中にハテナが飛び交う中、こうちゃんの指し示すところに目をやると……。


「あ……っ」


 そこには、『Happy Birthday Chisa!!』と書かれた、お誕生日プレートが付いていた。


「今日、誕生日やったやろ? やから、これは俺からちぃへのケーキや!」


「え、うそっ!? ありがとう、こうちゃん」


「サプライズ成功やな!」


 驚くあたしを見て、満足げにニッと笑うこうちゃん。


「夜はちぃの家でおばさんの手料理とケーキやろ? やから、俺は昼驚かせたろ思ってな」


 そう。夜はお母さんがこうちゃんも呼んで、三人でささやかな誕生日パーティーをすると聞かされている。


 嬉しいけど、昼も夜もケーキ食べて太っちゃうかもって思ったのはあたしだけの秘密。



「ほら、どんどん食べや? 別に俺は、ちぃなら太ってても構わへんし」


「ちょっ!」


 いかにもあたしの心を見透かしたような意地悪な発言に、心臓がドキリとする。

 きっとあたしがなかなか食べ始めないからなんだろうけど……。


「食べへんのやったら、俺が食べてまうで」


 そう言って、フォークを手にとって意地悪く笑うこうちゃん。


「待ってよ、食べるって! 食べるから!」


 この些細なやり取りさえ、幸せだなと感じる。


 あの幼なじみのこうちゃんが、またあたしの隣に戻ってきて、こうして同じ時間を過ごせてるんだもん。


 ねぇ、こうちゃん。

 こうちゃんは、あの幼い頃のこと、どこまで覚えてる?


 今日こそ、あとでちょっと探りを入れてみよう。


 やっぱり忘れられてたら辛いけど。


 例え忘れられていたところで、今、こうちゃんがあたしの隣に居てくれてることに、変わりはないから──。



 オムライス屋さんを出たら、近くのショッピング街でウィンドウショッピングをして、ゲームセンターに行った。



「すごいね! こうちゃん上手い!」


 ゲームセンターに入って30分もしないうちに、あたしの腕には大きな白いうさぎのぬいぐるみが抱き抱えられていた。


 他にも、こうちゃんの提げるゲームセンターのビニール袋には数個のぬいぐるみも入っている。



「こういった類いのものは得意やねん。他にもほしいものがあったら取ったるで?」


 ゲームセンターに入ったきっかけは、ウィンドウショッピングの途中、あたしが今抱き抱えてる白いうさぎのぬいぐるみを気に入ったことから。


 あれ、可愛い! とか、いいなー! って言ったら、こうちゃん、次々と取ってくれるんだもん。



「さすがにもういいかな。たくさんあっても、部屋に入りきらなくなっちゃうし。たくさん、ありがとね」


「それもそうやな。ちぃの部屋がぬいぐるみだらけになって、寝る場所がなくなってしもたら大変やもんな」


 寝る場所がなくなるって……。

 確かに、頼めばそれだけの量をこうちゃんは取ってきそうだから怖い。


「ほな、出よか。ちぃは、他に行きたいところないか?」


「え、うん」


 ウィンドウショッピングもゲームセンターも、結局はあたしが行きたいからという理由で付き合ってもらってた。


 それほど都会でもないあたしたちの住む街は、水族館とか遊園地といったデートスポットの定番といえる場所は近くにないし……。


 行くとして、ボウリングとかカラオケになるのかな? と少し考えてみたとき──。



「そうか。もしないなら、ひとつ、ちぃに付き合ってほしい場所があるねん」


「うん、いいよ」


 こうちゃんがあたしに付き合ってほしい場所?

 それって、どこだろう?


 ワクワクと頭の中でそんなことを考えながら、こうちゃんの手に引かれるまま、あたしはこうちゃんのあとに続いた。




 駅周辺の賑やかな街並みが、だんだんと見慣れた住宅街へと変わっていく。


 こっちの方は、民家ばかりで何もないと思うんだけど……。


「ねぇこうちゃん、どこに向かってるの?」


 だけど、そう聞いてもこうちゃんは決して教えてくれそうにない。


「着いてからのお楽しみや。もうちょい歩いたら着くから」


 あたしたちの家の前も通り過ぎ、いつもはあまり来ない団地内へと入る。


 こっちの方に来るのは久しぶりだな。

 小さい頃は、こっちには大きな公園があったからよく来てたけど……。


 その小さい頃よく来てた公園とは、あのこうちゃんと結婚の約束をした公園。



 その頃のことに思いを馳せているうちに、気づいたときにはあたしの目の前にその思い出の場所が広がっていた。
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