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10*甘いケーキと告白

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「うわ、予想はしてたけど、えらい量残しとるなぁ」


 翌日、あたしの家に来るなり、こうちゃんはあたしのまっさらな課題に目を通してそう言った。


 ……っていうか、予想はしてたけど、って。


 どれだけあたしは出来ない奴だと思われているんだろう?


 まぁ、実際そうだから文句は言えないんだけどね。



「とりあえず、ちぃのだーい好きな国語からいくか」


「え、」


 大好きじゃない! むしろ大嫌いだし!!


 だけどそれもわかってて、ニタリと笑いながらあたしの国語の課題の冊子を広げてくれるこうちゃんは、優しいけどやっぱり意地悪だ。



「うぐぐぐぐ……」


 どのくらい国語の課題の冊子と向き合っていただろう?


 元々少し進めていたのと、こうちゃんの監視がついてるのもあって現代文の範囲は終わった。


 だけど、古典の範囲に入った途端にこれだ。



「何や? 新手の怪獣の我慢の奇声か?」


「だあああああぁーっ!」


「うわ、今度はなんやねん!」


 突然叫び出したあたしに、こうちゃんは目をぎょっとさせた。



「だって、わかんないんだもん!!」


 あたしの悲痛の叫びも、軽やかにスルーするこうちゃん。


 こうちゃんはわかってて言ってるんだ。


 あたしがこの目の前の課題の問題につまずいてるのがわかってて……。



「何さ! どうせこうちゃんはこの問題の答え、わかってるんでしょ!? 勿体ぶらないで教えてよ!」


 その方が早く終わるし、こうちゃんもあたしの勉強から解放されるしで、一石二鳥じゃん!


 そう叫んでこうちゃんを涙目で見上げるも、不意に近づくこうちゃんの顔!


 え、え……。


 鼻が触れ合いそうなくらいに接近してくるこうちゃんに、思わず身構える。


 しかし、もう近すぎて無理っていうところで目をつむったものの、こうちゃんの顔はそれ以上近づいて来ることはなかった。

 疑問に思ってこうちゃんの顔を恐る恐る見ると、ニタリと笑うこうちゃんの顔がドアップで映る。



 そして……。


「あ・か・ん!」


 と間近であたしに向かってきっぱりと言うと、すぐにこうちゃんはあたしから顔を離した。



「答え写すだけやったらわざわざ俺が居てる意味ないやんか! それに、わからんなりに努力することを覚えな、ちぃのためにならへんやろ?」


 厳しいけど、こうちゃんらしい返事だ。


 こうちゃんは、次の瞬間にはあたしの勉強机の近くに持ってきた折りたたみのタイプの椅子に座って自分の課題の冊子を眺めている。


 前から何となく思ってたけど、この前のテストで学年三位に入るくらいだし、実はこうちゃんって勉強が趣味なんじゃ……。


 そこで少し視線をこちらに向けたこうちゃんとバチっと目が合って、思わず肩がびくりと震える。



「何や? もしかして、さっきの期待しとったん?」


「へ……?」


 さっきの……?

 不意に投げかけられた問いに、目をパチクリさせる。


 そうしているうちに、こうちゃんはさっきあたしにしたように、再びあたしの顔に顔を近づけてくる。


 だけどさっきとの違いは、その顔が近づいてくる速度は緩むことがなさそうだということだ。



 キ、キスされる……!?


 そう思って、思わず再び目をつむってしまったあたし。

 そんなあたしの唇に、ふわりと何かが触れた。



 それと同時に聞こえる、笑いを押し殺したような声。



 ゆっくりと目を開くと、あたしの唇にこうちゃんの指が添えられていた。


「……えっ!?」


 な、何? さっきのは、何だったの? 




「まさか、ほんまにキスすると思った?」


 あたしが戸惑いを隠せない中、こうちゃんはおかしそうに説明してくれる。


「今のは俺の指や! 安心せぇ!」


 よっぽど笑いが止まらないのか、ケラケラと笑いながら、こうちゃんはあたしの頭に手を置いた。



「もう! からかわないでよ、バカ!」


「ちぃが全然集中せぇへんからやろ!? お仕置きや! 次は、ほんまにチューしたるからな?」


「…………っ!」


 な、何よ! 何さ!

 キ、キスだなんて、こうちゃんは誰とでもそういうことできるのかな!?


 前も、一回されたことあるし……。


 つかみどころのないこうちゃんの気持ちにイライラする。


 あたしはそのイライラを課題の冊子にぶつけるように、問題文を睨み付けた。



 あたしが真面目に課題と向き合うと、やっぱりこうちゃんは身を乗り出してあたしの課題を覗き込んで


「ここの考え方は、こうやなくて……」

 と優しく説明しては、


「もっぺんこの辺から読み直してみ?」


 ところどころポイントとなる点を優しく教えてくれた。



 そうして、古典の問題も3分の1くらい進んだところで、あたしの部屋のドアがコンコンとノックされた。


「どうぞー」とあたしの返事を聞くなり入ってきたのは、お母さんだ。


「差し入れ、持ってきたわよ~! 光樹くんも、貴重な時間を千紗のためにごめんなさいね」


「いえ、このくらい大したことないですよ。こちらこそ、いつもお世話になってるんで」


「あらあら、そんな気にしなくていいのよ~! また今日もうちで夕飯食べて帰ってね」



 お母さんはこうちゃんにそう言うと、あたしたちが使ってる勉強机ではなく、ガラスのローテーブルの方にケーキとコーヒーの乗ったお盆を置く。


「邪魔になったらいけないから、こっちに置いとくわね! ケーキどれがいいか迷っちゃったから、適当に二つチョイスしたから仲良く分けて食べるのよ」


 お母さんはニコニコと機嫌良くそう言うと「じゃ、頑張ってね!」と部屋を出ていった。


「ほな、キリもいいし、休憩しよか!」


 パタンと自分の国語の課題の冊子を閉じたこうちゃんに続いて、あたしも自分の冊子を閉じる。
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